花城が…俺の彼女。

考えただけで頭の中がフワフワする。

「おい御幸。」

…俺を現実に引き戻す倉持の低い声。
いや、でも花城と付き合ってるのも現実…。

「…なに気持ちわりー顔してんだよ。」
「え?」

やばい。ニヤけが止まらない。俺の顔を怪訝そうに睨んで、倉持はポケットに手を突っ込んだ。

「部活行かねーのか?」
「あ、うん…いや、先行ってて。」
「はあ?」

倉持はジロジロと俺を窺うように見、チッ、と舌打ちをし、教室を出て行った。

ちょっと花城の顔見てから行こ…。

そんなふうに考えながら席を立った時。

「速水ー、今日どーする」
「あ!行く行く」
「お?今日はあの子はいいのか〜?」
「ははは…いいから!」

友達と教室を出ていく速水に気を取られた。
そーだ…速水どうしよう。花城と付き合い出したこと、俺から言うべき…?いずれはバレることだけど…まだ付き合い始めたばっかで、堂々と宣言するのも何だかなあ…。
そういや付き合ってること、周りに言っていいかどうか花城の気持ちも聞いてないし…。
花城はモテるし、俺も一応有名人…だから、周りが騒ぐのは想像がつく。あいつ、そういうの嫌がりそうだしなあ…。


***


「今日司と約束してるんだけど」

花城に会いにいくと、ちょっと迷惑そうに言われた。

「いや俺も部活あるよ。」
「あ、なんだ。」
「つーか言い方冷たくね?それが彼氏への態度?」
「ごめん。で、何か用?」

まじか…。冷めてるにも程があるぞ…。
付き合って1日目の会話か?これ。

「俺の彼女冷たすぎる…」
「な、なんなの?」
「いや帰る前に会いにきただけじゃん。会いたかったんだよ。悪いかよ。」
「え…」

花城は目を丸くして瞬き、顔を赤くした。

「それは…すみません」
「いいけどさ。じゃ、鷹野と楽しんで。」
「あ…」

どさくさに花城の頭をぽんとして、踵を返す。
花城は俺を見上げた。

「ま、待って。」

ぴたり。反射的に俺の足は止まる。
花城に呼び止められるなんて、心臓が跳ねる。

「…何?」
「連絡先教えて。そういえば知らないと思って…」
「あ…」

そうだ。すっかり忘れてた。
俺は苦笑して、花城にメールアドレスと電話場を教えた。

「そっちのはメールで送っといて。じゃ、もう部活行くから」
「あ…うん。」

頑張って。と、花城が微笑む。
おう、と手を挙げて、俺は弾む足取りで昇降口へと向かった。


***


「お前なんか今日変じゃねえ?」

練習が終わり、夕食時に倉持が俺をジロリと睨みながら言った。

「え?どこが?」
「顔に締まりがねぇ。」
「はい?」
「まあアホ面はいつものことだけどよ…」
「酷くね?」
「なんかあったろ。」

ぎくり…ほんとこいつ変なとこ鋭いんだよな。

「いや別に?」

今このタイミングで花城のこと言うのは…碌な展開にならない気がするからナシ。
隠すつもりはないし、いつかはバレるだろうけど…

「俺も思ってた。今日の御幸、なんかいつもと違うなって」

思いがけず、ノリが参加してきた。だよな?と身を乗り出す倉持。

「…違うって何が。」
「いや、なんか…言語化するのは難しいけど。」
「なんだよそれ。」
「なんか浮かれた顔してるよな。」

そう横槍を入れてきたのは麻生。
だよな!?と、倉持が勢いづいた。

「いやいや…意味わかんねえから」
「春大前の主将とは思えねー腑抜けたツラだぜ」
「なんかいいことでもあったの?」

倉持を宥めるような穏やかな口調で、食器を片付けながらナベちゃんが言う。

「いいこと…。」


『御幸先輩が…好き』


「あっ!コイツにやけてんぞ」
「やっぱなんかあっただろ!吐け!」
「ちょ…うるさい」

俺は食事をかきこみ、倉持たちから逃れて食堂を出た。危ない…付き合って1日目で浮かれが顔に出てバレるなんてダサすぎだろ。
宣言するのは、もっとちゃんと軌道に乗ってから…なんて。

携帯電話を開くと、花城からメールが来ていた。

花城光です。という、淡々とした件名。
メールアドレスと電話番号が書かれた、そっけない本文。

それなのにこんなに胸が温かくなる。

俺は衝動のままに、その電話番号を押した。

発信中、という画面の少し後、通話中画面に切り替わり、俺は慌てて携帯電話を耳に充てる。

「…はい」

耳元に聞こえる甘い声。
じんわりと胸がくすぐったくなる。

「あ…もしもし。俺だけど」
「…はい」
「メールきてたから、かけてみた」
「…はい」

相変わらずつれない。気難しい猫みたいだ。

「今…何してた?」
「今?…お風呂入ってた」
「風呂…」

花城の…風呂。
…って、何を想像してんだ、俺は…。

「あ、そー…」
「先輩は?」
「俺は夕飯食ってきたとこ」
「ふうん…」
「なあ、今度の土曜日さ…」

俺は今日、ちょっと考えていたことを思い切って口に出した。

「俺…午後空いてるから、一緒にどっか行かない?」
「え…」

知らなかった。
デートに誘うのが、こんなにも緊張するということ。

「…いいけど…。」

どくん、と心臓が跳ねる。付き合って初めてのデート。どこに行こうか…やっぱ無難に新宿?

「じゃ…詳しいことは後でメールで」
「うん」

またな、おやすみ、と言い合って、電話を切る。静寂が耳に響いた。
早く明日になってほしい。

花城に会いたい。

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