002

太陽が山の上に差し掛かった頃、島が見えてきた。その砂浜を見ると、人々は驚愕した。砂浜からその奥にある森の木々まで、すべてが色を失ったように真っ白だったのだ。

「この先は浅瀬なので、この大きな船ではこれ以上進めません。」

船頭から話を聞いてきたらしいチャーターが、フェンヌにそう報告した。

「では、私たちが先に小舟で島へ行く。お前たちはどこか船をつけられる場所を探して、待機してくれ。テントを張れそうな場所があったらのろしを上げる。」
「了解しました。」

早速フェンヌはカレン、トム、コールと共に小舟へ乗り込み、真っ白な砂浜へと漕ぎ出した。カレンとトムがふたりがかりで漕いでくれたが、波がないためそう苦労することもなく、小舟は水面を流れる花びらのようになだらかに浜辺へ滑り込み、ゆっくりと止まった。
4人は浅瀬に降り立ち、小舟を浜辺へ引き上げて、近くの木に縛り付けた。

「さて、ではどちらへ向かおうか?」

トムが気を取り直したように言って、空を見上げた。

「早く野営地を作らなければ、夜になってしまうな。」

カレンが同意するように言った。

「とりあえず、日が暮れてからの森は危険だ。丘の方へ向かおう。高い場所から、島を見ることもできるし」

フェンヌが提案すると、皆同意した。



丘はなだらかな上り坂が続き、白い土の地面には白い歯をつけた草や花が生い茂り、真っ白な芝生になっていた。それは奇妙な景色だった。

「裂け目の中を彷徨ったことを思い出すな」

トムが自嘲気味に呟いた。

「君はここにいる。ここは地上。天は上。死はまだ遠い。」
「そうかい、何を言っているのかさっぱりだが、死んだわけじゃないことは確かなようで安心したよ。」

コールの呟きに、トムがため息交じりに答えた。

しばらく進むと、白い芝生が真っ赤に染まった頃、広々とした平地にたどり着いた。

「ここに野営地を作れそうだな」

カレンが言い、のろしを準備し始める。

「探索は明日からにしよう。」
「ああ、それがいい。」

フェンヌが言うと、トムも頷いた。
のろしを上げると、完全に日が暮れる前には、小隊がやってきた。そしてなんとか、日が暮れる頃、全てのテントを設置することができた。

「今、偵察隊が付近を捜索しています。」

チャーターは生真面目にそう言って、部下にいろいろと指示を与えていた。

「なかなか様になっているでしょ。」

レリアナはどこか得意げに微笑んだ。

「ここに来るまで、島の様子はどうだった?」

レリアナがそう問うと、カレンが首をかしげた。

「静かなものだ。浜辺からこの丘までまっすぐ来たが、悪魔どころか、野生の動物すら見かけなかった。ただ、地面も植物も全て真っ白であるという事が奇妙だな。」
「そうね。こっちでも早速、この島の植物については調査をしているわ。何かわかったらすぐに知らせるわね。」

野営地の夜はふけていった。虫の鳴き声すら聞こえないこの島では、人々の寝息が聞こえそうなほどに静かな夜だった。




翌朝、フェンヌが目覚めてテントから出ると、朝日を受けたこの白い島は幻想的に青白く光っていた。しばしその光景に目を奪われていると、そっとカレンが傍にやってきた。

「美しいな。」
「ええ。」

他に言葉が思いつかないほど、それは神秘的な景色だった。


「この島は、『白い島』と呼ぶことにするわ。」

朝早く、皆を招集した場で、レリアナが宣言した。

「そのままだな。」

すかさずカレンが言った。それをレリアナがひと睨みして、気を取り直したように羊皮紙を広げた。

「簡単な付近の地図よ。夜のうちに密偵たちがおおまかに調べておいたわ。ここは川、ここは崖、ここは森で塞がれていて、これより先は調べていないわ。裂け目は、森の方角よ。」
「わかった、ありがとう。」

フェンヌは地図を受け取った。

「気を付けてね。」

レリアナたちに見送られ、フェンヌたちは明け方出発した。

「地図によると、川は広くて深いようだし、崖にも進めそうな場所はないようだし、森に入るしかないな。」
「裂け目もそちらの方角なのだろう。ちょうどいい。」

フェンヌが呟くと、トムが同意した。

何とも奇妙な森だった。木々も花も葉も雪のように白く、生気がない。それが何とも美しく、そして物悲しかった。

「不気味なほど静かだな。」
「ああ。生き物はいないのかもしれない。昨晩から思っていたが、この島、気温の変動もほとんどない。ずっと適温だ。野生動物もおらず、冷え込むこともないのでは、夜通し森を歩いても問題ないかもしれん。」

カレンとトムが呟いているのを聞きながら、フェンヌはふと森の違和感に気が付いた。真っ白な木々、さわさわと囁く葉の音。しかし――どの木の枝も、微動だにしていない。

「油断は招く。恐ろしいことを。あなたは悲しむ。彼女はいない。守りたくないものと出会い、守らなければならなくなる。また出会える時まで――」

コールがそう呟いた瞬間、パッと目の前に緑色の火花が散り、叫ぶ間もないまま、4人はその場から姿を消した。

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