ShortStory

さよならを言う勇気とあなたの幸せ



あたしはただ…。
あなたを愛してた。













片想いから五年、付き合って二年。
あなたはずっと……あたしを欺いてきてる。

あたしも欺いてきてた。
本当はあたしを見てないこと、気付かないふりして。

偽りの愛。
その言葉が相応しい。

「雫、何?いきなり呼び出して」
「……周助。ううん、不二君」

周助の顔がはっとする。
きっとあたしが言わんとしてることに気付いたはず。
あなたはそういう人だから。
あたしの気持ち、一番分かってるはず。

だからこのままじゃいけないって、心の中で思ってたはずだ。

あたしがあなたを愛してるから……何となくで始まったこの関係に、あなたは困惑していた。
あなたには忘れられない人がいたから。
だけどその人は彼氏がいて。
忘れる、って言ったその唇は……あの日震えていた。
あたしはあなたが傷付いているのが嫌で。
一番隣で話を聞いてきたからこそ、一番分かってた。

あなたの気持ち。
あんなにあたしを「好き」と言ったあなたは、頭では別の人を考えていて。

「もう……いいよ。お飯事に付き合わなくても。長い間、ごめんね」
「…雫、僕はお飯事なんて……」
「そうは言っても、やっぱり心のどこかではあの人のことばかり考えてたじゃない」

図星、なんだろうな。
黙ったままの周助は、それを肯定付けてる。

見つめ合い、訪れた沈黙。
あたしはただ…。
あなたが苦しむ顔をこれ以上見たくないだけ。
あたし、という呪縛から解き放って、幸せになってもらいたいだけ。

幸せにできるのはあたしじゃない。
あの人、なんだ。

「別れたでしょ?不二君の想い人。だから……チャンスだと思ってるんでしょ?」
「雫……」
「その話聞いてから、不二君はあたしの前では上の空。だから……」
「……もういいよ、言わなくて」
「怖い?怖いはずないでしょ?だってあなたはあたしのことなんて……」
「雫ッ!」

あたしの名前を叫ばれたら、そこから何も言えなくなった。

辛辣な表情。
あたしはあなたのそんな顔、見たいわけじゃない。

だから……だから。
いつものように、笑って見せて。

「ごめん。あたし……傷付け、た?」
「いや、いいよ。僕のほうこそ……ごめん」
「不二君は謝らなくていいんだよ?あたしの我儘に付き合ってくれたんだから」

そう、この年月は正しく青い春。
あたしは幸せ……だった。
だからこそ、あたしはこの人を笑顔で送り出さなければならない。

今までのこと……。
全部、真っ白にして……。

「ほら、早く。行って?待ってるよ、彼女」
「待ってるって……」
「あたしがお膳立てしといた。裏庭で彼女待ってる。早く……早く行ってあげて」
「雫……」
「早くッ!」

らしくもない大声を上げた。
あたしの今の顔を見られたくなくて、思いっきり俯く。

周助が近付こうとしたのが分かった。
でも、足が止まる。
悩んで……でも決心したんだね。

「……ありがとう」

小さく……でも確実に聞こえた感謝の言葉。
立ち去る音が消えて、あたしはその場に崩れ落ちた。

「ありがとう、は……こっちの台詞だよ。ッ……馬鹿」

涙が溢れた。
今まで流したことがないくらい、とめどなく。
拭っても拭っても拭いきれない。

あたしは大好きだった。
あなたが大好きだった。

もう目の前にはいない、愛しいあなた。
でもあなたが幸せじゃなければ、あたしのこの想いは報われない。

痛い……。
本当は痛くてたまらない。
離れたあなたが欲しくてたまらない。

でも、それでも。
あなたの居場所はここじゃないから。
あたしはまた……一人になる。




「さよなら……周助……」









廊下から見下ろした裏庭で、あなたは幸せな顔をしてた。

あたしの恋は、終わりを告げた――……。
















さよならを言う勇気とあなたの幸せ
(あたし、また相談のるから)(未練がましいけど、あなたと繋がっていたい……)
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