「なあ、明日の試合さ…」
春休みに入り、明日はさっそく春の選抜第1回戦。
俺は夜の風呂上がりに、人気のない川原の土手で光と電話をしていた。
「あ、はい。司とうちで一緒にテレビで見ますよ」
「いやうん…それもいいんだけど…」
遠慮をしてか、光は鷹野とテレビで観戦すると言っていた。だけど…
「もしよかったら…会場に来ない?」
「え?なんで?」
なんでって…。
「ちょっとでも顔見たい…から?」
「……。」
勇気を出してそんなことを言ってみても、帰ってくるのは無言。照れてるのか?
「…でも、皆いるんじゃ?」
そう、会場で会えば部員たちの注目の的になることは必至。去年も光が来たときは麻生たちが大騒ぎしてたし…。
「だからこそっていうか…」
「え?」
「光が良ければだけど。俺は…光と付き合ってること、周りに言いたいから。」
「……。」
…また沈黙。俺、結構勇気出してんだけどなあ。
「…からかわれたり…されるの嫌なんじゃないの?」
「だから、ちがうって。そうじゃなくて…付き合ったばっかで、周りが騒いで、光と気まずくなったりしたらさ…なんつーか、自信がなかっただけ」
「……うん」
「でも光はモテるし…俺と付き合ってること周りが知らなかったら、チャンスがあると思う奴もいるだろ。そういうのも困るだろうし…っていうか、俺が困るんだけど…」
「……。」
「…正直それも理由」
ふふ、と、電話の向こうで小さく光が笑う声が聞こえた気がした。
「だからさ…どう?明日」
光は小さく息をのんで、静かな声で言った。
「じゃあ…行く。」
その言葉だけで、俺の胸はどきどきと踊り始める。
「司が大丈夫だったら。」
「…うん」
そう、これが光。近づいたと思ったらツンとそっけない。猫みたいな天邪鬼。
だけどそんなところが、どうしようもなく可愛い。
***
春の選抜第一回戦を終え、勝利を収めて活気づく青道メンバー。
みんな帰る準備をしながら、応援に来た家族や友達と会話を交わす部員もいる。
その中で俺は光の姿を探していた。
光…来たのかな。
「何きょろきょろしてんだお前?」
「別に…。」
倉持に訝し気ににらまれ、俺は顔をそむける。光、来なかったのかなー…。
光が来ているかもと思って実は試合中もはりきってたんだけど…。
「…あれ!?」
突然倉持が驚きの声を上げ、どこかへ向かって駆け出した。
「ど…どーも!…あ!東条の応援?」
「あ、いや、あの…」
倉持が駆け寄った先にいたのは…光。春らしい青いブラウスに爽やかなショートパンツ姿で、このフロアにいる全員の注目を浴びて輝いている。光は一緒に来たらしい鷹野に困ったような視線を送って、きょろきょろと周りを見渡し、俺を見つけるとあっと小さく口を開いた。その顔はふわりと赤く染まり、どうしようもなく可愛くて…。
俺は荷物をその場に降ろし、光に歩み寄った。
「あ…。」
光がそう小さくつぶやいたので、倉持は不思議そうにこっちを振り返った。そしておそらく赤くなっている俺の顔を見て、倉持は何かを察したように固まった。
「よぉ…。」
光の前まで行ってそう声をかける。光は恥ずかしそうにうつむく。気づけば、周りも静まり返って俺たちに注目していた。
…ここまで注目浴びるとはさすがに思ってなかった。
「来てくれたんだ。」
「…うん。」
「ありがとう。」
「……。」
そんなぎこちない会話を交わす俺と光を、鷹野は垂れ切った目でニヤニヤと見つめ、倉持はそんな鷹野の反応を見て確信を得たように、まさか、という目で俺を凝視する。
「鷹野もありがとうな。急だったのに」
「え?いえいえ〜私は…。」
鷹野はいつもの調子でおちゃらけて、お二人でどうぞ、と手を差し出して退いていく。
「…え?なに?ど、どういうこと?」
倉持が狼狽えてそう聞いてきて、周りの部員たちも固唾をのんで成り行きをうかがっているのが伝わってきた。
「なにが?」
「い、いや、なんで、そんな、なんか…。」
倉持の目が泳いで俺と光を見る。周りから見ても、俺たちの関係がいつもと違うとわかるらしい。それはちょっと気恥ずかしくて、だけどうれしい。
「あー…、俺たち…」
光を見た。上目遣いで俺を見つめ、頬を赤くして俺の言葉を待っている。
「…付き合ってるから」
ひゃあ、と鷹野が満面の笑みで息をのむ。そのほかの奴らは、全員……
「…はあああああ!!?」
「ちょっと待て!!嘘だろ!!?」
「え!?どーいうこと!?何!?」
「なんで!?いつから!!!?」
「えっ、誰と誰が?」
「マジ?えっ?」
「嘘だあああ!!!嘘だと言ってくれええええ!!!!!」
「うるせえ…」
想像以上の大騒ぎ…。苦笑する俺の隣で、光は目を丸くして固まっている。
「おい光が怖がってんだろ。大声出すなよ」
「呼び捨て!!!???」
「えっまじなの?いつから?」
「嘘だよね花城さん!!?」
「おい…」
部員たちに取り囲まれた光は肩をすくめ、顔を引きつらせる。
「ほ、ほんと…。です…。」
光のその言葉を聞いて、詰め寄った部員たちはいっせいに床の上に頽れ屍となった。
「すご〜。死屍累々ってこのこと?」
鷹野がケラケラ笑っている。
俺は屍の山を見渡し、光を見る。困ったように笑う光は、皆がショックを受けるのも理解できるほどキレイで、可愛くて。ごまかしきれない優越感が、そっと俺の胸をくすぐった。