翌朝登校すると、友達と談笑していた速水がその輪から離れ、近づいてきた。
席に着く俺のところまで来て、速水はツッと机に触れる。

「御幸。」
「…ん?」

少しの気まずさを感じながら速水の表情を窺う。速水も気まずそうな…というか、どこか沈痛の色を滲ませながら、口元には無理をした笑みを浮かべていて、俺はまさかと思った。

「…おめでと。」

そしてその言葉で…速水の少し赤い目尻を見て、確信した。花城とのこと…知ったんだ。

「昨日メールで聞いてさ。」
「…そーなんだ」

言葉を失ったままの俺に、速水は空元気の笑顔で言った。

「…じゃ。」

速水はそう言って、友達の輪に戻って行った。
ごめんと…言うのも違うし。ありがとうと言うのも…とにかく、咄嗟に何も言えなかった。
後少し遅ければ、失恋していたのは俺の方…。
速水のあの目…。昨日泣いた…んだろうな。
なのに俺に、おめでとうとわざわざ伝えにくるなんて。
よくできた、いい奴なんだよなあ…あいつ。


***


「速水に言ったんだ?」

休み時間、校舎裏で花城と会う。
花城は今日も天使のような眼差しで俺を見上げる。

「うん、昨日メールで…土曜日誘われたから」
「ああ…」

そりゃ言うわな。言わざるを得ない流れだわな。

「ダメだった?」
「いや?全然。」
「……。」

俺はすぐに首を横に振ったけど、花城はまだ疑わしげに俺の顔を窺う。

「なんだよ?」
「べつに…」

なんなんだ。まだ花城の考えてることがわからない。

「…土曜日どこ行くの?」

花城はつま先で小石を突きながら言う。機嫌が悪いように見えるのは気のせいか?

「ああ…それなんだけど…」

昨夜、俺はめちゃくちゃ考えた。花城とのデートプラン。半日しかないし、仕送りもらってる高校生の身としてはあまり金もかけられない。
だけど絶対、特別な日にしたい。

「花見でも行かない?」

花城は頬を薔薇色に染めた。

「…いいよ。」

ああ、俺、ホントに花城と付き合ってるんだな…。

「じゃ…家の近くまで迎えに行くよ」
「…うん」
「練習終わって昼飯食ってからだから…2時。」
「…わかった」
「歩きやすいカッコで来いよ。」
「…うん」
「あと…寒いかもしれないからあったかくして」
「親ですか?」

花城が俺を睨んでツッコみ、小さく噴き出した。確かに過保護だな、俺。普段、沢村と降谷のバカコンビから目が離せないからつい…。

予鈴が鳴り、花城は足を踏み出す。

「あ…じゃあね先輩。」
「おう」

去っていく後ろ姿を見て、胸が焦れる。
そろそろ…名前で呼びてえな。

それと…

今度のデートでは…手を繋ぎたい。

…頑張ろう。

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