小春日和の睦み合い

越前リョーマ


海外から戻ってすぐ、学校は春休みになった。
別に休みだろうがなんだろうが俺には関係ないんだけど。今年はちょっと事情が違う。


「ありがとうございましたッ!」


部活は既に夏を見据えた練習メニューになってて、部長になった桃先輩の元、手塚部長みたいなハードなメニューを繰り返してた。
まぁ、伝統と言われたらそれまでなんだけど。
四月に入学してくるヤツとか見に来てて、この時期ちょっとウザイんだよね。


「よー越前。良く耐えたな、今日のメニュー」
「桃先……桃部長。アレくらい別に」
「いーよいーよ、桃先輩で。お前くらいだもんな、部長って呼ばないの!」
「……っス」
「あ、ところでよ!このあと暇かー?帰りにマック奢ってやるよ!」


帰り支度中、桃先輩が俺の肩に手を置いて声をかけてきた。
今日の部活は午前中で終わり。明日は日曜日でオフだ。
桃先輩はいつも午前終わりの練習の時、何かと飯に誘ってくる。そののち公園とかで打ち合いに俺を付き合わせるためだ。


「無理っス」
「あーそだよな〜!今週はマック新作を……って、ええぇぇ!」
「いや、だから。無理っス」
「な、なんで!いつも奢りって聞けば来たじゃねーか!」
「いや、ちょっと用事が……」
「お、お前……!俺とその用事、どっちが大事なんだよ!」
「なんなんスか……気持ち悪い……」
「蔑むような目で見るな!言ってみただけだよ!」


海堂先輩まで睨んでんじゃん。うるさいから、桃先輩が。
俺はさっさと支度して、未だ喚いてる桃先輩を置いて先に部室を出る。
本当のこと言うと絶対からかってくるのは目に見えてたから、桃先輩には絶対言わない。


「うるせぇ!黙って支度しろっ!他の部員に示しがつかねぇだろっ!」
「海堂〜……。越前が……」
「情けねぇ声出すなッ!部長だろ?!それにアイツ、彼女出来たって話だろ」
「……………………えっ?!!!!!」
「なんだよ、知らねぇのかよ。……はっ、お前信用されてねぇな」
「う、うるせぇぇええ!」


部室から離れても、桃先輩と海堂先輩の喚き声が響いてる。
本当、仲良いね。あの人達。
俺は午後の用事のため、帽子を深く被って足早に学校を後にした。





学校を出てしばらくすると、いつも凛と待ち合わせをする公園に着く。
大体、俺よりも先に凛が来てることが多いんだけど、今日はまだみたい。
携帯の通知には、凛からの返事はなかった。

仕方ないのでベンチに腰掛けて、さっき買ったファンタを飲む。
別にファンタじゃなくてもいいんだけど。別にね。たまたま自販機にあったから。


「……まだかな」
「ここだよーん」


誰にも聞かれないと思って呟いた科白に、いつも知ってる好きな声が返事をして、柄にもなく体が跳ねた。
その拍子に手に持ってたファンタがすり抜けて、地面に鈍い音を立てて落ちる。


「あーもったいない〜!今日はファンタ?」
「……凛……」
「あはは、ゴメンゴメン!遅れちゃって。リョーマあたしに気付かなかったから、脅かそうと思って」
「……心臓に悪い」
「いつもあたしが脅かされてるんだから、たまにはいーじゃん!」


はー……。ほんっと、予想しない事してくれるよね。

俺が微妙な顔してるからか、凛はバツが悪そうに落ちたファンタをゴミ箱に捨ててきた。
そのゴミ箱から戻ってくる時の顔。その顔がまた微妙で。俺の真似でもしてんのかな?と思うと、笑わずにはいられなかった。


「ちょ、なに笑ってんのよッ!」
「い、いや……。変な顔だから……」
「なにをーーッ!うるさいッ!アンタも十分変な顔してたじゃん!」
「いや、だからって真似しなくても」
「真似じゃないしっ!」


キーキー言いながらベンチに乱暴に座ると、凛は足をバタバタしてそっぽを向いた。
拗ねてる時の癖っていうことを、最近凛の友達の櫻井から聞いた。コイツ、色々と感情が態度に出るよね。昔からそうだったっけ?

まぁ、そこが可愛いって言われればそうなんだけど。


「なによっ。じっと見て」
「ん?可愛いと思って」
「な、ばっ……!何言って……!」
「顔赤いじゃん?凛」
「頭に手ぇ乗せんなっ!もう!行こう!ご飯!」


顔を真っ赤に染めたまま立ち上がったから、思わず凛の腕を引っ張り引き止めた。
そのままバランスを崩して、俺に覆い被さる。
力を無くした凛はその体制のまま動けないでいて、俺はおかげで色々とし放題になった。


「耳、弱いんだっけ」
「あ、ちょ……触んない……」
「なんで?いーじゃん?」
「ぅあ……ダメだっ、て!ぁ……うおっ!」


身軽な凛を元の場所に戻す。何食べてるんだろ。軽すぎだよ。
そして、密着しててふと思い出した。部活帰りだし汗だくだった、俺。制汗剤ぐらいしかしてない。


「え?な、なに?」
「ごめん。俺、汗かいたから」
「は?」
「いや、部活終わりでココ寄ったから。汗クサイし」
「……ぷっ!いや、別に気にしてないけど!無臭だし!あはは!そんなこと気にしたの?」
「うるさいな……」
「いや、むしろ公園でこんなことする方を気にしてよ」
「そっちは気にしてない」
「ソレがおかしいって言ってんのー!」


プンプン言いながら「じゃーホラ、行こう?」と、凛が立ち上がって手を伸ばした。
眩しいくらいの笑顔。愛しいと思う笑顔。少し、心臓が早鐘を打った。それを気付かれたくなくて、凛の手を取り帽子を被り直して、そのまま歩き出す。


「まずはご飯でしょ?そしたらシャワーだね」
「ソレって俺ん家でしょ?そのあと何かするつもり?」
「なっ!なんにもしませんっ!」
「いーじゃん、こないだの続き」
「だから!こんなとこでそんなこと言うなって!」


こっちを向いて怒るから不意をついてキスを贈ると、怒るのに上げてた腕がするすると縮んでいくのが分かった。


「……もう!だ、誰かに見られてたら……」
「いーじゃん。見せつけてんだよ」


でも、その可愛い顔は俺だけのだからね。
こんなことするのも、アンタだけだから。











小春日和の睦み合い
(ハッ……アレは越前……!)(お、おのれ……この桃先輩を先置いて、なんてことを……!)(月曜日は校庭百周だな)

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