不安なような、期待していたようなクラス替えの結果は…花城とは違うクラス。
安心したような、ガッカリしたような。
拍子抜けするほど平穏で平凡な2年生が始まった。

花城とはまだ、会ってない。
気まずく思ってるのは俺の方だけかもしれないけど…

御幸先輩と付き合ってることを知ったあの日以降、それまで時々していたメールも、どちらからも送っていない。

今は休み時間。窓際で小湊と狩場が喋ってる。そこに加わろうかと一瞬考えたけど、やっぱりジュースでも買いに行こうかと教室を出た。

「あっ!東条せんぱーい!」

と、すぐに俺を呼ぶ声がして、声のした方を反射的に見て…どきりとした。

俺を呼んだのは瀬戸。その隣には奥村。そして向かい合って立っているのは…花城。
こんな形で会うことになるなんて。どうしよう。呼ばれた手前、立ち去るのは不自然だし…。

「あ…、瀬戸、奥村。何してんの?」
「光先輩に会いにきたんですー!」

瀬戸は無邪気に笑って言ったあと、俺にだけ聞こえるように声を顰めた。

「先輩の言ってた通り、めっちゃ美人でびっくりしました!」
「え、あはは…」

ぎくりとして、顔が熱くなる。花城は俺をチラリと見て、奥村を見上げた。

「あ…そっか、こうちゃん野球部だもんね」

奥村は静かに頷く。
こうちゃん…って呼んでるのか。意外…。
奥ゆかしい花城がそう呼んでいるのも、クールな奥村がそう呼ばれているのも…。なんだか微笑ましい。というか…羨ましい。

「で、どうしたの?2年生の教室まで来て」

花城は落ち着いた態度で奥村に尋ねる。なんか、こうして見ると姉と弟みたいだ。

「…確認したいことがあって」

奥村はじっと花城を見つめ返して言った。よ…よく花城を真正面から見つめられるなぁ…。俺だったら照れて絶対に無理だ…。
まあ…親戚だもんな、奥村にとって花城は家族みたいなもんなんだろう。

「確認したいこと?」

目を瞬く花城に、奥村は真剣な顔で言った。

「三年の御幸一也先輩と付き合ってるって本当?」
「え…」

その奥村の真剣な目は、家族…というより、嫉妬した恋人…に近いような気が、しなくもないような…。
花城はポカンと口を開けて、みるみる顔を真っ赤にした。

「な、な、なんで、何言って…」
「…本当なの?」
「そ…、そうだけど…」

花城はもう、見ていると胸が苦しくなるくらいに照れくさそうに、その喜びを隠しきれない様子ではにかんで頷いた。
赤い唇を引き結び、頬は薔薇色に色づき、大きな目は潤んで。
それは目が離せないくらいに、可愛くて…。

「……な…なんで…」

つい見惚れてしまった俺と瀬戸とは反対に、奥村は力が抜けた様子で顔を白くし、ふらりと壁に手をついた。

「な…なに?」

魂の抜けてしまった奥村に困った様子で、花城が瀬戸と俺の顔を見比べる。

「す、すいません!おい光舟!もうチャイムなるから戻るぞー!」

はっと我に帰った瀬戸が俺と花城にすいませんでした!と言い、奥村を引きずって去って行く。
その場に花城と残されて、俺は今更緊張した。

「…面白い奴らだな」

俺がそう沈黙を破ると、花城は驚いたように俺を見上げ、安堵したように微笑んだ。

「…うん」

その笑顔を見て、よかった、と俺も思う。
気まずくなってない…よな。

「奥村と親戚なんだって?」
「あ…うん。」
「この前聞いて、びっくりしたよ」
「ふふふ。」
「あ…花城、E組?」
「うん。東条は…」
「俺はA組。」
「そっか…離れちゃったね。」

ドキッとした。花城に他意はないことはわかっているけど…

「…だな。残念!」

俺がふざけた調子で言うと、花城はコロコロ笑う。
よかった。普通に話せてる。

俺は心の中でこっそりと、瀬戸たちに感謝した。

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