「……眠れなかった」
別れた時間は、深夜一時近かった。リョーマは笑顔を見せて、あたしの家まで送ってくれた。
泣き腫らした顔を見て、一言「ゴメン」と言ったリョーマの優しさに、あたしは「ううん」としか返せなかった。
そして、あまりにも衝撃が強かった。抱き寄せられたコトなんて一度もないし。
「あー……目腫れてるし。クマできてるし……。最悪だな」
夕べ帰ってきた時に、適当に選んだ服を着て部屋を出た。
洗面所で軽くクマを隠す。化粧品といえるモノが全くないけど、誕生日に唯から貰った白粉だか何だかで、とりあえず隠してみる。
ついでに、これまた貰ったグロスだかでカサカサな唇を潤わせてみた。
まぁ、悪くない。(若干気持ち悪い?)
腫れぼったさは流石に隠せないけど。
「あら、化粧してどこ行くの?」
「こんなの化粧じゃないよ。遊園地行くって言ってなかったっけ?」
「あぁ、そういえばそうだったわね」
お母さんが朝食を用意しようとしたけど、それを断って家を出た。
食い気より眠気なんだ、正直。眠いけど眠れなかった上、食欲もあんまりない。
遊園地への集合時間は午前十時。ちょっとすれば、すぐにお昼だ。
若干ふらつく足を何とか前に進ませながら、何とか目的地までやってきた。
途中で乗った電車とバスで、少し寝こけたけど……。時間はピッタリ。あたしにしては珍しい。
「凛ー!良く時間ピッタリに来れたね〜!遅れるかと思ったよ」
「唯、おはよー。あたしだってやればできるコなんだよ」
「つーかすっごい眠そう。何?楽しみ過ぎて眠れない幼稚園児だったの?」
「いや、違うから。ねぇ、リョーマは?」
「んー?まだだよ?越前君も相当時間にルーズだかんね〜。まだ寝てたりして」
夕べがあれなだけに、それは十分有り得る。心身共に疲れきってるハズだから。
でも、それは杞憂に終わったようで。
あたしが回りを見渡してる内に、リョーマは欠伸をしながら怠そうに歩いてきた。
「あ、リ、リョーマ!おはよー!」
「はよ……。超眠い……」
あ、ヤバい。あたし、変に意識してない?
リョーマ普通じゃん!あー……バカバカ。意識しすぎだよ、コレ……。
顔が赤くなってないか、そんなことを気にしたあたしは、リョーマから顔を逸らした。
だって意識してるって思われたら、恥ずかしいじゃん。
ゆ、夕べのは……こー……たまたまだったんだよ!たまたま!
すると、逸らした方へリョーマが顔を向けてきた。
ちょ、やめ!見るな!
「な、何よ」
「……二宮、化粧してない?」
「え?!は、あ、け、化粧っていうか……。いや、こんなの化粧の内に入んな……」
「ふーん。いいんじゃん?」
あばばばば!な、何を言い出すんだ、コイツはッ!
も、そ、そんなこと言うな!何で誰も気付かないことアンタが気付くんだ!
いつも超鈍感野郎なくせして!
「……ッ、に、似合わない、かな。気持ち悪くない?」
「別に?いつも何もしてないから、気になっただけだよ」
「な、なら……いいんだけど……」
「……?」
あたしは恥ずかしくって、でも嬉しくて。どーにもこーにもいかない気持ちを、何とか静めようとした。
リョーマはリョーマで、数人の女子に引っ張られるように園内に消えて行く。
ちゃっかり、あたしに手を振って。
バカ。バカバカ。
これじゃあ意識して下さいって言ってるもんじゃん……。
何なの?リョーマのバカ。
「……あ」
リョーマが園内に消えてから数分が経った後、あたしは今日という日がとても重要な日だったことを思い出した。
「プレゼント……」
今日遊ぶことが決定してから、いそいで買いに行った誕生日プレゼント。
渡しそびれちゃった……。
「凛ー!何やってんの?中入るよー!」
「あ、うん。今行くー」
「にしても越前君。なかなかやるわね」
「……何が」
「凛をここまで乙女にする強者、なかなかいないじゃん?フフフフフ」
「気持ち悪ッ!」
唯がニヤニヤしながら小声で話し掛けてくる。
本当にその笑顔が気持ち悪い。
しかも盗み聞きしやがって!アンタ近くにいなかったじゃん!
「あんな大声でいちゃつかれたら、嫌でも耳に入るわ」
「心を読むな。いちゃついてないし」
「アンタの顔が全てを物語ってんのよ。で、越前君も満更じゃなさそうじゃん」
「……はぁ?」
「だーかーらー!今日!告っちゃえば?今日は越前君の誕生日でもあるし、クリスマスイブでもある!こんなチャンス、滅多にないでしょう!」
「いやいやいや!無理だろう!」
唯から突然の計画に、あたしは即答した。
いや、無理でしょ。どー考えても。
傷付いた心は、そんなに早く癒えない。リョーマだって、今日は色んなことを考えたくないから来たんだろうし……。
あたしの困惑な表情と、全く正反対の顔を見せた唯。
アンタ、あたしよか楽天的だな……。
「とーにーかーく!一人のところ見計らって、雰囲気良ければ……!」
「いや。でも……ねぇ」
はぁー……。でも変に意識したからか、心の片隅では期待してる自分がいる。
本当にリョーマ、に……?
あたしはバッグに忍ばせた誕生日プレゼントを、心なしか少し強く握りしめた。
今日は一体、どうなっちゃうんだろ……。
バカ、意識しすぎ
(いや、マジで越前君イケると思うよ!このワタクシが言うんだから間違いない!)(……アンタのその根拠のない自信、どこからくんの?)
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