まるで女神様。

越前リョーマ

とにかく、メチャクチャにしたい。
そんな気分。別に試合に負けたからじゃない。

それをアイツにぶつけるなんて、俺らしくないって思ったけど……。










「ね、なに。リョーマ」
「黙って」


俺の部屋で当たり前のように部活終わりを待つようになった凛。
家のドアを開けたとき、靴があるのを確認するとどこか安心してしまうんだけど。

今日はそんな余裕すらなくて、ただいまの挨拶もせずに部屋に駆け上がる。

俺のベッドを机代わりにして雑誌を見ていた凛に、俺は荷物を置いてそのまま覆いかぶさった。


「ちょ、どこ触って……」
「いいから」
「待って。よくな……ん、」
「待たない」
「ふ……ッ、」


するすると、凛の服の中に手を伸ばす。
唇は首筋を捉えていて、短く反応する凛を見てると……更に自分が高揚してるのを感じた。

止まらない、ってこーゆーことなんだな……なんて頭の隅では考えてる。
凛が反抗しないのをいいことに、俺の手はどんどん上へ上へと進んでいった。

いったんだけど。


「……ッ、や、やめぇーいッ!!」
「いたっ!!!」
「イキナリなにすんのよッ!盛りのついた猫か、アンタはっ!!」
「いってぇ……」


俺の手が凛の胸元を捉えようとしたとき、おもむろに俺のほうを向いたかと思ったら。
そのまま俺の頭を思いっきり雑誌の角で殴ってきた。
雑誌で叩くんじゃないよ?雑誌の角で殴ってきたんだからね?

痛いってもんじゃない。マジで。
ホント、コイツ女?すぐ暴力に走る……。


「盛りのついた猫って……なんだよ、その言い方……」
「帰ってきて早々、訳も言わずに襲うなんて盛りのついた猫で十分だわ」
「…………」
「ぶすくれた顔しないの!」


まぁ、確かに。凛の言うことは間違ってない。
いや、だからって盛りのついた猫はないでしょ……。カルピンが過ぎるじゃん。


「……なに。また負けたの?」
「……うるさい」
「言ってくれなきゃ、あたしリョーマのこと慰めてあげらんないじゃん」
「別に慰められたい訳じゃない」
「慰めてもらいたくて襲ったんでしょ」


本当さ、最近は凛に口では勝てない。
俺の考えてること、全部お見通しなんだもん。
しかもズケズケと人の傷口えぐるよーなこと平気で言うんだよね。遠慮しろよ、たまには。

俺はなんとなく凛にも負けた気がして、その顔を見られたくなくてそっぽを向いた。

でも、帰ってきたときの……なんとも言えない感情。全部なにもかもメチャクチャにしたい衝動は、いつの間にか消えていた。

コイツのこういうとこ……本当に困る。
俺が俺でいられなくなるから。


「リョーマ」
「……ごめん」
「負けることだって、強くなるための通過点だよ」
「……わかってるよ」
「あたしは誰よりもアンタのことわかってるつもりだよ?行き場のない感情、あたしにぶつけてくれるのは構わないから」
「凛……」


さっきまでとは違う、優しい声のトーンに思わず振り向いた。
すると俺の頬を両手で包んで、凛が俺の唇にキスを贈る。
一瞬のことだけど。凛が自分からキスするなんて、今までになかったから。


「……やるじゃん」
「……あたしだってリョーマの力になりたいんだよ」
「ハハ、本当凄いね。アンタって」
「な、なによぅ……」
「俺のこと、こんなに簡単に惑わすなんてさ」


優しく凛を抱きよせた。
とたんに広がる、凛の温もり。
気持ちがより落ち着いて、隣に凛がいてくれることがすごく安心する。

凛を傷つけるつもりはなかったんだ。
ただ、どうしようもない感情をどう発散していいか……わかんなくなって。

でも。アンタはこうも簡単に俺の気持ちを変えてくれるんだから……。
初めからこうしてればよかった、なんて俺らしくもなく思う。


「そうそう。初めから優しくしてればいいんだよ」
「俺、相当アンタに優しいと思うけど?」
「え?なんだってー?」
「……うるさいなぁ……」


もう一度、唇を塞ぐ。
今度はちゃんと……甘いキスを贈るから。












まるで女神様
(アンタって俺にとって……)(ん?なに?)(……いや、いいや。教えない)
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