「まーたお前と同じクラスかよ!!」
最悪だ!!と喚く倉持の隣で、俺は貼り出されたクラス名簿を眺める。
速水とは…違うクラスだ。ちょっとほっとした。
「おいいつまで見てんだよ、どーせ友達いねーんだからテメェのクラスがわかりゃあいいだろ」
「お前と一緒にしないでくれる?」
「アァ!?事実だろーが!」
「相変わらず仲いいねーあの二人」
「いつも一緒だもんね」
新しい教室につくと、自分の席を確認し、席に着く。後ろの席は去年も同じクラスだった男子で、よろしく、と軽くあいさつをされた。
俺が荷物を机にしまっていると、前の席に、ドサッ、と乱暴に荷物を下ろした男子がいた。
浅く焼けた肌、カラスの羽みたいに真っ黒な艶のある黒髪。切れ長の目と釣り上がった太い眉は意志の強さを感じさせ、引結ばれた唇と相まって頑固そうにも見える。
体格も良く、緩く結んだネクタイにブレザーはだらしなく前を開けて着ているから、粗野な男臭さはあるが男の俺でも整った顔をしていると思う。
見覚えがない奴だ。1年、2年と違うクラスで、接点もなかった奴だ。俺はちらりと黒板を見て、そいつの席に書かれた名前を確認する。
間宮傑。その名前には少し聞き覚えがあった。確か変わり者だと噂になってたような。
「…えっ!あそこ、間宮くんと御幸くん前後の席なの!?」
「やばっ!眼福なんだけど〜」
…近くで女子が盛り上がってる。なんで女子ってこう、周りを気にせず…本人に聞こえてることも気にせずに騒げるんだ。
その声が聞こえたのか、間宮がチラッと俺を見た。俺は気まずくならないよう慎重に視線を逸らし、席に座った。
「御幸一也?」
…だが間宮は構わず俺の前に立ち、そう声をかけてきた。意外と社交的な奴なのか…?
「…そうだけど」
野球の関係で、俺は知らなくても相手から知られていて、こうして声をかけられることはよくある。だから俺はさほど気にせずに頷いた。開きかけたスコアブックを閉じて。
「じゃあ、お前が花城さんと付き合ってんの?」
「え…」
…いきなり光の名前が出てきて虚をつかれた。野球部には春休みの間に知れ渡ってるけど…もう学校でも広まってんのか?
「…まあ、そうだけど」
「ふーん…」
間宮は不躾に俺をジロジロと見つめる。その視線で分かった。自分に向けられている敵意。こいつも光のことが好きだった男の一人か?
「大したことねぇな。」
フッ、と勝ち誇った笑みを浮かべ、間宮は言った。
不覚にもポカンと言葉を失った俺をよそに、間宮はけたたましい音を立てて椅子を引き、どかっと座って前を向いた。
な…なんだこいつ。
くそウゼェ…!!!
***
「先輩。」
つんつん、と俺の背中をつつく感触。そして愛おしい甘い声。
「おっ、なんでいんの?」
「移動教室。」
振り向く前から顔のにやけていた俺を、光が愛くるしい笑顔で見上げていた。少し後ろで鷹野もぺこりと会釈をしている。
「お前らまた同じクラス?」
「で〜す」
「先輩は?ここのクラス?」
「ああ。まーた倉持と同じクラス」
「仲良いんだし、よかったじゃん」
いや、仲よくねーけど、と笑う俺に光は笑みを返し、鷹野を振り返る。
「じゃあね、先輩…」
そしてそう言って、2人が立ち去ろうとした時。
バタバタとけたたましい足音が近づいてきた。
「花城さんっ!!うおー!!ラッキー!!会えた!!」
びっくりして目を丸くした光に駆け寄ってきたのは間宮。俺と光の間に割り込むようにして、気安く光の手に触れた。
「花城さんクラスどこ!?会いに行くから教えて!」
「え…あの…」
光は引き攣った顔で肩をすくめ、俺に助けを求める視線を送ってくる。その後ろで、鷹野がなんとかしろという圧のある視線を俺に送ってもくる…。
「…おい間宮…やめろよ困ってんだろ」
軽く肩を掴んで言うと、間宮は俺を振り向いてフッと笑い、光の手を意外にもあっけなく、ぱっと離した。
「不合格。」
「…は?」
そして間宮から告げられた突然の不合格に、俺は目を点にした。
「彼氏ならもっとバシッと言えよ。やっぱ大したことねぇな〜…みゆきちゃんは」
「……。」
鷹野が勢いよく噴き出すのを横目に、俺はただただ言葉を失った。
なんだこいつ。
なんだこいつ。
なんなんだよこいつは!!
「じゃーね花城さん♡」
間宮は光にヒラヒラと手を振り、お友達もまたね〜、と鷹野にも手を振って、飄々と教室に入って行った。今の…俺を試したとでも言うのか?
「間宮先輩、相変わらず面白〜い」
ケラケラ笑う鷹野の様子を見るに、間宮のことは前から知っていそうで、それはきっと去年光に言い寄っていたからだろう…とすぐに推察できた。
「御幸先輩、間宮先輩と同じクラスなんですかあ?」
「あぁ…」
「え〜!気まずっ!きゃはは」
「……。」
相変わらず人の事を面白がりやがって…。
しかし、面倒クセェ奴と同じクラスになっちまった…。