その笑顔は反則だから

越前リョーマ

あれから数時間。
唯と共に、遊園地を回ってるフリしてリョーマを捜しまくっていた。
唯に唆されたと言っても過言ではない位の突然の計画。
あたしはあまりその気じゃないんだけど……この人がね?凄い勢いなんだよね。


「つーか、どこにいるのよ、アイツはッ!」


未だにリョーマもいなければ、連れて行った女の子達にも会えない。


「きっと神様が見付けるなって言ってるんだよ〜。ね、止めよう!」
「やだ。絶対見付ける」


はぁ〜……。もう何でこんなにやる気なんだ、このコは。止めてくれ。
確かにリョーマを好きだよ?だけど、この関係を壊したくないんだ。
隙間五センチの居心地がいい関係。
多分、リョーマは、ただの女友達の一人にしか考えてないんだから。


「こうなったら二手に別れよう。凛はこの先から。私は戻ってみるから」
「はいはーい」
「見付けたらソッコーで連絡する!」


携帯を握りしめ、今来た道を脱兎の如く走り抜ける唯。
漸くホッとできるってもんだ。唯には悪いけど、もうリョーマは捜さない。
気ままに行くよー。めんどいもん。


「アレ?二宮」
「ぎゃっ!」


いきなり背後から声をかけられ、落ち着いていた心臓が口から飛び出しそうになった。
振り返ってみれば、それは唯が一番捜していた人物。


「リ、リョーマ!な、にやってんの!」
「連れ回されてたの、やっと撒いたとこ。あー疲れた。眠いし」


あ、やっぱりめんどくさかったんだ。
だよね、引っ張られてる時の顔が、既にめんどくさがってたもん。


「どっか座んない?疲れた」
「え?じゃあ、ソコのベンチにでも……」


アトラクション下にある、数人掛けのベンチを指差して、まずはリョーマを座らせた。
座らせてる間に買いに行った缶コーヒーをリョーマに差し出すと、「お金」と小銭を出そうとするから「いらない」とだけ言って、あたしもベンチに座る。

暫く続く沈黙。
あたしは何て声を掛けていいか分かんないし、リョーマもしゃべらない。
いつもの調子だったら、あたしがベラベラ話すのにな……。変に意識してるのが悪いんだけど。

すると、何かに気付いたかのようにリョーマが口を開いた。


「誕生日、よく覚えてたね。俺の」
「え?あ、まぁ……そりゃ中一からの付き合いだし」
「けど、俺、二宮の誕生日知らないよ」
「ちょ、何ソレ!あたし毎年アンタに言ってるのに?!」
「ジョーダンだよ、ジョーダン。ちゃんと覚えてるよ」


夕べの、どんよりとした表情とは変わって、リョーマらしい笑顔を向けてくれた。
少しホッとする。あたしといることで、少しでもあのコトを紛らわすことができてるようだ。


「はぁー……。そーいやアンタ、あたしの誕生日にまともなプレゼントくれたことないしね」
「そうだっけ?」
「うん。ファンタとか使いかけの消しゴムとか……あーあと!傘!」
「いいじゃん、傘」
「置き傘じゃん!あたしの誕生日に雨降ってさぁ!んじゃ、プレゼントって折りたたみ傘出したじゃん。俺、もう一個あるからってさ!」
「あー……そうだったっけ?」
「んもー!こんなヤツに毎年ちゃんとしたプレゼント、用意してるあたし凄くない?」


これはチャンスだと思って、バッグに忍ばせておいたプレゼントを取り出した。
ちょっと小さめの、箱。ブルーのリボンをかけてもらって、プレゼントだということを主張してる。


「毎年悪いね」
「ちょっと。お礼ぐらい言いなよ」
「ん、サンキュー。で、中身なに?」
「開けてからのお楽しみ〜」


あたしのニヤニヤした顔に、少し引き気味のリョーマが、丁寧にリボンと包み紙を剥がし始めた。
現れた黒い箱を開けると、シルバーの時計が顔を出す。

ふっふっふっ。ちょーっと値は張ったけど、一応ブランド物だぞ。(お小遣いとお年玉、なくなったけどな!)


「時間にルーズだかんね、アンタ。時計とか持ってた?」
「いや、ない……。ありがと。高かったんじゃない?」
「ちょっとね。大事に使いなよ!」


時計をまじまじと見て、早速腕に付けてみる。
……気に入ったみたいだな。良かった。
腕に付けた後、直ぐさまあたしを見た。
何だか知らないけど。知らないけど!

満面の笑みで。


「コレは嬉しい。本当にありがとね」


あたしは顔が赤くなっていくのが分かった。
だって、それは反則だろうッ!そんな嬉しいとか言って、笑顔でッ!
ば、ばかばかばか!ちょ、何言えば……。


「ねぇ、リョーマ」
「ん?」
「あの……あたし、リョーマが好き」
「ふーん。…………え?」


多分。唯のせいだ。リョーマのせいだ。
あたし告白するつもりなんてなかった。これっぽっちも。

だけど反則的なその笑顔と、唯の声が頭の中で反芻したと思ったら。
気付けばあたしは、リョーマに告白してた。


「……あたし、リョーマが好き。もうずっと前から。ずっと好き」
「二宮……」


明らかに困惑してるリョーマは、あたしからのプレゼントである時計を、固く握り締めていた。
どーしていいか、あたしも分かんない。
でも、リョーマもきっとそうなんだ。

時間だけが更々と流れる中、あたしはじっとリョーマの目を見ることしか……できないでいた――――。









その笑顔は反則だから
(……え?!アレ、凛じゃん!サボりやがっ……)(あら?あらあらあらあら?)(あとでたっぷりとご説明頂きましょう)
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