「ちぃーす」
「本当にきた。ストーカーだね」
「アンタがいいって言ったんでしょ」
思わず告白をしてしまった、クリスマスイヴ。
神様は……微妙に微笑んでくれた。
遊園地でのあたしの告白後は、ビミョーな雰囲気になった。けど、リョーマは表情を変えずこう言ってのけた。
「……別にいいけど。俺、未練がましいよ?」
――……いや、そんなアンタが好きなんです。申し訳ないけど。つーかケリつけたんだろ……――
そんな風な顔をしてたら、リョーマは小さく笑って、あたしの頭に手を置いて立ち上がった。
「でも俺。ずっと側にいてくれなきゃ惚れないよ?」
「ッ……!そ、それって!もしか……」
「惚れさせてみせろってことだよ」
イエスでもなくノーでもなく。はっきりとした答えじゃないけど。
あたしはそれでも十分だった。だって、完全にノーじゃないんだから。
望みがないワケじゃない。このままリョーマを好きでいられるのが、幸せだった。
「俺、ただの自主練だけどいいの?つまんなくない?」
「ヘーキ。リョーマがテニスやってんの、好きだから」
「……あっそ」
軽く頬を掻いた後、手にしてたラケットからボールを壁に向かって打ちはじめた。
この公園は、この辺りでは唯一壁打ちができる。
リョーマがフラれたり殴られたりした場所でもあるけど。コイツは気にしないらしい。
一定のリズムで、ボールの跡を壁に残していく。その跡はいつも一つ。
クリスマスイヴの前日に冬休み入り、年明け間近からの数日間は部活がない。
だからこうやって、部活がない日は自主練習してるんだよね。
「ねぇ、ストーカーって楽しいの?」
「はぁ?」
いつの間にか壁打ちを止めていたリョーマが、汗を拭いながらスポーツドリンクに手を伸ばしていた。
つーか何聞いてんの、コイツ。
「俺、ストーカーなんてどこが楽しいのか分かんないからさ」
「いや、あの。本格的なストーカーさんは分かんないけど……。今のあたしのこの時間は楽しいよ」
「…………ふーん」
「あ、何?その変態を見るような目は」
「こーゆー目で見たほうが、二宮は喜ぶと思って」
「んなワケないでしょうよ!アンタ、あたしを何だと思ってんのよ!」
「はは。俺マニア?」
「何ソレ!アンタが言うなよ!」
あー……あたし、心の底から今、幸せだ。
顔がニヤニヤする。抑えられないや。
何か、ちょっと。デートみたいで。それがまた、あたしの心を躍らせるんだ。
ニヤニヤしてるあたしをほっぽいて、リョーマはもう一個ボールを増やして、壁打ちを再開する。
さっきまでのリズムより少し速い……というか増えたリズムは、あたしの心臓の音と同じ速さだ。
あー……カッコイイな。ヤバいなぁ。
ばかみたいにリョーマが好きだ。
片想いしてた期間の中で、一番ときめいているかもしれない。
だって、きっと。隙間五センチの関係が、縮まったような感覚だから。
そんな、心と頭にはチューリップが咲いてるくらいなのに、体は思いっきり冷えてきた。
木枯らしが辛い……。寒さに強いあたしでも、流石に体を動かさないとどんどん熱が奪われていく。
「……ッ、はっくしゅッ!」
「寒い?つーか、くしゃみぐらい隠しなよ。女でしょ?音デカイ」
「うるひゃい。いーの!あたしは隠さない主義なの!」
「はいはい」
呆れられたな……。っていうか、昔から隠したことないから、隠すことなんて忘れてたよ。
そんなのリョーマだって知ってるじゃん!
今更言われたって仕方ないよ!
「あ、ゴメン。集中してんのに、手、止めさせちゃったね。気にしなくていいよ。続けて」
「いーよ。ちょうどいい頃合いだし。どっか寄ろうか?」
「いいよ!悪いじゃん!」
ストーカーしてる身なのに、超邪魔しちゃってるよ、あたし。
や、もう。ストーカーって陰から見守るような感じなのに、堂々してるのもどうかしてるかもだけど。
あー……そうだ。幸せを感じてるのはあたしだけか。
リョーマにとっては迷惑なだけ、だよね。本当は。
そう考えれば考える程、悪い方向へどんどん思考が切り替わっていく。
いくら公認されたって、本当なら迷惑な存在かもしれないんだよね……。
「ゴメン……。自主練、邪魔してるよね。迷惑だったよね。集中してるのに……」
「……何、らしくないこと言ってんの?」
「らしくないって……。だって、あたしよく考えたら邪魔しかしてな……」
「それじゃあストーカーじゃなくない?俺がいいって言ってるんだから、いいんじゃないの?」
「リョーマ……」
「ホラ、マフラー。もう一個巻いて。どっか暖かいとこ行こ」
リョーマは自分のマフラーをあたしの首に巻いて、荷物を纏めて公園を後にしようとする。
リョーマのその優しさ……。今はあたしだけのモノだよね?
あたしが今、こうやって存在することを否定しないでいてくれてる。
それがまた……あたしの心に、暖かい風を吹かせてくれてる。
「ホラ、早く来ないとおいてくよ」
「うん……!」
このまま追い続けることを諦めさせないでくれてるリョーマが、本当に好きでよかったって思う。
そして、伸びる影がくっついて見えるのが……あたしには嬉しくてたまらないんだ。
公認ストーカー
(あ。そーいや櫻井に言っといて)(……?何を??)(ニヤニヤしながら俺見るなって)(…………ハイ。カシコマリマシタ!)
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