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#1【始まり】



それはただの始まりにしか過ぎなかった。









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季節は夏から秋に駆け足で向っているよう。
昼間は蝉。夜はコオロギや鈴虫。
何気にあたしは、この夏の終わりが好き。


「何にもないねぇ……」


親友の紬が、教室の窓から顔を出して呟いた。


「何が?」
「アンタ達がよ」
「だから何」
「だから!不二と雫の仲よ!超順調すぎて、つまんない」


ちょっと顔を膨らませて、あたしの顔を見ながら訴える紬。

そんなこと言われてもなぁ……。

あたしと彼氏の周助が付き合ってから丸三年経った。
本当、よく続いてると思う。
付き合い始めは、妬み僻みが多くてそれなりにトラブルとかあったけど……。
ここ最近は本当に平和そのもの。

今まで窓から空を眺めていた紬が、向き直って溜息を一つ吐いた。


「もう三年だっけ?付き合ってから」
「うん。中三からだから」
「本当、最近何もないもんね。付き合い始めは愚痴が多かったけど」


あたしは事あるごとに紬に相談していた。
あの頃は毎日のように愚痴ばっかりで多分、相当紬は参ったと思う。
けど、全部一つ一つ丁寧に答えてくれて。
本当に感謝してる。


「そうだね……。色んなことがあったしね。それより…紬のほうは?」
「……何が?」
「英二君と!もう一年経ったでしょ?」
「……あんなヤツ、知らない」
「喧嘩したんだ……」


人差し指で紬の頭を軽くつつくと、今度は深い溜息を吐いた。


「も〜英二さぁ……。何か隠してるんだよ」
「へぇ」
「問いただしても答えないし。最近部屋にも入れてくれなくなった」
「部屋にも?」


ちょっと不思議。
普段から英二君、紬が好き好きって言ってるし。


「まさか浮気とか……!」


机を挟んで紬が、少し青ざめた顔をして前に乗り出してきた。

あたしが見る限り英二君は嘘は付けないタイプで。
仮にそんなことしてたら多分……親友の周助にソッコーでバレてると思う。(隠し事なんて絶対無理だわ、周助の前じゃあ)


「大丈夫だって!周助からそれらしい話聞いてないし。きっとサプライズな事考えてると思うよ?」
「そうかなぁ……」
「もしそうだとしても、もっと証拠とか言動とか隠せないから。英二君」
「……だよね。アイツ単細胞だし」
「あはは!そうそう!英二君には紬しかいないって」


笑顔になった紬は、本当に安心したみたいで。
午後の授業が始まる予鈴が鳴り、自分の席に戻ろうとあたしの前の席を立った。


「今日お昼一緒にしてくれて有難うね。急だったから」


今日のお昼は、周助が急遽委員会の当番でいなくて。
紬を誘ってみたら快くOKしてくれた。
英二君は?って聞いたんだけど……その時は濁されて。


「ううん、私達もこんなだったし。丁度良かったよ。こっちこそ有難うね」
「いえいえ」
「しっかしさぁ……」
「ん?」
「あんまりにも順調過ぎるから、これから何か大きなハプニングでも起きればいいのに……」
「な、何それ!そんな不吉なこと言わないでよ〜……」
「あはははは!冗談だってば!」


でも。
確かに。
本当に順調過ぎて。
本当に平和過ぎて。
本当に幸せ過ぎて。

何か起こるんじゃないかって不安なのは事実。

このままずっと幸せな日々が続けばいいのにな……。
(勿論、紬と英二君も早く仲直りして……幸せが続いて欲しいし!)

チャイムが鳴り、授業が始まる。
澄んだ青空を見ながら、これからのことを思わず考えてしまった。







放課後、テニス部を引退した周助は後輩を指導しにテニスコートにいる。
教室で待っててって言われたけど、やっぱり間近で見たくて。

テニスコートに向かおうと下駄箱を開けると、一通の手紙が入っていた。
封筒には“雫先輩へ”と書かれていて、差出人不明。

見慣れた文字。
内容は一行。


“放課後、図書室で待ってる”


多分これは。
あの生意気な後輩から。

どうしよう。
周助にバレたら、多分怒るだろうな……。
いかないほうがいい。
頭では分かってるんだけど……。

でも。

そこから向かった先は、テニスコートじゃなくて校内。
走り出して、少しでもこの用事が早く終わるように。周助の元に戻るために。

あたしは足早に図書室に向かった――……。


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