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#18【手紙】



色々あった、この数ヶ月。

あたしは絶対に忘れない。





あたしと周助の話し合いから二週間あまり。
学校は冬休みを終えて、とうとう高校最後の学期を迎えた。

肝心の進路、外部受験を考えてた周助は、結局そのまま青学の大学へ進むことになった。
これで晴れてあたしも周助も、四年間同じ学校に通うことになる。


「あ……な、何ー?!アンタ達、冬休みにそんなことがあったの……?!」
「紬、声大きい……」
「や、だって!メールしても全然その事の返信ないからさ……。ちょっと〜ッ!もう!……あ、でも、だからか」


一月いっぱいは授業やら学年末のテストやらで、まだ通常通りの時間割。
三学期に入ってからの昼休みは、あたしと紬、周助と菊丸君の四人でお昼をとるのことにした。

冬の空の下、屋上では寒すぎるから人気のない特別棟の一室でお昼をとろう、ということになって。
あたしと紬は既に来ていて、周助と菊丸君は先生に呼び出されて遅れてるところ。

冬休みの事の顛末を紬に話したところで、紬のこの反応。
気持ちは分かるよ……。
あたしだって、あまりにも劇的すぎた。


「だからって……何が?」
「不二の雰囲気よー。前に戻ったっていうか、前より酷い」
「……あ」
「何かねぇ、こ〜ウザいぐらいのオーラが……」
「何が前より酷くて、何のオーラが出てるって?」


顔を引き攣らせ、青くなった紬が振り返ると、そこにはいかにもっていう笑顔の周助とニヤニヤしてる菊丸君がいた。


「ちょ、不二ッ!いきなり背後に立たないでよ!」
「いきなりじゃないよ?声かけようとしたら僕の悪口が……」
「悪口で結構ー!私、怒ってるんだからね!雫がどれだけ傷付いたか!」
「まぁまぁ、紬。落ち着いて!怒りなら俺にぶつけて」
「そうそう。紬、菊丸君ならいくらでも受け止めてくれるから」
「雫ちゃん、それ言う!?」


部屋で笑いがおきる。
この一瞬一瞬が幸せで、あたしは本当に心の底から嬉しいって感じてる。
あぁ……戻ってこれたんだな、ここに。


「ところでお昼四人でとろう、なんてどったの?雫ちゃん」
「あ、えっとね、それは……」


実は四人で食べようと言い出したのはあたし。
高校での残り少ないお昼休みを、あたし達四人で食べたいのは勿論……。

今日は目的があった。


「あのね、松本さんから手紙が届いたの」
「……松本から?」


三人の顔が戸惑いをみせた。
何故今更……?と感じているんだと思う。
それもそうだ。松本さんは今、この青学にはいない。
あのクリスマスパーティーの一件の後、引っ越しをしたからだ。
今学期が始まった時、周助のクラスの担任の先生から報告があって、その日の内にあたしに伝わった。


「何?今更また文句とか言ってんの?」
「や、まだ開けてないんだ。読むならみんなと読もうと思って」


持ち込んだお弁当を開けながら、紬は顔をしかめてる。
周助も菊丸君も手はお弁当を開けながら、あたしが手にしてる封筒に目線を送っていた。


「と……言うか、あたし一人じゃ何か読む勇気なくって」
「はは、雫らしい〜。アンタ、昔から何かやるなら誰かとってトコあるわよね」
「もー……いいじゃん!と、とにかく!勇気なかったのもそうだけど……これはみんなと読むもんだなぁって思ったの!」


あたしも漸くお弁当を紐といて、みんなと一緒に食べ始めた。
二、三口食べたところで、あたしは松本さんから送られたブルーの封筒に手をかける。

クリスマスパーティーの当日、家に届いたあの封筒と同じもの。
若干、嫌な感覚が襲う。


「……怖い?」


周助に声をかけられて、この嫌な感覚が怖さなのだと気付く。

あたしは一呼吸ついてから、首を横に振り「大丈夫」と呟き封筒をゆっくり開いた。

中身は……白い便箋が二枚。
つい最近見た、見覚えのある字が長々と綴られていた。


「……じゃ、読むよ?……“いきなりの手紙、きっと困惑してるわよね……”」





――――……まずは、この数ヶ月間のこと。謝るつもりはないわ。

あたしは不二君が欲しかった。
だからあなたが嫌いだった。

ただ、それだけのことだから。

あなたが傷付き、不二君から離れていくことが狙いだったんだ……。
あたしは多分、一生あなたに謝ることはしない。

前、話したように、あたしの不二君への想いは小学生の時から。
不二君カッコイイし優しいでしょ?
好きにならないっていうほうが、どうかしてる。

でも、あたしには告白とかそんな勇気なかった。と言うか……出来なかったのよ。
不二君は昔から女の子には厳しくてね。
告白してくるコ、片っ端から断ってきてた。
あたしは逃げてた。断られた女の子と同じになりたくなかったから。
だから……少しずつ話していって、仲良くなっていって。
女子の中ではあたしが一番、仲良いっていうぐらい……不二君の中の一番の存在になったって思ってた。

そこに小学生の時から積み上げていったものを壊したのが、あなた。
しかも、不二君から告白したって言うじゃない。

もう、どん底。
あたしは一気に底に突き落とされたわ。あなたに。

恨んでも仕方ないってこと分かってた。
だけど……あなたを恨まなきゃ生きていけなかった。

そんな時、親から聞かされた。
この手紙を読んでる時には分かっているわよね。
いきなりの転校。本当、神様を恨んだわよ。
卒業を一緒に向かえることすら出来ないのかっていうくらい……突然だった。

無理言えば……残ることも出来た。
進路だって、一応大学の推薦取れてたし。

でも、父親の赴任先は海外で。母親はついて行くって言うし。両親は出来れば一緒に来て欲しいって言っていて。あたし一人っ子だし、特に夢とかないしやりたい事もなかった。
ただ、不二君のそばにいたい……ってだけ。
だから……あたしには時間がなかった。
転校までに、あたしの行き場のないこの想いをどうにかしたかった。

そこで、あなたと越前君との話を聞いて今回の事を思い付いたわ。
上手くいけば青学に残ることも出来て、不二君も自分のそばに来ることになる。


だけど……それも失敗に終わったわ。
そして、ここに残る神経だって持ち合わせてない。
だから……不二君、今は諦めてあげる。
多分、不二君だってあたしの顔なんて見たくないだろうし。


こうやってあなたに手紙書くことなんて、もう二度とないと思うけど。
このあたしが諦めたんだからね。
不二君を悲しませるようなことしたら……絶対に許さないから。

それと、別れたら早く言いなさいね。
今度こそあたしが不二君のそばにいくんだから。


じゃ、さよなら。


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