ShortStory

Happening!



「嫌。絶対に嫌」
「ダメ」
「いーやーだ!絶対に嫌ったら嫌!」


こんな押し問答をこんな場所で。
ねぇ雫。君のためなんだけどなあ……。










遡ること数時間前。
今日は僕の誕生日だから、練りに練っていた計画を実行したいと、雫が朝から張り切っていた。満面の可愛らしい笑みで。

の、はずだったんだけど。

出会って数分後、その笑みが仏頂面に変わっていた。(本人は隠してるつもりだったみたいだけど)
問いただしても、目線を反らすだけで答えない雫に、僕は少し不安を感じながらも一つの切り札を出した。


「……素直に言わないと、今ここで襲うよ?」


若干顔が青くなった雫は、仏頂面の理由を小さな声で呟く。
どうせ話すことになるんだから、最初から素直に話せばいいのに。


「…………は」
「は?」
「だから……歯、が。い、痛い……の」


一気に気が抜けた。思いっきり肩の力が抜けていくのを感じる。
なんだ……そんなことか。


「あ。今、そんなことかって思ったでしょ!」
「思ったよ。そんなことでしょ。じゃあ予定変更。歯医者行こう」
「嫌!」


そうして今に至る。なんでこうして言い合いしなきゃいけないんだ。
運良く僕の誕生日は平日だし、歯医者だってやってる時間。
さっさと治療すれば、雫の立てた計画だってさほど変更せずに今日を過ごせるのに。


「は、歯医者明日行くから!痛み止め飲みまくって、痛みは漸く落ち着いてきたかなぁ〜ってとこだから!ね!」
「ちょっと待って。痛み止め飲みまくった……?」
「や!飲んでない!飲みまくってなんかないよ!」
「はぁ……。やっぱりダメ。もう、こうしてる時間が勿体ないよ?早く痛いところ治そう?」
「勿体ないなら早く映画観よう!ほら、もう時間ないよ!」


雫のテンションが変に高い。薬で痛みが治まってるとはいえ、多分寝てないんだろうな……。
痛みで眠れない人だっているんだ。雫も一晩中眠れずにいたはず。


「ねぇ、雫。雫が今日のために頑張って計画立てて動いてくれてたのは分かってる。僕の誕生日だからね?それは凄く嬉しいよ」
「……周助」
「だけど。僕の誕生日より雫の体のことが心配なんだ。夕べは寝ずにずっと痛みと戦っていただろうし……。だから、早く痛いところ治して、元気な雫に僕の誕生日を祝って欲しいんだけどな」


雑踏の中、優しく雫の肩を触れると、雫は少し俯いて。納得してない表情を僕に見せる。
この顔、雫が我慢してる時の顔、だ。

すると固く結ばれた唇が、震えたような声と共に開く。
泣かせるつもりはなかったけど、そんな表情にも僕の心臓はいちいち反応してしまうんだ。


「だって……。今日は周助の誕生日だから……。だから周助のためにあたしの時間を使おうって、思ってたから。こ、こんなことで……時間、無駄にしたくなくて……」
「雫」
「こんな、なんで今日に限って……。や、だ……。時間は今日以外ならいくらでもあるのに、周助のために使う日にあたしのことで時間使いたく、ない……」


溢れ出す涙は、瞳に留まることを許してくれず雫の頬をゆっくり伝う。
僕のために、とそう思ってくれるその気持ちが嬉しくて。
雫の涙は、泣いてくれと誘うように、僕の目頭を熱くする。


「もー……やだぁ……。情けな……」
「そんなことないよ。その涙は、僕のために流してくれてるんだから……。すごく、嬉しいよ」
「周助……」
「だから、涙拭いて?拭いたら僕も付き合うから。こんなハプニングも、雫と一緒にいる大切な時間だから。それに……」


優しく手をとって、握りしめた。歩みを進めて、人ごみをすり抜ける。


「それに?」
「それに、歯医者で悶絶する雫なんてなかなか見れないでしょ?」


君を全部知っていたいから。
どんな一面でも、君を好きでいたいから。


「い、いたたた……。はぁーもーやだぁ。ごめんね、本当に」
「いやいや。素敵な誕生日プレゼントになったよ」
「は?」


新しい一面を見れるなんて、ある意味斬新な誕生日プレゼントだよ。
まぁ……このあと、ちゃんとお祝いしてもらうけど、ね。



















Happening!
(あ、ちゃんと治してね。歯)(え?)(だって虫歯ってキスで移るから……。僕、誕生日に虫歯になりたくないなぁ)(…………)

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何と2010年に書いた不二君BD小説でした!10ねんまえ…!
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