夕方日が暮れる前に、花城を家まで送る。
今まではあの交差点までしか送らせてもらえなかったけど…もう彼氏なんだし、家の前まで許してくれるよな…?
でも、親に見られるの嫌だって言ってたしなあ…。
「…先輩?」
花城が足を止め、いつのまにかいつもの交差点についたことに気がついた。本当、花城と過ごす時間はあっという間に過ぎてしまう。
「…家まで、送っていい?」
熱くなる顔でそう尋ねると、花城は唇を舐めて顔を赤くし、小さく頷いた。
「…うん」
一時停止の線から踏み出す。初めて…この線を越えられる。
「親に見られるの、まだ嫌?」
俺は全然、花城の親に知られたっていい。むしろ堂々と挨拶したい。気が早いかもしれないけど…コソコソしたくないし、花城を大切にするつもりだから。
「別に…。」
花城は恥ずかしそうにつぶやいて、そして、ポツリと言った。
「ていうか今日…親いないし…」
…え?
「……。」
静かに歩き続ける花城。俺はグルグルと思考が巡る。
……え?
…いやいや!親がいないって言われたくらいで、そんな…。花城はそんなつもりじゃねーだろ、さすがに。まだ付き合い始めたばっかだぞ…!
「そ…そーなんだ」
「……。」
何だこの沈黙は…!!
「…私の家…あそこです」
突然、花城が前方を指さした。前方には家が何軒か立ち並ぶなか、大きな煉瓦の塀に囲まれた豪邸も見える。
「え…どの家?」
「あの煉瓦の」
「…え?」
ケロッと言う花城に俺は思考が停止する。
その煉瓦の豪邸は、どう見ても、大金持ちの家…。
前もフランスに行ったとか聞いたとき思ったけど…
花城ってやっぱお嬢様だったのか…!?
「…豪邸だな」
「そんなことないですよ」
言いながら、煉瓦の塀の門につけられた電子ロックキーの番号を入力する花城。こんなのがあるのは間違いなく豪邸だろ…!!
「じゃあ…先輩」
花城が名残惜しそうに俺を見上げるから、俺も急に離れがたくなる。
次にデートできるのはいつだろう…。学校では会えるけど、人目があるし…。
あー、俺、我慢できんのかな…。
花城に触れたい。
「…うん」
花城の手を取って、ぎゅっと握った。
「…あの…」
花城は困惑したような、迷うような目で俺を見て、顔を赤くする。
「……。」
そのまましばらく何も言えずに、俺たちは手を握り合ったまま佇んだ。
離れたくない…帰したくない。けど、流石にまだそういうことは…。
「…あ、あの、帰ります…」
急に花城が逃げるように手を引っ込め、門扉を開いた。
「…じゃあ…」
「…うん」
そして俺を見つめ、門の向こうに入って行く。
…あー、すごくもどかしい…。
花城が足りない…。
離れたくなかった…。
俺はゆっくりと踵を返し、帰途に着いた。
…しかし、あんなお嬢様だったとは…。ちょっと自信無くすぜ…。
***
「速水ー、最近あの子のとこ行かないじゃん」
「え?あー…」
月曜日、教室で速水と友達が話す声が聞こえた。速水…俺と花城のことは誰にも話してないみたいだ。
「いいんだよ、もう…前フラれたし。吹っ切れた!」
「えー、お似合いだと思うけどなー」
「いい感じだと思ってたのに…」
「全然、全然!俺がしつこくしてただけだからさ」
速水…、お前、何ていい奴なんだ。
いい奴すぎるぞ。
自分を悪く言ってまで俺のことを伏せてくれるとは…。
「おい、お前土曜日どこ行ってたんだよ」
速水の聖人ぶりに感動している最中、悪魔のような悪い顔をした倉持が俺の視界に入ってきた。
「別にいいじゃんそんなの…」
「よくねえ!なんかお前がめかし込んで出掛けてくの見たって沢村から聞いてんだぞ!」
「めかし込んではねーよ」
「いつもスウェットかジャージのお前がチノパン履いてたって!」
「そのくらいで騒ぐなよ。」
「髪もセットしてたって!」
…うぜえ。
「私用だよ私用。ほっとけ」
「ふざけんな怪しいぞテメー!」
めんどくせえな〜…。バレると大騒ぎになりそうだから黙ってるけど、もう周りに言っちまった方が楽なのか?いっそ…。