素顔の君が好き。
甘いあなたのその顔が。
「し、周助……ッ!」
「何?」
大学の講義が二つも休講になって、午後はゆっくり出来るなぁ……なんて周助に電話をしたら。
周助も取ってた講義が休みで一日フリー。
じゃあ、僕の部屋来る?って言われて、ゆっくりできるのも久々だから二つ返事で行くって言ったんだけど……。
「どうしたの?」
「……な、何でもない!」
久々に入った周助の部屋では、周助がソファーに座りテレビに向かいながら何か本を読んでいた。
何を読んでるかのぞき見すると『図解 錬金術』と書かれていて、思わず「ゲッ……」と呟いてしまう。
その呟きに再び顔を上げた周助。
そして、その顔で見つめられる。
その顔……茶色のフレームの眼鏡をかけた、周助の顔。
「ゲッ……って何?」
「えっ?!あ、あー……っと。そ、その本!」
「本?あぁ、興味があったから読んでただけだよ。漫画、人気だしね」
「……周助でも漫画読むんだね。部屋に一冊もないから読まないかと思った」
「ねぇ、微妙に馬鹿にしてない?僕だって漫画くらい読むよ。英二に借りてね」
買いはしないのか……と心の中で呟いてたら、ちらりとこっちを見る周助。心を読まれたみたい、だ。
一つ溜息をすると本にしおりを挟んで閉じて、テレビに向かってていた体をあたしのほうへ向き直す。
眼鏡をかけた周助の顔を何だか見れなくて、あたしは思わず顔を背けてしまう。
だって……いつもと違う雰囲気を醸し出してるし!
眼鏡かけてるなんて知らないし!初めて見たし!
「おいで」
手を差し出されば、それに応えないわけにはいかない。
おずおず周助の手を取って隣に座る。肩に回された手が、あたしの心臓に負担をかけ始めた。
「ねぇ、雫。何で顔逸らすの?」
「や、あの。カッコ良すぎて……なんて」
「それはそれは。どうも有難う。でも、違うでしょ?」
「ちょ、む、無理に向かせないでよ!」
あたしの答えに納得いかない周助は、逸らしてたあたしの顔を無理矢理自分の方へ向かせた。
直視出来ない周助の顔。そのレンズの向こうで、明らかに瞳は笑みを含んでる。
あたしが眼鏡に弱い……だなんてきっと分かってる。
分かっててあたしの反応を楽しんでるに違いない、この男は。
「どうしたの?いつも以上に顔が赤いよ?」
「う、うるさいッ!分かってるくせに!」
「ふーん?じゃあ……そういうことを言う口は塞がなきゃ、ね?」
「へ?ん……ッ!」
熱く……深いキスを送られた。
息継ぎもできないくらい深い口づけ。
歯列を割って、舌が滑り込む。
その動きであたしの心臓は高鳴って頭の中が真っ白になってく。
その先に待ち受けてる何かに期待して、もう周助のことしか考えられないくらい。
そんな高揚感の中で、不意に周助の眼鏡があたしの目元に触れた。
名残惜し気に周助の唇があたしから離れる。
「……やっぱり眼鏡しながらだと邪魔だね。雫の嬉しそうな顔がたまらないんだけどな」
「そんな嬉しそうだった…?」
「うん。眼鏡に嫉妬しちゃうな」
「もう……。周助がしてるからいいんじゃない」
「じゃあ、素顔の僕でも愛してくれる?」
「それが一番好きなんだけどなぁ」
眼鏡を取って、いつもの周助に戻る。
見慣れた、でもこの世で一番大好きな顔があたしの目の前にある。
やっぱり……素顔のあなたが好き。
「嬉しそう」
「うん……嬉しいよ?」
「では、そんな嬉しい顔の可愛い雫さん」
「ふふ、何でしょう?」
「続き、してもいいかな?」
「ノーって言ってもするんでしょ」
「よくご存知で」
「当たり前」
意地悪な君の素顔は、こんなにも素敵で。
あたしはもう、首ったけ。
抜け出したくない、恋の魔法。
あなたが、好き。
素顔の君
(ねぇ、周助)(何?)(また…...眼鏡かけてくれる?)(結局好きなんだね、眼鏡)(……)- 6 -*prev | *next *Sitetop*or*Storytop*