ShortStory

嫌い、嫌い。本当は好き。



嫌い、嫌い、も好きのうち。


大好き、なの。






あの嘘っぽい笑顔は嫌いなのに、気になって仕方ない。
どうしようもなく目で追ってる自分がいる。

駄目だよ。
彼だけは。

きっと気まぐれ。ただの好奇心。

「ね、雫。また間違ってる」
「……うるさいなぁ」
「わ、うるさいだって。親切に教えてるのに」

馴れ馴れしくも、人の事を名前で呼びつける彼。
わざわざ隣のクラスから、昼休みにやってくる事ないのに。

「不二君!親切とかそーゆーコト別にいいから!」
「英語のノート広げて、いかにも教えて欲しそうなのは雫でしょ?」
「……だって、今日当たるから」
「雫、英語苦手だもんね」

彼は目立つ。
鳶色の髪の毛は、日に透けるとキラキラと音をたてる。
その容姿は、アイドルなんて目じゃないくらい端麗で。そんでもって、テニス部のレギュラーだっていうんだから。

モテないハズがない。

あたしが僻まれないハズがない。(本音)

「……や、だから。自分でやるから。帰って。目立ってるし」
「えー?僕にここまでさせておいて何の報酬もなし?」
「不二君が勝手にやりはじめたんでしょ!報酬なんてあるか!」
「本当、雫って頑固だね。素直になれないっていうか……」
「何の話だ!!」

クスリと笑ったと思ったら。
目の前の椅子から離れ、サッと自分の教室へ消えた彼。
委員会が一緒になっただけなんだけど。
名前は勿論、知ってたけど。自分には縁遠い人だと思っていたから。

こんなに近くになるとは思っていなかった。

人の事、からかって。楽しんで。変に触ってきたりして。
バカにされてるみたいで、最初は嫌だった。
あの、綺麗な笑顔でさえ。最初は驚くくらい惹かれていったけど。

実際は、彼が被ってる世間体だって気がついて。
本音を見せない、あの笑顔。

嫌い。
嫌い。
全部、嫌い。

あたしの前でも見せないのが嫌い。
近いと思っていても、彼からは遠いのだと思い知らされる。

だから。
自分の気持ちにはとうに気づいてる。

騙されるな、自分。
だって彼は届かない。いくら嫌いでも、いくら好きでも。

この気持ちは届かない。

届かないと知ったら、とても切なくなった。


















「あれー?雫。帰宅部がこんな時間まで何やってんのー?」
「あ、委員会ー。当番だったー」
「帰るのー?」
「うんー、部活頑張ってねー!」

特別棟と本校舎の渡り廊下で、友達に声をかけられた。
太陽は西に傾いてて、オレンジ色を帯びて眩しかった。

今日は図書委員の当番。
彼も同じ当番のハズだったけど。
来なかった。

……サボりやがったな。

「そこの彼女。遅い帰りだね」

帰ろうと下駄箱前まで来ると、聞き覚えのある声が。
ここ最近、よ〜くしつこく聞く声だ。

「委員会。当番!サボったでしょ」
「あ。ごめん」
「うわー。知ってて来なかったんでしょ、その笑顔」

部活で来ないのかと思いきや。ジャージではなく制服を着ていた。
夕日は更に強く彼を照らす。あたしには眩しすぎる。

「最近、かみつくから」
「誰が!何を!」
「雫が。僕を。前は素直で可愛いかったのに」

そこまで言われて、顔がカッとなった。
何が素直で可愛いだよ!
あたしのコトなんて、不特定多数の1人でしょ?!
そう思うと涙が出る。

「……泣いてる?」
「……ばか!ばかばかばか!大ッ嫌い!!!」
「馬鹿に嫌いとは失礼だな。これでも雫のこと好きなのに」
「そんなこと知って……、ぇは?」
「あ、やっぱり泣いてた。俯いてたら分からないよ」

い、ま。
何とおっしゃいましたか?

「呆気にとれらてるけど、大丈夫?」
「だって、今……」
「うん?」
「何て……言った?」
「えーと、どこから言えばいい?」
「……ばかで嫌いって言ったよ?あたし……」

駄目、涙止まらない。
叶わない思いだから。
あたしへは拒否しかないと思っていたから。

下駄箱に寄りかかって、ペタリと座り込んだ。
不二君は一緒になって、向かい合う。

「馬鹿に嫌いと言われても。雫が好きなのは変わらないから」
「な……ん、で?」
「知らないと思うけど、実は中一の時からずっと」
「えぇえ?!」

知らない知らない知らない!

知 ら な い!!!

何で?一体あたしの何が不二君の心に残ったの?

「最初は、笑顔。屈託のない笑顔が」
「だって、今までそんなコト……」
「うん。ずっと隠してた。だって共通点なさすぎで」

ありえなさすぎて。
あたしは自分で立てない位、力が入らなくなっていた。

あ、腰が抜けるってこーゆー事か……?

「最近は、ちゃんとこっちに振り向いてもらいたくて。ちょっとムキになってた」
「不二君がムキに…って、そっちのほうが信じられないよ…」
「どう言う意味?」
「だって。だって!あたしなんか不特定多数の一人だと思っていたから」
「うん?」
「不二君があたしにムキになるなんて。冷静に物事を処理しそうなのに……」
「何か手塚みたいだね、ソレ」
「だから、あたしに向けるその笑顔もニセモノだと思ってた。本当の不二君を隠してる笑顔」

不二君の、いつもの調子が。あたしの耳には入らなくて。
自分の、今までの気持ちが、どんどん言葉になって出てくる。

本当は。
本当は……嫌いって言い聞かせてた。
でも、好きで好きで仕方なかった。

話し掛けられると好きで。
でも意地悪されると嫌いで。
やっぱりどうしようもなく好きで。

どうしよう…。
涙が止まらない…。

「雫だけなんだよね、本当の僕を見ようとしてくれたの」
「え?」
「誰もね、気付かないんだよね。だから一枚壁を隔てた。笑顔で」
「ソレが変に感じたの」
「……僕が好きになった人が、僕のコト分かってくれる子で良かった」

良かった、って言う不二君の笑顔が……本物。
すっごく安心した気分になった。

漸く、逢えた。
本当に気持ちに。


好き。
嫌い。
本当は好き。

遠回りしたけど、本当の気持ちを知れたから。

「好きだよ、雫」
「……あたしもぉ……」
「泣き虫って本当だったんだね」

大好き。
本当に本当に大好き。











 

「雫さん?つかぬ事をお聞きしますが?」
「な、何でしょう?」
「立てないの?」
「うん……って嫌!まって!何、その笑顔!」
「駄目だな〜!家まで送ってあげるよ!」
「い……いぃ!立てる!立てるから!!!!!」
「ほら、雫。お姫様抱っこ」
「駄目!不二君!部活だってあるでしょ!何で制服なの?!」
「今日は休み(にしたから)」
「(わ ざ と か …!)だって、まだ残ってる人がぁぁぁぁぁ!」
「親御さんにご挨拶しなきゃね」

彼の笑顔を見分けるのがコツ。
はまったら最後。
もう、彼の虜。






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※再々録。あ、荒い……。
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