この温もりは、ずっと続く。
僕が一生をかけて守る。
十一月も終わりに近付き、冬の足音が確実に聞こえてる日々。
僕の最近の日常といえば、こうやって雫と登下校をすることだ。
「何か、周助と並んで学校から帰るの、新鮮だなー」
「そう?一緒に帰るようになって随分経つよ?」
「新鮮だよー!だって今までは部活だったじゃない?高三で部活引退したからっていうのもあるけどさ……」
はにかむ雫の笑顔があまりにも可愛くて、頭を思わず撫でる。
はにかんだ笑顔は、更に眩しいくらいの笑顔に変わった。
僕は雫の、ほんのちょっとの変化が好き。だからか、たまにエスカレートしてしまう。
「何?何かニヤニヤしてない?」
「いや、別に。あ、中三の時はどうしてたっけ?」
「あー……付き合い始めで、超ぎくしゃくしてたよね。手も握れないくらい」
「……こんな風に?」
するりと雫の手を握る。絡まる指先が、雫の緊張を煽ってるよう。
指先だけで雫の状態が分かるくらい、今や僕達は通じ合っている……。っていうのは自惚れ、かな?
「も……や、やだ……。何かやらしい」
「そんな風に思ってるのは、雫だけなんじゃない?」
「ばッ!違うよ!周助がそんな絡ませ方するからだよ!」
「……雫、声大きい」
道行き交う人が、僕達を振り返り見遣る。
きっと、バカップル程度にしか思われてなさそうだけど、雫は極端に考え込むタイプだから。
案の定、縮こまって俯いた雫の顔は真っ赤だった。
ちらりと僕を睨む。そんな睨んでも怖くないよ?
「睨んでるんじゃないの。恨んでんの。どーせ周助のことだもん。楽しんでるんでしょ!」
「心外だなぁ。将来恥ずかしい思いをさせないために注意しただけだよ?」
「それ、楽しんでるって言ってるようなもんだよ」
「違うよ。可愛いからだよ」
僕が平然と言うからか、雫はそこから何も言えなくなってしまったようだ。
照れてるようで、俯いていても耳まで真っ赤なのが見てとれる。
だから可愛いんだよ、雫は。
「こんな道の往来で、そんなこと言わないでよ……」
「ダメだった?」
「ダメ」
「じゃあ、手握るだけにするよ」
絡んでいた手を更に強く握る。それに反応して、雫も僕の手を強く握り返してくれた。
真っ赤な夕日が僕等を照らして、影は重なり合う。
僕と雫の間に、緩やかな時間が過ぎてゆく。
こんなにも、緩やかで穏やかな時間を過ごすのは久しぶりだ。
部活があった頃は、どこかピリピリしていたかもしれない。
「……周助の手、あったかいね」
「雫の手だってあったかいよ」
「周助の温もりであったかくなったんだよ。……ふふ」
「どうしたの?」
「んー?この温もりを感じられて、幸せだなぁって思ったの」
頬を紅潮させたまま微笑む雫。その微笑みに、僕は思わず息を飲む。
この温もりを、僕はずっと感じていたい。
できれば……一生。雫の温もりを。
だから守っていくんだ。ずっとずっと……雫に呆れられても。
「真剣な顔して……何?」
「……この雫の温もり、ずっと感じていたいなぁって。そう思ってね」
「あたしも……。ずっと周助の温もり、感じていたいな」
「あ、あと」
「ん?」
「……できれば、体の温もりも感じていたいんだけど」
大きな声では言えないから、雫の耳元まで顔を近付けて囁く。
動きが一旦止まって、声にならない叫びを上げた雫は、左腕を振り上げ僕の肩を思いっ切り叩く。
「痛い痛い。何?どうしたの?」
「もう!だからこんなとこで……ッ!」
「ダメ?僕の正直な気持ちなんだけど」
「〜〜〜ッ!」
何も言えなくなると「周助のバカ!」と僕の左手を強く握った。
それはまるで……僕の気持ちに対して、イエスと言っているようなもの。
「やっぱり可愛いよ、雫は」
「うるさい」
そっぽを向いた君の頬に、僕は微笑みキスを贈る。
君は唇を尖らせて怒るけど、それがまた可愛くて。
今度はその唇にキスを。
唇から感じた温もり、手を通して感じ合った温もり。
全て僕が守り続ける。変わらず、ずっと。
「雫、好きだよ」
「……知ってる」
君の温もり僕の気持ち
(雫は?僕のこと好き?)(知ってて聞いてるでしょ)(言わないともう一回キ……)(好きに決まってるでしょ!)
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