ShortStory

イタズラに



あたしの心に魔法をかけたのはあなた。

イタズラに弄ぶんだ。あたしの気持ち。










「相葉、今月末は何があるか知ってる?」


朝、開口一番に不二君は言った。
学校の教室。クラスメイトの飛び交う会話に紛れて不二君は、あたしの机まで来て、何を知りたいというのだ。


「……あーっと。イマイチ意味が……」
「え?今月末って結構有名なイベントだよ?知らなかった?」
「いやいやいや。いくら馬鹿なあたしでもそれくらいは知ってるよ。そーじゃなくて、何でハロウィンのことをあたしに聞きに来たのかなって」


ガヤガヤとうるさい教室に、何故か不二君以外が色褪せて見えた。
凜とした表情を見せる不二君に、あたしは胸の高鳴りを隠せない。
そりゃあイケメンだもん。好きか嫌いか聞かれたら、好きと答えるよ。

あたしの机で、二人して突っ立って。
口を開かない不二君とあたしの回りは、異様な雰囲気。微動だにできない。


「あ、あの……。何か悪いこと言ったかな、あたし……」
「あ。違うよ。ちょっと考えこんじゃって。どうしようかなって」
「……は?」
「いや、こっちのこと。じゃあハロウィンだからこそ、言わなきゃいけないことがあると思うんだけど」
「……はぁ?」


ますます意味分からん。
何故不二君とこんな会話をしなきゃいけないんだろうか。
いや、こんな会話自体贅沢かもしれないけどさ。
イケメンと会話、だなんて人生なかなかないと思う。あたしみたいな地味な女なら尚更ってね。


「ね。ホラ。何だっけ?」
「えー……。Trick or Treat……?」
「正解。じゃあ、手、出して?」


意味が分からないまま、促されて両手を不二君の前に差し出した。
制服の内ポケットから何やら包み紙を出して、あたしの両手に静かに置く。

軽い、し……よく見たら布で包んで、リボンで留めてある。
感覚的にお菓子、だよね。コレ。


「……中身なに?お菓子?」
「だって相葉言ったでしょ?Trick or Treatって」
「言ったけど……」


どうしていいか分からず、とりあえずそのリボンを解いてみた。
ブルーの布が広がって、中からクッキーやキャンディーが顔を出す。

うん。お菓子だ。しかも美味しそう。

そのお菓子に隠れて、一枚の小さな紙を見つけた。
机の上にお菓子を避難させて、手紙と思われるその紙をまじまじと見つめる。

そこには、綺麗な文字で書かれた英語。


「と、Trick or Treat……」
「うん。僕からも相葉にTrick or Treat」
「そ、そんないきなり言われても……。今日はお菓子持ってきてないし」
「うん。知ってる」


……はぁ?何であたしが今日お菓子持ってきてないの知ってるわけ?
何?やっぱり噂通り、超能力使えるっていうの?!


「いや。別に特別な力とかないからね?」
「こ、心読んだ!」
「相葉の回りの人に、ちょっとお願いしただけ、だから」


完全に思考が止まった。真っ白と言っても過言じゃあない。
顔だけ友人の机の方向を向くと、既に席に着席してた親友の紬は……。

顔を逸らしやがった。

昨日の放課後を思い出す。
あたしに「明日はお菓子、持ってこなくていいよ。私が用意するから」と紬は言い放った。

今、思えば……超不自然。いつもあんなコト言わないヤツが……。
まさか不二君が裏で手を回してただなんて……!

あ。あれ?でも、何で?


「ね、相葉。お菓子……ないんだよね?」
「な、ないけど……」
「じゃあ質問。お菓子ないとどうなちゃうかな?」
「……イ、イタズラされる?」


不二君の口元が、少し吊り上がった。
そのまま机に両手をついて、目線があたしと重なり見つめ合う状態。

心臓が有り得ない位、速い音を立ててる。
顔は真っ赤かもしれない。
だってここは、朝の賑やかな教室ですよ?!

どんどん不二君の綺麗な顔が近付いてきて、このままじゃあキス、されるんじゃないかって思った。
怖くて恥ずかしくて、思わず目をつぶって身構えてしまう。

すると、耳元から不二君の囁き声。
体が大きく震えてしまった。


「……正解。どんなイタズラかは言わないでおくよ。また、後でね?」
「……?!!」


不二君が離れたと同時にチャイムが鳴って担任が入ってきた。
喧騒に混じって、不二君は自分の席へ手を振りながら戻っていく。

残されたあたしは、とにかく何も考えられなくて。
ただただボーッとするしかなくて。

どうしたらいい?イタズラされるって何を?不二君は一体何であたしを?

意識してなかったあたしの心に、魔法をかけられた気がする。
今まで気にしてなかった不二君からの視線に反応してしまう。


「……もう……ッ!」


もう前には戻れない……あたしの心。
気持ちはどんどん膨らんでいく。

頭の中は、あなたでいっぱい……。




















イタズラに
(弄ぶんだ……あたしの気持ち)(本当、どうしたらいいの?何なのコレ……!)


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