「御幸せんぱ〜い」
含みのある嫌な声がして、俺は恐る恐る振り向いた。思った通り…ニヤニヤ顔の鷹野が無音の拍手をしながらコソコソ近づいてくるところだった。
「おめでとうございま〜す」
「え、あ〜…おう」
「もしかして私キューピッドですかぁ?」
「…その節はどーも」
癪に障るが鷹野の言葉が後押しになったのも確かだし、それ以前に、こいつには何かと花城と会う機会を作ってもらってきたからな…。
「なんでまたここにいんの?」
「こっちに部室があるんですよぉ」
「へー」
素朴な疑問が解けたところで立ち去ろうとするも、鷹野が口を開いた。
「で、あのこと隠してるんですかぁ?」
あのこと…とは、花城と付き合い始めたことだろうと、伏せられていてもわかった。
「隠してるわけじゃないけど」
「じゃなんで言わないんですか?」
「騒がれそうだし」
「はあ〜?」
鷹野は一歩間違えば変顔になるくらい顔を歪めて俺を睨みつけた。
「フリーのままだと思われてるとまだまだ狙う男子いっぱいいるだろうなぁ〜」
「……。」
「速水先輩は正々堂々としてたけどなぁ〜」
ぐうの音も出ない…。
「なんだよ…」
「いや別に?私は光がよければそれでいいので〜」
「なら…」
「先週も今日もラブレター貰ってたけど、私には関係ないしなぁ〜」
「…は!?」
俺が慌てた声を出すと、鷹野は思惑通りとばかりにニヤリと笑った。
「ファイト〜、か・れ・し♡」
「う…うるせーな」
***
「俺はやっぱダントツ花城さん!」
クラスで男子たちが盛り上がっている…。
俺はスコアブックに視線を落としながら、そっと耳を傾ける。そう、花城…モテるんだよなぁ…。男避けのために、やっぱり周りに公表すべきか…。
「殿堂入りだよな〜可愛すぎる」
「学校でナンバーワンだろ」
「他校でも噂になってるらしいよ」
「スカウトされてるとこ見た奴もいるって」
「スカウト!?あー、でも、花城さんなら驚かない」
「まっじで美女だもんな」
その噂…全部本当なんだよなぁ…
彼氏としては心配が尽きない。
「同じクラスの奴が羨ましいぜ〜」
「うちのクラスはな〜…」
「バカお前殺されるぞw」
「はあ?」
男子たちの声は教室中に響いていたため、それまで呆れた顔をして聴いていた女子たちが反応した。
「なんだよ、誰もお前のこと言ってないけど。」
「あー、もうバカな男子ばっかで嫌になる」
「ほんとほんと、自分の顔も大したことないのに偉そーに人のこと言って」
「こっちからしたら眼中にないよねぇ〜」
「ブスが僻んでるわ」
おいおい、そのワードは地雷だろ…。
俺は巻き込まれたくないのでひたすら黙って空気に徹することにした。
「バッカじゃないの。あんたみたいなダサ男の好みなんてどーでもいいわ」
「そーそー。御幸君を見習ったらぁ?」
「御幸君みたいなイケメンはあんたらみたいなしょーもないこと言わないから。」
ぎくり。
な、何で急に俺を巻き込むんだよ…!!
ちら、と横目で見ると、俺を指差す女子と頷く女子集団、それと対峙する口惜しげな男子集団。
「ね!?御幸君!!」
こ…ここは聞いてなかったフリを…
「…どうしたの?」
そのとき教室に入ってきた速水。男子達が一斉に速水を味方につけようと取り囲んだ。
「女どもがうるせーんだよ」
「花城さんのこと僻んでさ」
「はあ?全然違うし」
「あんたらが自分の顔棚に上げて人の顔の評価なんかしてるからでしょ!」
「速水君をくだらないことに巻き込まないでよ」
「あはは…よくわからないけど」
速水は苦笑してみんなを見渡した。
「どーせお前らがなんか余計なこと言ったんだろー」
「ちょ…オイ速水〜俺らの味方じゃないのかよ」
「さすが速水君!よくわかってるー」
「やっぱイケメンは心もイケメンだわ〜」
「うちのクラスの男子、御幸君と速水君だけでいいよね〜」
さすが速水は人望がある…。この騒ぎを一瞬で収めてしまうとは。
俺はほっとして視線を前に戻した。
…不満げな顔の倉持と目が合った。
「何で俺も何も言ってねーのにお前だけ株が上がるんだよ」
「知らねーよ…」