これはただのヤキモチ。
分かってるくせに。
「気持ちは嬉しいけど……ごめん」
そう彼が言うと、三つ編みをしたあたしより背が小さい女の子は涙を浮かべた。
「いえ……。すみま、せんでした……ッ!」
そのまま彼に深くお辞儀をすると、その場を逃げるように立ち去る女の子。
あたしも同じ立場だったら、泣いちゃうだろうな。多分、今日は泣き腫らす。
でも諦めきれなくて、諦めなきゃいけなくて。
彼が告白を受ける度に、きゅっ、と胸の奥が締め付けられて。
ざわついて……嫌に気持ちが湧いてくる。
「また覗き?」
「わっ!ふ、不二く……!」
茂みの上から声がいきなり降ってきた。
声の主は……あたしの彼氏である不二周助。
あたしは毎度のように、彼が女の子に呼び出されるとこうやって告白の過程を見守ってしまう。
付き合い始めて、まだ二ヶ月。
不安もいっぱいなうえ、不二君はモテる。
あたしが彼女になってること自体信じられないのに、そんな彼に想いを寄せてる女の子の気持ちになると……。
あたしが彼女でいいのかなぁ、って思ってしまうこともある。
「何度目?覗き見するの」
「……不二君週三位で呼び出されるからなぁ?」
「いやいや、そんなに呼び出されてないから」
「いやいや、そんなことないから」
「ぷ……。何、真似?」
クスクスと笑う不二君は最高にカッコ良くて。
その笑顔を見てるだけで、あたしは天にも昇る嬉しさ。
嬉しくてたまらないのに、不二君はあたしの頭に軽く手を置くと、そのまま頭を撫ではじめた。
「……撫でられた」
「うん、撫でたね。可愛いから」
「うぅ……。嘘だぁ。からかってる」
「彼女に顔真っ赤にされたら、誰でも可愛いと思うけどな」
その時、初めて自分の顔が赤いことに気付いて、直視出来なかった不二君の顔を見上げる。
すると不意打ちでキス、された。
軽く……音が鳴るくらいの。
心臓がありえない位動いてる。
どう考えていいか分からなくて。
言葉が出ない口は、ただ開いたり閉じたりを繰り返してる。
まだ数えきれるぐらいの……キス。
触れた唇は熱を持って、顔はありえないくらい熱くて。
どうしていいか分からなくて、あたしは顔を俯かせるしかできない。
「……あ、恥ずかしくなっちゃった?」
「もう……だって。そんないきなり……」
「ねぇ、雫。覗きに来るの、やめない?」
「……やっぱり気にするよね」
こうやって毎度の如く、覗き趣味のある彼女なんてそうそういない。
でもあたしは気になって仕方ない。
不二君が他の誰かを……好きになってしまわないか。
そう思うと、覗かずにはいられなくて。
「まぁ、雫の気持ちも分からなくはないけど。……僕は愛されてるなぁ」
「ッ!や、だ。そ、そんなことないもん!」
「素直じゃないとこが可愛くて好きなんだけど」
「も、う!人のことからかって!」
更に真っ赤になった顔を見られたくなくてそっぽを向いたら、ぎゅっと抱きしめられた。
こうなったら逃げられない。
あたしがただヤキモチ妬いてること、分かってるんだ。
知っててからかって。
それでも好きなんだから……あたし、かなりの病気だ。
「喜んでるでしょ」
「え?そんなことないよ?」
「嘘!声が笑ってる!」
「ヤキモチ妬いてくれるくらい、僕が好きなんだなぁって思っただけだよ?」
「ホラ!もー……あたしは不安な気持ちでいっぱいなんだからね!」
「分かってるつもりなんだけどなぁ」
「分かってない!」
顔を上げると、ごめんね?と笑顔でまたキスされた。
そんなことされたら、許してしまうに決まってる。
「僕のお姫様は、雫だけだから。……ね?」
「むー……仕方ないなぁ〜」
ヤキモチなんて格好悪いって思ってた。
だけどあなたはそれすら好きって言ってくれた。
それじゃあずっと……妬いててあげる。
あなたが好きだから。
ずっと妬かせて。
そしてあたしを好きでいて。
嫉妬すらあなたのものに
(ね、じゃあ僕から一つだけお願い)(………何?)(僕のこと、名前で呼んで?じゃないとヤキモチ妬いちゃうから)
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