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#4【変化】



少しずつ……あたしの回りでは何かが変化していた。






すっかり秋めいた最近。
学校じゃ文化祭が控えていて、常に慌ただしい雰囲気に包まれてる。

授業が自習になったりして先生達も手伝いに回ったり。
あたしもその雰囲気が好きで、クラスの催し物の準備で忙しいかった。

そんな浮足立っていたある日の朝、ちょっとした嫌なことがあった。


「……痛ッ!」
「雫!どうしたの?」


同じクラスでもある紬が、うずくまってるあたしを覗きこむ。
一緒に登校してた周助も、あたしの声を聞いて駆けつけてくれた。


「どうしたの?」
「あ、不二。雫が…」
「大したことじゃないよ!上履き履いたら痛みが走って……」


そっと足の裏を見る。
靴下に特に異変はないから、血が出てるって訳じゃないみたい。ただチクチクとした痛みだけ。


「……雫。コレ」


ちょっと怪訝そうな紬の手の平にあったもの。


「画鋲……」
「雫、大丈夫?足」
「大した痛みじゃないから大丈夫だよ、周助」
「今更嫌がらせ?随分幼稚なことするわよね!」


憤る紬をなだめて、上履きを履く。
クラスが違う周助が教室まで送ってくれて、放課後は絶対一緒に帰ろうと言ってくれた。


「本当に幼稚!信じられない!」
「いいって。大したことじゃないんだから」
「だって!でもさ、明らかにアレだよね。不二のファンの……」
「そう決まった訳じゃないんだから、そういうこと言わない!」
「うぅ……。はぁーい……」


紬にはそう言ったけど……正直、不安で胸がザワザワする。
また僻みとかなのかな……。
考えてもラチあかないんだけど、頭の中はそのことばかり。

あたしがモヤモヤと頭を抱えてた時、チャイムが鳴って先生が入ってきた。
授業が始まって、クラスの男子が自習を申し出たけど結局お許しが出なくて。

窓際の机の上に教科書広げながら外を見ると……。


(あ、周助だ。そういえば一限目体育って言ってたっけ……)


ジャージ姿の周助が、サッカーボール持って校庭にいるのが見えた。隣には英二君もいて。
あたしの二つ前の席に座ってる紬も、顔は窓の方に向いていた。

そういえば。
英二君と紬、どうなったんだろう。
アレから一ヶ月近く経ってるけど、仲直りしたって話は聞いてないんだよね。

周助にはそれとなく聞いてみたんだけど、浮気の心配はないよって言うだけで他には何も言ってくれなかったな。

周助の言動はいつも見えないことが多いけど、多分今回は。
英二君から口止めされてるんだろうな……。


(あ、れ……?)


英二君と周助の間に、ボブカットで緩いウェーブの女の子の姿。
ジャージ姿から同じクラスの子だろうけど……あたしの知らない子だ。

親しげに英二君と周助と話しているのが見える。
別に何の変哲もない風景なんだろうけど……。
つい、気になってしまう。


(……あの子、周助の袖掴んでる)


大丈夫って心の中で思っていても、沸々と沸き起こる感情。
どうしようもなく嫉妬という二文字に包まれていく。


「おい、相葉。外見ながら険しい顔して、そんなに授業が難しいか?」
「えッ?!」


ドキッとして声がした方を振り向くと、授業の先生があたしの隣に立っていた。

……し、心臓に悪い。しかもクラスのみんなも笑ってるし!

そんな先生を適当にあしらっているそんな時。
校庭であの子があたしのクラスを見つめていた事を、あたしは知るよしもなかった。
憎しみをこめてるような寂しいような。

そんな目で、見つめていたことを……。





今日は一日ツイてなかった。

五限目、文化祭の準備で紬と外に出た時だった。上から声が「いいかなー!」なんて、聞こえてきてたんだ。
たまたま気になって、何組だろ〜?なんて上を見上げようとした瞬間。


「雫ッ!」


紬の声が聞こえた時はもう遅くて。
気付けばあたしは全身びしょ濡れ。
上を見上げる紬が金切り声を上げてた。


「ちょ、何やってんのよ!アンタ!」
「え?わ!人いたの?!ご、ごめんなさい〜!」


バケツ片手に、女の子が顔を出していた。
その顔をよく見れば、去年同じクラスだった女の子だ。
今は、確か周助と同じクラス……。

ヤバイ。
周助、教室にいるのかな……。そうなると後で心配される……。
今朝の事もあるし、こんな事で周助には心配かけたくない。


「ごめん!本当にごめん、雫ちゃん!ビショビショだよ……!寒いよね、どうしよう……」


水をかけた張本人が外まで出て来てくれた。
一生懸命謝ってくれてるのを見てあたしは、思わず笑みをこぼしてしまう。


「いいよ、気にしないで!ワザとやった訳じゃないんだろうし。ジャージ持ってきてるから、着替えればいいだけだから」
「本当にごめん!まさか雫ちゃんがいるとは思わなくて……」
「何で外に捨てたのよ、バケツいっぱいの水を」


何だか納得いかない紬が、食ってかかる。
紬は納得いかないと、とことん追求するタイプ。
今朝の嫌がらせにも怒ってるし……何か疑ってるのかもしれないけど。


「や、捨てに行くの面倒だよね、なんてクラスのコと話してたらさ。面倒なら外に捨てちゃえば?って言われて……」
「へー。ものぐさしたんだ」
「だって!その話してたコも、一応授業中だし外に人いないって言うから……つい、その気になって。ばしゃーっと……」
「捨てるのは結構だけど、外見てから捨てて欲しいものね」
「本当にごめんなさい!今度からはものぐさしないから!」


一応、納得のいった紬は一つ溜息を吐いてもういいよ、と笑顔。
平謝りする彼女をクラスに返そうとした時、肝心な事を聞くのを忘れていた事に気付いた。


「あ!ねぇ!周助……どうしてる?」
「え?不二君?準備で用具集めに行ってるからクラスにいないけど……。呼んでこようか?」
「ううん!いいの。心配かけたくなかったから。有難う」
「それを言うのは私のほうだよ!本当にごめんね……。有難う!」


駆け出した彼女に手を振って見送ると、いつの間にかジャージを持ってきてくれた紬が、怪訝そうな表情をしていた。

ま、また……納得がいかない顔してる。


「まぁ、いいや。アンタのお人好しは今に始まった訳じゃないし。はい、ジャージとタオル」
「あ、ありがと。ごめんね、迷惑かけて……」
「いいって。早く着替えてきなよ。後は私がやっとくから」


紬と別れて、何処か着替えられる場所を捜す。くしゅ、と小さなくしゃみが出たかと思ったら、身体が寒さで凍え始めた。
いい加減、本当に着替えないと風邪引いちゃうな……。周助に余計心配かけちゃう。

フラフラと校舎一階をさ迷ってると、一番会ってはいけない人物に出くわしてしまった。


「……何やってるんスか。びしょ濡れで」
「え、越前君……」
「あ。迷惑そうな顔ッスね。俺に会いたくなかった?」


思わず目線を反らしてしまう。
か、顔に出てたかな……。

そのまま動けないあたしに越前君は近付いてきて、おもむろに腕を掴んだ。


「え?ちょっ……ッ!」
「早く着替えないと風邪引くよ」


そのまま引きずられながら、特別棟へ走り出す越前君。
い、一体何処に行くんだー!

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