あの日、泣きじゃくったあたしに、いつまでも何も言わずに隣にいてくれた。
リョーマのそういう優しさが、あたしは大好きだ。
リョーマは初めて交流する人に、めんどくさそうに対応することがある。
別に、否定とか受け入れないとかじゃない。
ちょっと人見知りなだけ、なんだと思う。
あたしにもそうだった。
初めて話かけた時、超めんどくさがった顔してた。けど、すぐ打ち解けてくれた。
それが越前リョーマというヤツなんだと思う。
「……クリスマスイヴ」
十二月最大のイベントが、もう目前に迫った頃。あたしはリョーマをどう攻略すべきか、頭を悩ませていた。
例の彼女と五日というスピードで別れたリョーマは、あの日からはいつも通りに接してくれる。
「何?」
「だからクリスマスイヴだよ。みんなでどっか行こうよ。せっかく日本にいるんだし」
「予定あるヤツとかいるんじゃないの?暇なのアンタくらいでしょ」
「し、失礼な!や、だから、そーゆーの気にして一日早くやろうかなぁって」
「無理」
いつもの相談場所、屋上の柵の前。
寒いの何か関係ない。この時間が大切だから。
つーか即答って何なんだ一体。同じく一人モンのアンタに、何の予定があるってんだ。
「その日、運動部全体のクリスマスパーティーがあるから」
あ、さいですか。って何、人の心読んだかのように答えてんだ。
どっかの先輩のようだわ。(誰とは言わないけど)
「珍しいね。そーゆーの滅多に参加しないのに」
「や、ちょっとね。不二先輩に借り貸そうと思って」
「貸すの?ふーん。後輩も大変だね」
「まーね」
何だか気楽そうなリョーマは、前に相談を受けた時とはちょっと違う。
明らかに憑き物が落ちたようなオーラだ。
不二先輩とリョーマの悩み事が直結してるかどうかなんて知らないけど、リョーマの雰囲気からしてきっと悩み事は不二先輩とその彼女絡み、だったんだろう。
「次の日」
「ん?クリスマスイヴ?」
「アンタ、空いてんでしょ?他のヤツは?」
「え?あー……聞いてみないと分かんないけど。何で?」
「次の日だったら空いてるから。だったらいいよ」
「……本当?!」
うわうわ!これは意外だった!
まさかまさか、リョーマから誘って貰えるなんて!
な、なかなかな攻略方法だったんかな?
「せっかく誘って貰ったんだし、悪いジャン?他のヤツが都合良ければいいよ」
「やったー!んじゃ、みんなに確認してみるね!どこ行こうかなー!遊園地とか良くない?あ、でも、混んでるかなぁ」
「……ぷ」
あまり声に出して笑うイメージがないリョーマが、吹き出した。小さい声だけど、確実に!
ニヤニヤしたりするのは沢山あるんだけど、こう……突発的に笑うのは珍しい。
「何?何よ」
「いや、何か。現金って言うか、何て言うか」
「は、はぁ?何ソレ!馬鹿にしてんの?!」
「違うよ。そーゆーの、他の男から見たら可愛いとか思うんじゃん?」
「……ばっ!!」
唐突過ぎて、今まで言われなかったことだけに思わず顔の熱が上がる。
あ、か、可愛いとか……とか!今まで言われたことないんですけど!
しかもコイツの口からなんて!
「二宮。顔、赤く……」
「あああ赤くなんかないよ!馬鹿!」
「ふーん。あ、誰だ?」
リョーマの携帯が鳴ったらしい。バイブレーションになってるらしく、震えてる携帯をポケットから出した。
メール、かな?目線が左右に動いてる。
それを読み終わったのか、無造作に携帯をポケットにしまう。
返信しないのかな?
「誰?」
「んー……?俺をぶった人から」
「……別れたんじゃないの?」
「まぁ、そのつもりだったんだけど。何か謝られた。やり直したいって」
胸がちくり、と痛くなった。動悸が激しくなる。
まさか、また?あたしが何もできないでいるこの状況で、また失恋……?
「何て顔してんの?心配しなくてもいいよ。喧嘩なんてしないから」
「……え?」
「こんなの、懲り懲りだし。めんどくさいし」
……リョーマにとっては、想い人の先輩以外の恋愛は、めんどくさい……のか。
さっきまでの動悸は幾分治まったけど、胸のちくちく感は何だか抜けない。
もしかしたら……あたしにも“めんどくさい”と思うのかもしれないんだ。
攻略する気満々だったのに、どうしてこうも簡単に流されなきゃいけないんだ。
弱気な自分に、嫌気がさす。
「あ。そうだ」
「ん?何?」
「二十四日。俺、誕生日だ」
「あー何だ、そんなこと……」
「アレ?覚えてた?凄いね、二宮」
「あーーーーッ!た、誕生日……!」
すっかり頭から抜けていた。
コ、コイツ……クリスマスイヴが誕生日だった……!
どどどどうすりゃいいんだ!ちょ、ま、いや、もう!うあー……。
あたし、リョーマが好きなのに……片想い失格な上、攻略不足?
きみ攻略マニュアル
(え?何?)(あ!いや!こっちのこと!)(……お小遣い、どれくらい残ってたっけ……?!)
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