目的の駅に着き、俺たちは電車を降りて駅を出た。
目的地はすぐそこだ。
川沿いの遊歩道に並ぶ、咲き誇る桜の花。まだ満開とはいかないが、壮観だ。
「わぁ…綺麗ですね」
そう微笑む花城の、その笑顔の方が俺は…。
「どうかしました?」
「あ…いや、行くか。」
油断するとすぐ見惚れちまう…。美人は3日で慣れるなんて言われてるけど、花城に慣れる日はくるのか?
遊歩道を歩き始めた。周りにはカップルが多い。
でも、俺の隣にもこんな…可愛い彼女がいる。
道ゆく奴らがみんな花城を振り返って見るのがわかる。
やばいな。花城可愛すぎるだろ。この中で一番…いや、世界で一番。
「先輩。」
そんな可愛い女の子が、俺を好きだと言って、こうして一緒にいてくれる。
「一緒に写真撮ろ。」
「え…、ああ、うん」
花城がスマホを掲げて、俺は隣に並んだ。桜の花が映るように、花城がスマホの角度を調整する。その画面の中を追いかけて、俺は少し花城に近づく。
近い…。甘い香り…。
背中に手とか回したら…怒られるかな。
ーーパシャッ
シャッター音が響き、花城は撮った写真を確認する。
「先輩全然笑ってないじゃん」
「はいチーズくらい言えよ」
「じゃもう一回」
花城がまたスマホを掲げた。俺はまた花城に近づく。今度はさっきよりも、大胆に。
「はい、チー…」
勇気を出して、花城の背中に、そっと触れた。
「…ズ」
パシャッ、とシャッター音が響く。花城は俺の顔を一瞬窺って、撮った写真を確認する。
「よく撮れてんじゃん」
「…うん」
照れたのか?花城の頬が赤い。怒ってはいないようで安堵した。それに…ちょっと距離が近づいた気がして、嬉しい。
「先輩の携帯でも撮る?」
「いや…俺はいいや。」
ガラケーの画質なんてたかが知れてるし。
「後でそれ送ってよ。」
「…うん」
また歩き出して、俺はポケットの中に突っ込んだ手を落ち着かなく動かした。
手…どうやって繋ぐかな。
やっぱさりげなく、パッと繋いじゃう?
…手なんて繋いだことないから失敗しそう。
それともストレートに、手繋ごうって言っちゃう?
…恥ずかしがって拒否られそう。
「…先輩、桜見てる?」
「…見てる、見てる」
本当はそれどころじゃない。
花城と手を繋ぎたい…。
もっと簡単に花城に触れたい。
触れたくてたまらない。
彼女ができたら、あんなことやこんなこと…好き勝手にできると思ってた。でも全然違う。好き勝手になんかできない。そんな、気安く触れられない。
こんな大事な、可愛い彼女に…。
「…もう終わるけど、どうします?」
「え?」
…しまった。
目の前には遊歩道の終点。車両侵入禁止の無機質な柵が建てられ、その先には何の変哲もない道路。
桜を見ながらいい雰囲気で手を繋ごうと思ってたのに…!
「…もう一回戻るか」
「はい」
花城は踵を返し、来た道を戻り始める。その手は肩に提げたバッグの紐を握っている。
…さりげなく繋ぐのは不可能…。
「ねえ見て、美男美女カップル」
「ほんとだ〜」
突然、すれ違った大学生くらいの女子グループが俺たちを指差して言った。
「……。」
「……。」
反応しづれぇ…!!
でも…花城とお似合いみたいに思われるのは、かなり嬉しい。
「でも距離感的に違うかなあ?」
「兄妹かもよ」
「えーこんなデートスポットに兄妹で来る〜?」
「じゃー友達!…以上恋人未満!」
キャハハ、と明るい笑い声が響く。全部聞こえてんだが…。
「…ふふっ」
隣の花城が小さく笑った。その口元に当てられた小さな手に、俺は触れた。
驚いた花城の目を見つめ、その手を掴み、指を絡ませ…繋ぐ。
きゃあ、と後ろから悲鳴が上がった。
「やっぱカップルじゃん!」
「あはは」
女子グループは盛り上がりながら歩いて行く。
「……。」
花城は何も言わず、かすかに、指先に力を入れて…俺の手を握り返した。
手…繋げた。
よし…!
でも…手汗やばいかも。
花城の手、柔らかくて小さくて…何でこんな、触り心地がいいんだ…!?男の手と全然違う…。
手が熱い…。
俺たちは何も言わず、しばらく桜の木の下を歩いた。俺はこのまましばらく、時が止まってほしい…と思った。
その時、花城が立ち止まり、手すりに触れて川を見つめた。俺もその隣に並んで、しばし手すりにもたれ、手を繋いだまま時間を過ごした。
花城もしばらくこうしていたいと…そう思ってくれてるような気がして、俺は胸がくすぐったくなった。