ずるいから好きです

越前リョーマ

運命のクリスマスイヴまで、あと一日。
とりあえず、フリーの人だけで遊ぶことになった二十四日。
あたしとリョーマ合わせて十人満たない。
でも、まぁ。楽しみだし。二人きりだったらどーしていいか分かんないし。
場所は結局、遊園地で遊ぶことになった。


「あー……ダメだ。こんなんじゃ似合わないよー!」


今のあたしは既に一時間以上、服と鏡を交互に睨めっこしてる。
あたし、服なさすぎ。しかも女の子らしい服なんて持ってないし。


「ぬお?メールか?」


机の上に置いてあった携帯がブーブーいって震えた。
そーいやマナーモードにしたままだったな。

裏返しになってた携帯を表にすると、越前リョーマの文字。
し、しかも電話だ……!滅多らたらにかけてこないリョーマからの電話に、心臓が今までにないくらい跳ね上がった。


「もっ、もしもし?」
『声裏返った』
「う、うるさい!何?どうし――……」
『今から会える?』


心臓が止まるかと思った。突然過ぎて、頭の中は真っ白。

あたしは「うん」だけ言うと携帯を切って、上着を羽織って外に飛び出した。
場所なんか言われなくても分かる。絶対あそこだ。
リョーマにとって、多分好きな場所。
――――……あの、公園だ。










「リョーマ!」


公園に着くやいなや、大声で叫んだ。暗すぎる公園。外灯まで行って息を落ち着かせる。


「良く分かったね」
「リョーマ!やっぱりココだった」
「居場所言う前に電話切るし。つーかそんなに薄着で大丈夫なの?急いで来る必要ないじゃん」
「いや、まぁ。その、薄着は大丈夫だから。急いで来たのは、えっと、リョーマが何か落ち込んだ感じだったから……」


あたしの後ろから声をかけてきたリョーマは、着崩したスーツと首にマフラー巻いて両手に缶コーヒーを持っていた。
あ、そういえばパーティーがあるって言ってたっけ……。こんな夜遅くまでかかってたのか。

缶コーヒーを手渡されて、ベンチに座る。
あったかいコーヒーが手元にあるせいか、下半身はかなり冷えた感覚だ。


「コーヒーありがと。つーか明日大丈夫?もうすぐ日付変更線またぐけど」
「そーゆーアンタは大丈夫なの?」
「ホラ、あたしはもう寝るだけだし。……ねぇ、何かあったの?」


少し重い雰囲気に耐え切れなくて、本心を聞き出した。
だって、リョーマの横顔があまりにも切なすぎて。あたしには耐えられない。こんな表情のリョーマ。


「……別に」
「嘘だぁ。アンタよっぽどじゃない限り、あたしに電話なんてしないじゃん」
「そう……だっけ?」
「そう。あんたからの電話は特別なんだからね」


……しまった!口滑らした!これじゃあリョーマが好きって言ってるようなもんじゃないか!


「そうだろうね。俺、あんまり電話とか好きなほうじゃないし」


うなだれそうになった体を、踏ん張って止めた。
あー……そうだよね。コイツ、自分のコトはとことん鈍感だった。


「……で?どうしたの?」
「ケリ、つけてきた」
「……不二先輩の彼女、さんと?」
「まぁ、そんなとこ。やっぱり、何か……。俺じゃダメなんだよね」
「リョーマ……」


小さく溜息を吐いて、そのまま俯いたリョーマが、あまりにも小さく見えた。
その姿に、また涙が出てきそうになる。
ダメだ、あたし。最近コイツのせいで、ますます涙脆くなってきてる。


「そ、そんなことない。リョーマがダメなんかじゃないよ」
「二宮……」
「不二先輩の彼女さんは、不二先輩が全てなんだよ。本当に不二先輩だけ、なんだよ。それはリョーマのせいでも何でもない。リョーマにはいいとこいっぱいあるよ。……だから、自分を責めないで……」


言いながら、涙が溢れた。泣くつもりなかったのに。
あたしはリョーマが大好きで。だからこそ感じるリョーマの痛み。
分かち合うことで、少しでもリョーマが元気になってくれるなら……そう思って紡いだ言葉は、在り来りすぎた。

ちくしょー!本当にあたし、馬鹿すぎる。
もっとマシな言い方あるでしょうに。


「二宮が泣くことないって、前にも言わなかったっけ?」
「だから……アンタが泣かないからあたしが」
「泣いてくれてるんだよね。……ありがとう」


するとリョーマは、あたしの泣き顔を隠すかのようにあたしを抱き寄せた。


「二宮がいてくれたから、泣かずに済んだようなもんだよね」


こんなことして、そんなこと言われたら……ますます涙が出てくるじゃないか。
ずるいよ。分かってやってんじゃないかって思っちゃうよ。

ずるい。ずるい。
もっとアンタが好きになっていっちゃう……。

倒れた缶コーヒーが、既に熱を失って軽い音を立てながら転がっていく。
あたしの背中を、少し力を込めて抱き寄せるリョーマに、あたしはひたすら泣き続けるしかできなかった。









ずるいから好きです
(もう、リョーマのこんな顔見たくない)(もう、リョーマのことでこんなに泣きたくない)
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