本当はちゃんと伝えようって思ってた。
けど……気が付いたら高校生活も最後で。
このままじゃダメだって思ったら、気持ちばっかり先走ってた。
だけど……笑顔見ちゃうと言えなくなっちゃうんだよね。
本当は小心者なんだよ。
それは高校最後のインハイを、青学が準優勝という成績を残した八月中旬。最後の最後で優勝を逃して、立海には本当適わなかった。
悔しさが残る数日後。思い出しただけでも涙が出そうで、部屋で腐りきってたとき。不二から一通のメールが届いたのが始まりだった。
『よかったら、一緒に星でもみない?』
要点だけ送ってくんなよー。
そうなった過程はどこいったんだって話。
俺はソッコーで返信をする。不二も返信めっちゃ早いけど、俺だって早いかんね。
つーかまさか男二人で星見ようってことじゃないよね?!不二に限ってそんな。彼女いんのに。
『なに?どゆこと?』
『彼女がね。高校最後の夏休み、せっかくだからなにかしようって言っててさ。なら、星でも見てゆっくりしようかなって思って』
『はーん。なるほろね〜。俺は別にいいけどさ、彼女ちゃんと二人きりのほうがよくね?』
意図はわかった。けど、そこに俺を入れる意味がわかんない。
普通、そーゆーのって二人きりでイチャイチャしたいもんだろ?
『そう言うと思ってた。けど、今回のは英二のためでもあるんだよ?』
『はい?』
『大野さん。誘わない?と言うかもうOKはもらってるんだけど』
『えっ!そそそそそれっえ!』
思わず誤字ったまま送信。
絶対!不二は画面の向こうで笑ってやがるな。
『高校最後の夏なんだから。受験前に青春を謳歌してもバチ当たらないと思うよ?』
誤字には触れず、俺の片想いを隅々まで存じ上げてる不二にここまでしてもらって。
断る理由なんてないに決まってらぁ。
『……行く!ぜっーーたい行く!』
『じゃあ僕から大野さんに連絡しとくよ?日時は八月十四日の午後七時ね。場所は僕の家の近くに大きな公園あるのわかる?開けた芝生の広場があるとこ』
『わかる!大丈夫!おっけー!』
会えるってわかったら、なんだかすごく胸が高鳴った。
俺の片想いも気付けばもうすぐ一年。
去年初めて同じクラスになって、今年も奇跡的に同じクラス。
不二が同じ委員会だったことがあって、そこから話すようになって。
くるくる変わる表情にいつの間にか目で追うようになっちゃって。
我ながら、恋する男子高生って感じが照れちゃうんだけどさ。
でも。大学どうなるかわかんないんだよね。
もしかしたら離れるかもと思ってたからこそ、後悔したくないなって思ってた。
しっかし……不二よ!本当にありがとう!
俺達はズッ友だかんなッ!(いや、古くない?って言いそうだけど、不二)
♦♦♦♦♦♦♦
八月十四日、午後六時半……。
昨日、不二に言われて集合時間が変更になった。
天体望遠鏡設置するの手伝ってって言われたけど、不二なら一人でちょちょーいとできそうなのにな。
「おーい、不二ぃ〜!」
「あ、英二。こっち」
「英二君、久しぶり〜」
「おー!終業式以来じゃね?」
不二の家の近くには、大きな公園があって。
そこは昼間はそれこそ人も多いんだけど、住宅街だからか夜はまばらになるんだよね。
今日も俺達以外には人気もなくて、なんだかソレが余計に緊張しちゃう。
しっかし、今夜は空に雲もなくて、天体観測にはもってこいだなぁ。
「って、あれ?望遠鏡設置できてんじゃん。なんだよー早くこさせた意味ある?」
「まぁ、これは口実」
「はい?」
「高校最後の夏、無駄にはしたくないでしょ?」
「英二君の恋、あたし達応援してるんだよ!」
「えぇ?!」
「僕達、これから急用ができちゃって帰る予定だから。七時には大野さんくるし……あとは二人きりでよろしくね 」
「えええぇぇぇッ!!」
え?!ふ、二人きり?!!
ええ?!みんなで星見るんじゃなかったの?!
つーか、それって結局不二だって彼女とイチャイチャしたいだけじゃねー?!!
「英二。今、僕の悪口言ったでしょ?」
「いやいやいや!滅相もございません!」
「まぁ、いいや。今日はそういうことにしといてあげるよ」
「周助。英二君、怖がってるから……」
「彼女のほうが俺のことわかってるってどーゆーことよ?」
「やだなぁ、英二。英二のこと誰よりもわかってるのは僕だよ?」
はい!怖い笑顔出ましたぁ〜!
不二には絶対口では勝てないからね。もうなにも言わんでおこ……。
俺が納得いかない顔でブーたれてると、不二は怖い笑顔からいつもの優しい笑顔に変わった。
まぁ、どっちも怖い説あるけどね。たまに桃とか震えてることあるもん。
「僕達ができるお膳立てはここまでだからね?あとは英二が頑張るんだよ?」
「……不二……」
「英二君。実はこの提案、周助からなんだ。あたしはただの付き添い。照れてあたしをダシにしたんだからね、周助」
「あ、余計なこと言わない」
「……不二ぃ〜ッ」
「はいはい。そろそろ七時になるし、僕達行くからね」
不二は俺に手を振って公園を後にした。
「成功してもしなくても連絡待ってるからね」って最後に言ってって。
俺、本当に不二の友達でよかった……!ズッ友だかんなっ!
感動の嵐の中、携帯の時計を見ると……あと十分で七時。
もうすぐ……もうすぐきちゃうな。
どうしよう。俺のカッコ、今更ながら大丈夫だよね?髪も……変じゃないよね?寝癖とかついてないよね?
あーどうしよっ!緊張してきた……!
そんな緊張MAXの中、聞き知った大好きな声が耳に届いてきた。
「あ、おーい!英二〜!」
「……ッ、紬!」
「早いね〜!英二があたしより先にきたのなんて、初めてじゃない?」
「い、いやいや。そんなことないし」
「わぁ、望遠鏡初めて見た〜!って、あれ?不二君達は?どうしたの?」
虫除け対策なのか、サマーカーディガンの萌え袖の手で天体望遠鏡を触りながら、周りをきょろきょろと紬が見渡す。
どんだけ見渡しても、もちろん不二カップルはいない。
「あ、なんか急用ができたんだって。主催者だからコレは貸してくれるって置いてったんだ」
「……ふーん?」
「と、とりあえずさ!座って座って!俺、お茶とかお菓子とか持ってきたんだ」
「お。用意いいじゃーん。わーい!あ、コレあたしが好きなお菓子!」
用意がいいのは当たり前じゃん。
だって全部、紬が好きだって言ってたお菓子用意したんだから。
伊達に一年も片想いしてないっつーの。こんなの朝飯前だって。
俺が持ってきたレジャーシートに腰掛けて、まずは水筒のお茶を渡す。中身は麦茶だけど。不二みたいに洒落たモン用意はできなかったよ。
何個かお菓子広げたら、今度は紬がカバンから電池で動く小さい扇風機を出してくれた。
「あ、扇風機!いいよね、これ。部活ンとき重宝したよー」
「あ、部活といえば……インターハイお疲れ様。結果、残念だったね……」
「あぁ、うん。……うん、ちょっとね。やっぱ悔しかった、かな!」
「……英二」
「やっぱさ!高校最後だったしね。大石とかタカさんとか、見にきてくれてたんだよ!全国に!今年会場がめっちゃ地方だったのにさ。遠いとこまできてくれて、応援してくれたんだけど……」
「うん……」
「あんなに練習頑張った、のにさ。やっぱ勝てないんだよね……。すっげー強かった。みんないっぱい応援、してくれた……のに」
あ。ヤバい。泣きそう。
試合終わったあと、もう出ないくらい涙流したハズなのに。あの日、レギュラーとかそういうの関係なしにみんなで泣いて。
俺は不二に肩まで貸してもらってさ。わんわん泣いたんだよね。恥ずかしいとか、情けないとか……そーゆーのは完全に消えててさ。
あの不二だって、俺に肩を貸してる間……震えてるのが伝わってきてた。でも強がっちゃってさ。「僕の分まで英二が泣いてるから、泣けないよ」なんて言っててさ。
あああダメだ。思い出したら余計に涙腺緩くなってきた。出る出る。涙、出ちゃうよ。
「いいんだよ、英二。涙なんて枯れたと思っても出てくるもんなんだから。我慢なんてしなくていいんだよ?」
必死に涙を堪えてると、紬がポツリと呟いた。
その表情は、凄く穏やかで。まるで女神様?と思うほど。
紬の中では普通なのかもしんないけど。盲目フィルターで俺には本当に女神に見えるんだ。
「うん……。うん、ごめん。やっぱ悔しい。すっげー悔しい。優勝したかった。みんな頑張ってた。練習もキツくてさ。優勝したかったから。そんで、中学んとき思い出して」
「中学のときは全国優勝だったもんね」
「うん。そんときのメンバーだって、勿論いるからさ。なんか、海外行っちゃった手塚とか越前とか。いないけど、メールもらったりしてたわけ。あのときみたいに、みんなの思いが一つになってて。それがさ……」
ここでダム決壊。俺はもう我慢しませんとばかりに、涙が溢れてしまった。
たった数日じゃあ……そうそう切替することもできなくて。
胡座をかいてたレジャーシートの上に、ぱたぱたと涙が落ちていく。
俺はそれをタオルで拭くんだけど、拭いても拭いても拭え切れなかった。
「英二……」
「あ、ごめん。なんか止まんなくなっちった。ごめんごめん。せっかく星見ようって言ってたのに……」
「いいの、星なんて。いつでも見れるもん。だって英二のためにあたし、今日きたんだから」
「…………え?」
「実はさ……全国。あたし、応援に行ってたんだ」
「ええっ?!」
「すっごくピリピリしてたから、声かけらんなくて。纏ってる雰囲気とか変わんないのに、どこか知ってるテニス部の人達じゃなくてさ。躊躇っちゃって……。今になってごめんね」
「や、そんなの紬が謝ることじゃなくね?」
うっわ、全然気付かなかった……!
まぁ、観客席ゆっくり見る暇なんてなかったけどさ。大石達は、関係者席だったしね。
「英二達が頑張ってたの、あたし知ってたから。声枯れるまで応援してたよ。もう後半見れなくて。あたしも泣いちゃった」
「紬……」
「だからいいんだよ。悔しい気持ち、もっともっと表に出してさ。泣くことだって大事だもん。それでこれからもっと強くなれるよ」
丸まってる俺の背中を、そっと撫でて。
まるで小さい子どもをあやしてるかのように。
……俺が幼児って思われてないことを祈るばかりだけど。
優しくされるとさ、涙腺って更に崩壊するよね?
紬はソレをわかってるのか、今度は俺の頭まで撫ではじめた。
急に涙の勢いが止まる。勢いが止まったら、今度は顔に熱が集中しはじめた。
も、萌え袖で頭撫でんなよ……!今度は気持ちが決壊するじゃん……!
「だ、大丈夫。ごめん、本当。へーきへーき」
「……ほんと?気にしないでいいんだよ?」
「ほんと!大丈夫だって」
こ、コレはヤバい。雰囲気とかそーゆーの無視して自分の気持ちを吐き出しちゃいそうだ。
「ね、英二。あたしにはそういう気遣い無用だかんね?そんなつもりでこんなこと……しないから」
「……はひ?」
「や、だから……。え、えぇと……」
撫でてた手を引っ込めて、紬が顔を俯かせる。
ん?なんだ?え?様子がおかしい、ぞ?
俯いた紬の顔が、月明かりに照らされてハッキリ見えた。
耳まで赤くなっていて、思わず俺の心臓は大きく跳ね上がる。
「……ッ、星っ!」
「え、英二?」
「ちょっと寝っ転がってみよ!星、キレーだからさっ!ほらっ!」
「きゃっ……」
無理やり話の方向転換をはかって、紬をレジャーシートに寝転がらせた。俺も一緒になって。
目に飛び込んでくる満天の星空。
遠くに見える、数々の光る星。
その瞬間、お互いになにも言えなくなっちゃって。
そのまま無言の空気が、夜風とともに俺達を包んでいく。
まとわりつく、夜の夏。
自分達に降り注ぎそうな星。
東京でこんな星空見れるなんて、なんだか得した気分。
俺、全然星座とか知んないけど……。知らないこと言ったら、さすがに空気ぶち壊しだよね?
ふと、紬がどんな顔してるか気になって。
紬のほうを向けば……。
なぜか紬も俺のほう向いてた。
星じゃなくて、俺。
向いた瞬間、ビクってなったけど。
お互いに目をそらせずにいる。
気持ちが込み上げてくる。
目が合った瞬間から、高鳴る心臓。
もう、しまっておけない。
だから――――…………。
「紬……」
「な、なに……」
「好き」
「……ッ、」
「俺、紬のこと……好き」
「英二……」
「紬、は?」
ずるい聞きかたかなって思う。
けど、紬が俺にしてくれたこと。俺のこと好きじゃなかったらできないんじゃないかって、冷静になると思ったから。
「……その聞き方ずるい……」
「あ、やっぱり?」
「だって、うんしか言えないじゃん……」
「……紬」
「あたしも……英二が好き。じゃなきゃ全国まで試合みに行かないって」
うっすら瞳が潤んでるのがわかって。
満面の笑みに、胸が締め付けられるような感覚に襲われて。
いてもたってもいられなくて、思いっきり紬を抱きしめたくて。
寝っ転がってるこの状況に、どうしていいかわかんなくなった俺は、腕をソワソワさせてた。
それを見た紬は、ぷっ、と短く笑うと、小さく腕を広げてくれる。まるで、おいでって言ってるみたいに。
俺は犬か猫かってーの。
どっちかってーと猫のほうがいいけど。
「早くしないと腕閉じちゃうよ?」
「あ、やだやだ。ダメダメ!抱きしめたいの」
「あはは!正直者だ、英二」
紬がそう言って体を起こしたから、そのタイミングで思いっきり抱きしめた。
鼻を掠める紬の匂いと、俺に伝わってくる体温。
それがなんだか信じられなくて。
「……足りない」
「な、なにが……」
「紬が足りない。だってずっと好きだったんだもん。もっと紬を感じたい」
「ちょ、な……なにソレ……」
「こうしたいってこと」
柄にもないこと言ったなーとは思ったけど。
この想いは止められないから。
満天の星空の下。
きみに想いを告げられたから。
そっと唇にその気持ちを込める。
合わさる瞬間の、きみの瞳が忘れられない。
「もっとって言ったら怒る?」
「……怒れない、よ……」
今日のこの日、星に誓うよ。
ずっと一緒にいようって――……。
星の瞬きに想いをのせて
〜Happy Summer Valentine2020-sideE〜