願わくばその隣

越前リョーマ


越前君が帰国したそうで。
凛がやたら張り切って、遊ぶ計画をたててた。
多分、越前君は知らないと思う。

クラスの何人かで集まる事を……。





「なっっっんで不機嫌なんだっつーの!」
「…………まぁまぁ」
「あたしがせっかくぅぅう!」


越前君が帰国するって凛から聞かされた時。何やら誰を誘うかーなんて話をしてたから。
ちょっと嫌な予感しかしなかったんだけど。

コレは越前君に同情するわ。

こんな良く晴れた休日に、カップルのデートスポットでもあるような商業施設立ち並ぶ観光地にさ。
彼氏彼女だったら二人きりで来るやん?
友人が居るとも思わんよ?

凛はその辺アホだからなぁ……。


「あたしさぁ!リョーマに言ったんだよ?帰ってきたらみんなで遊ぼって!アイツだって『うん』とか言ってたんだからね!だからさ!帰ってきたからサプライズでおかえり会やろーと思ってさ!」
「あーはいはい」
「それなのに!すっっごい不機嫌な顔して!『アンタの考えてる事分かんない』とか言って!さっさと他の人と行っちゃうしッ!」
「へーそうですねー」
「ああああ!もう腹立つッ!ムカつく!リョーマのバカアホマヌケすっとこどっこいッ!」


海が見える商業施設だけあって、もちろん人混みも凄いけど。
遊歩道に設置されたベンチで、凛は手にしたジュースを振りまくって興奮してる。

あーもう、こうなるとどーにもなんないのよね、このコ……。止められるの、越前君しかいなくない?


「ね!唯ッ!聞いてる?!」
「聞いてる聞いてる。でもさーアンタも悪いんだからね?」
「何が。どうしてよ」
「普通さ、恋人と遊ぶってなったらデートだと思うでしょ?他人がおったらビックリするやん」
「……えっ?!」


顔真っ赤にして、急に黙りこくった。口パクパクさせてる。ウケる。恥しい時する凛の癖だ。


「……デート?」
「いや、こんなとこ来るってさ。異性から誘われたらデートって思うでしょ?」
「…………デート?」
「アンタら付き合ってんでしょ?何やってんのよ、凛。越前君が可哀想〜」
「………………うぅぅ」


越前君と付き合う事になったって聞いたのは、つい二ヶ月前。凛の恋が漸く実って、私は本当に嬉しかった。ずっと片想いだったから。

凛は秘密にしたがって(越前君に恋してる人が傷付くの嫌だからって言ってたけど)、クラスはほとんど知らないと凛は思ってるようだけど。
越前君が帰国してからの凛への態度が激変したから、知らない訳がない。

越前君。ワザとなんだろーな。アレ。
ふふふ、将来のジャーナリストの目は誤魔化されないわよ?


「……そっか。だから機嫌悪かったのか……」
「やけに素直じゃん?」
「いや、だって。逆にリョーマにそんな事されたら、あたしもキレそうだから」
「ソコに自分で気付かない鈍感さが凛なんだけどね」
「うぅぅぅ……もうリョーマのこと鈍感って言えない……」


さっきまで振っていた泡立つジュースを大人しく飲む凛が、何だか可愛く見えた。
天真爛漫な凛を、ここまで可愛くさせるのは越前君あってのこそ。
実は、この屈託のない笑顔に惹かれる人は少なくないんだよねー。みんな凛が越前君の事好きって知ってるから、声かけないだけで。


「あ、何か通知きた」
「越前君じゃない?」
「えーあんなに不機嫌なのにぃ?」


携帯を見る凛の顔がほんのり赤くなった。
ふふふ、私、正解。


「“大声出すな。恥ずかしい。そこで待ってて”だって。……って、え?!どこかで見られてた?!」
「あーもー。越前君は凛が大好きだからお見通しだって」
「ばっ!だっ!大好きって……!」
「ほらほら、お迎え来たよ?」


少し気だるそうに凛の白馬の王子様……ともい、テニスの王子様はやってきた。
そーやって、サラッと攫っていくんだもんなー。カッコイイねぇ。


「悪いね、櫻井。凛のお守りさせて」
「いーえ〜。あとはお二人でどうぞー。集合時間までご自由に〜」
「ちょ!唯ッ!」
「アハハ!顔真っ赤にさせちゃってぇ。素直に嬉しいって言っときなさいよ」
「ホント、そうだよね。二人きりじゃないと素直じゃな……」
「だぁぁああ!ヤメロ!そーゆー事ここで言うなッ!!!」


色々と心配もしたけど。まぁ、終わり良ければ全て良しって言うじゃない?
私は凛が幸せそうで何よりだよ。

さて、邪魔者はこれで退散。あとでゆっくり凛から聞かせてもらうわ。


「じゃーね〜!越前君、凛のこと宜しく〜!」
「何よッ!あたしがお世話されるみたいな言い方……!」
「本当のことじゃん」
「リョーマッ!」


その場を離れて、遠ざかる二人の声。チラリと後ろを振り返れば。
本当に恋する乙女な凛にさせる、越前君。
その光景に私は満足!これからも弄りがいがあって腕がなるなぁ〜!

願わくは、越前君にはずっと凛の隣に居てもらって、その顔をさせてて欲しいものだ!









願わくばその隣
(にしても本当、デカい声。向こうで堀尾達と見てたよ)(……うぅ、ゴメン……ナサイ)(まぁ、こうやって可愛い顔見れて俺は満足だけどね)

- 2 -
*prev | *next
*Sitetop*or*Storytop*