ShortStory

Step!



一番になりたいって思ってた。
あの人の一番に。

あの日あの時、あたしは勇気がなくて。
一番になれないまま……時は止まっていた。











「今年のバレンタイン、どうする?」
「やっぱりテニス部でしょ?手塚先輩かなぁ?彼女いないらしいし!」


あと二週間もすれば迎えるバレンタイン。
どこのクラスの女の子達も、浮足立っている。

……あたしには重たいだけだ。


「あとは?やっぱり不二先輩?」
「うーん。不二先輩彼女持ちだしねぇ」
「もう何年付き合ってるの?って感じ!さっきも二人でいるとこ見かけたけど、超ラブラブだったよ!」


そんなこと知ってるアンタ達が怖いわ。
どんだけアンテナ張ってるっちゅーねん。
さっきまでサッカー部の誰それが〜なんて話してたじゃん。

重たい溜息を吐いて、手元の雑誌に目を配れば……。やっぱりそこにもバレンタイン特集なんて書いてある。
はぁ……。どいつもこいつも浮かれすぎるわ。


「不二先輩、ねぇ」


あたしには叶わない想い。もう何年も。
でも忘れられないんだ。ずっとずっと好きなんだ。

不二先輩が特定の人と付き合う前、この想いを告げようと思った。
一縷の望みを、チョコに託して。
だけど怖くて、あと一歩の勇気がでなくて。
結局チョコも渡せないし、告白もできなかった。


「……もう無駄な想いなのにね。捨てきれずにいるんだ……」


当時を思い出すだけで、目頭が熱くなる。
吹っ切れたと思っていても、毎年この時期が来ると溢れる想い。

あたしは思わず、目の前の机に突っ伏した。
雑誌が小さな音を立てて、しわくちゃになる。
だけど、そんなこと気にしていられない。
声を殺して、次の授業のために必死で気持ちを落ち着けさせた。


「でもぉ〜……」


すると、さっきからチョコを誰にあげるか騒いでたクラスメートが、溜息混じりに声をあげる。


「無駄だって分かってるんだけど……やっぱり渡したいよね〜。だってさ、好きなんだもん!仕方ないよね〜!」
「そーそー!やっぱりさ、気持ち伝えるのが大切なんだもんね。断られるって分かってるけど、何て言うかな……スッキリする感じ?」


熱く感じていた目頭が、急に冷めたように思える。

……意外といいこと言うじゃん。
それを多数の人に対して言ってたらどーかと思うけど。(まぁ恋愛は自由だ)

でも、うん。その通りだ。
毎年この時期の湿った気持ちにサヨナラしなきゃ……いつまでもあたしは止まったままだ。

思い出は綺麗なほうがいい。例えそれが自分にとって、最良の形じゃなくても。


「……」


まずはチョコの準備だ。顔を上げて、とりあえず雑誌の続きを読もう。

しわくちゃになった部分を、手の平を使って丁寧に伸ばしてみる。
しわになった部分には、ご丁寧に可愛いチョコの作り方が載っていた。


「うん。頑張ろう」


まずは一歩。止まった時間を、少しずつ動かすために。
自分のために……思い出を形に。

一番が全てじゃあない。
今まで一番ばかり気にしてたけど……この気持ちだけは誰にも負けてない。
不二先輩を想う気持ちは一番だ。
だから始めるんだ。一歩前に進むために。この想いを告げる……。

それがあたしのすべきことだと思った。

前を向いて。涙を拭って。
この想いは一番なんだから……。



















Step!
(少しでも……記憶に残るバレンタインにしたいから)(あとはあたしの勇気、だけ)
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