ShortStory

梅雨空の贈り物



ジメジメしてても、やっぱり……。
一緒がいいね。








暑い。物凄く、暑い。
梅雨独特のジメジメした暑さ。
人間誰でもこの暑さは苦手だと思うんだけど……。

涼しげに佇む男がここに一人。


「睨まないでよ」
「……別に睨んでないよ」


睨んではいない。ただ、恨めしそうに見つめてるだけ。

あたしの彼氏であるこの男は、毎年この季節、いつも涼しげで。
このジメジメ感を全く感じさせない姿は、あたしに無いものだからか……少し苛立ってしまう。
暑いの苦手なくせに、何故かこういうのは滅法強いらしい。


「ねー!どっか涼しいトコ行こうよ!」
「何処行ってもこの鬱陶しい湿気はついて来るよ?」
「いーやーだー!涼しいトコーッ!」


空は灰色が一面。その上、今にも雨が降り出しそうな位雲が厚い。
今日の予報では夜から雨が降るって言ってたけど、そんなの全然嘘っぽい。


「ねー、何処か行こ?久々のデートだもん。あたし、二人きりになれる場所とか行きたいなぁ」


猫撫で声で周助に甘えてみる。
滅多にやらないこの甘え方は、あたしが言うのも何だけど、正直気持ち悪い。
周助も多分、心の中では心底気持ち悪いと思ってるハズだ。


「しょうがないな……。じゃ、僕の家で」
「周助の、家?」
「うん。クーラーあるから、この鬱陶しいジメジメ感と離れられるよ?」


嫌な予感が走る。でも、あたしが言い出した条件だけに、周助からのこのお誘いは流石に断れない。
(絶対断れないと思ってるんだろうけど)

結局、クーラーという響きに負けて、あたしは周助の家に向かうことにした。











「で、やっぱり目的はコレ?」
「そりゃあ……ね。僕だって一応健全な男子高校生だよ?」


周助の家に着き、部屋に行くと……。
何故か除湿が効いていて、部屋の中は超快適空間だった。

「涼しい!最高!」と部屋で伸びをしたのもつかの間、冷たい飲み物をいつの間にか持ってきていた周助が、飲み物を机の上に置いたかと思うと、後ろから抱きしめてきた。
あたしの心の中は既に諦めモードで。
やっぱり嫌な予感は当たるんだなぁ、なんて頭の中で繰り返してた。


「あれ?抵抗しないの?」
「いや、だって。しても意味ないし。デートだっていうのにクーラー付いてるし」
「部屋に来てもらう予定だったからタイマーで付けておいたんだけど……。まぁ、成り行き?」
「成り行きって何だ!」
「あはは、冗談だよ。雫の可愛い姿を久々に見たら、我慢の限界ってとこ」


こ、この男はさらりと平気な顔であたしの心臓を高鳴らせる。
恥ずかしさをごまかそうとしたら、無理矢理顔を横に向かせ、唇にキスを落とされた。

繰り返される熱いキス。
久々の感覚に、早くもあたしの足は自分の体重を支えるのが危うくなってくる。

あぁ……どうしてこうも、あたしはこの男に夢中なんだろう。
頭がおかしくなるぐらい……周助のことしか考えられない。


「可愛い。僕だけしか知らない雫のその表情……。すごく好きだよ」
「……ばか」


唇が離れれば直ぐさま甘い言葉が降ってくる。
あたしだってそれを待ってるんだけど。
何だか全部見透かされてるようで、あたしは素直になれない。


「さて、お姫様。僕にあなたの全てを感じさせて?」
「やだって言ったらどーするのよ」
「雫に拒否権ないんでしょ?」
「だって拒否できないもん」




でも最後は、あなたのおかげで幸せな気持ちになれる。
あたしを全部、包んで離さない。

気が付けば外から雨音が囁いている。
こんな日だって、やっぱり一緒が一番だから。
ジメジメとした感覚は、もう感じない。


――……だからあたしを離さないでね。




















梅雨空の贈り物
(やっぱり雫は、僕から離れられないね)(何か言った?)(何も?やっぱり雫が一番好きって言ったんだ)(……その笑顔、嘘っぽい)
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