「なぁ今からでも俺にしときなって!あんな女々しい奴やめてさ」
「はあ…」
廊下で光が間宮に言い寄られているのを見つけ、俺は苛立ちを覚えた。
「おーい、何してんの?」
ズカズカ近づきながらそう声をかけると、二人は一斉に俺を振り返った。笑みを浮かべる光と、顔を歪ませる間宮。
「げっ、邪魔者が来た」
「……。」
邪魔者はテメーだろうが。
「じゃー花城さん、考えといて!」
「えっ、いや…」
顔を引き攣らせた光をよそに、間宮は勝手に満足げに言い残して逃げて行った。
「…何アイツ?」
「先輩、同じクラスでしょ?」
「そうだけど…今年同じクラスになるまでアイツのこと知らなかったし」
「ふーん…」
「前からあんな感じ?」
俺の問いに、光はうーんと首を傾げた。
「最近よく来るんだよね」
「タチわりぃな」
俺というものがいる事を知ってて、以前よりも言い寄るようになったというのか。なんなんだ。人の女を奪うのが趣味とか?
「相手にすんなよ。」
「え?」
俺が忠告すると、光はおかしそうに笑う。
「おい。真面目に。」
「わかってるよ。当たり前でしょ。ふふ」
光のその余裕のあるからかうような笑みに、俺ばかりが必死で焦っている気がして、ちょっと悔しくなった。
***
「…じゃ、ミーティングは以上。なんか質問ある?」
夜、3年の中心メンバーとのミーティングを終えて、内心早く光と電話でもしたいなーなんて考えながら澄ました顔でそう言うと、倉持や麻生など何名かが意味ありげな白けた目で視線をかわしたのを見た。
「…?」
何か言いたいことがあるのか、と思ったが、誰も何も言わないので、俺はメモ帳を閉じる。
「ないならこれで解散…」
「じゃ、ひとつ質問」
俺の言葉を遮って手を上げたのは倉持だった。
「何?」
「彼女とどこまでいったんだテメーは?」
「…は?」
俺は口角が引き攣った。何をふざけた事を、と言いかけて、倉持だけじゃなく麻生やゾノ、中田やノリ、白州までが真剣な顔で俺を睨んでいるのを見て一瞬言葉を失った。
「…ハイ解散」
「待てやゴルァ!!吐くまで逃さねーぞ御幸ィ!!」
「主将のくせに裏でこそこそ彼女作りやがって!!」
「花城さんは皆のアイドルだぞコラァ!!」
俺は倉持たちに行く手を阻まれ逃げるタイミングを失ってしまった。なんでこんな必死なんだこいつら。
「お前らに関係ねーだろ…」
「いいから大人しく吐けや!!」
「あっ!待てまさか…」
俺に詰め寄る奴らの中で、倉持が急にニヤリと態度を変えて声を顰めた。
「コイツもしやまだキスすらしてなくて何も言えないんじゃねぇのかぁ〜?」
ヒャハハハ、と癪に触る倉持の笑い声が響き、俺は閉口した。
そりゃ…図星だけど!!こいつら自分のことは棚に上げて人を馬鹿にしやがって。
でもここで挑発に乗って口を滑らせたらコイツの思う壺だ。
「…まるで自分はしたことあるみてーな言い方だな」
「…アァ!?」
ボソリと俺が放った言葉に、倉持は顔を真っ赤にした。
「まだ彼女すらできたことねーくせに…くっくっく」
「このクソ眼鏡マジでぶっ殺…、!!」
「じゃ、彼女♡と約束あるからお先〜♡」
「待てやゴルァ御幸ィ!!!」
俺は男どもを押し退けて食堂から逃げ出した。
たとえ光とそういうことをしたとしても…あいつらに言うわけがない。
それに…
あんな天使みたいな光に、そう簡単にいかがわしいことできるわけねーだろ…!!あの笑顔を前にしてみろっての。アイツらマジで何もわかってない。
光がどんなに特別で大切な存在か…。
俺は光を大事に、大事にしたい。