まぁ……アイツには無理だなって思ってた。
「へ?ゲーム?」
ぶっちゃけ、わたしと英二。休みの日といえばすぐどっかに出掛けてしまう。
不二と雫のとこみたいに、お家でデート……みたいなことはほとんどない。
英二の家では家族も多いし、英二曰く「紬連れてくと、兄ちゃんも姉ちゃんもウザイんだよね」とのことだ。
逆にわたしの家だと、英二もなんだかソワソワしちゃって居ずらそうなんだよね。別に落ち着かないわけじゃないんだけど……。
だから。ちょっとだけ考えた。
「うん、こないだ雫から聞いてさ。レースのゲームやったんだって。不二と。雫、ゲーム機買ったって。英二と同じやつ」
「へー!イメージないけどね〜雫ちゃん。しかも不二とやったんしょ?不二も結構上手いかんね。普段やんないくせに」
「だから、わたしもやりたい」
「は?」
「だから。わたしもやりたい」
「いや、やんのはいーけどさ。どこで?俺ン家無理だよ〜!邪魔入るし」
今日は珍しくテニス部が一日オフの日。
こういう機会は本当に少ないから、そういった日は必ず朝から行動してる。
英二はこう見えて朝は強いんだよね。遅刻したこと一回もないし、むしろわたしにモーニングコールしてくれることもあるぐらい。
なのに授業中寝ちゃうのはどうにかして欲しいところだけど。(わたしはクラス違うから、不二談だけどね)
「ゲーム機って持ち出せるの?」
「持ち出せることは持ち出せるけど。俺んのだし」
「じゃあ、わたしの家は?」
「……あり?紬の部屋ってテレビあったっけ?」
「ふっふっふっ……」
こんなときのために、こないだの学診頑張ったんだよねぇ。って、こんなときってどんなときだよって思うけどさ。
「じゃじゃーん!」
「おおおっ!テレビだっ!なんでぇ?」
「へっへー!こないだ学診あったでしょ?」
「……あー俺がボロボロだったやつ?」
「いつもボロボロじゃない。そうそう、その学診の結果がよかったら、好きもの買ってもらえる約束してたのよ」
「ふへー!俺には縁のない話だ〜」
朝からマックで寛ぐ英二を引っぱたいて家に行き、無理矢理ゲーム機持たせてからわたしの家に来てもらった。
それが普段ソワソワしてるくせに部屋に入るなり目を輝かして、テレビにゲーム機をセットしてくれている。
こういうとき、率先してやってくれるのいいよね。
「はーい、設置終わり!なにやる?」
「つーかいいの?」
「はぇ?なにが?」
「今日……こんなんで。わたしのワガママ聞いてもらっちゃって、いいのかなって。英二、わたしの部屋苦手じゃない?」
「紬……」
やりたいって言って、そのままその通りになってるわけだから、わたしが不満に思うことなんてなにもないんだけど。
ただ、英二にとってはどうだったかなって。
ちょっと、そこんとこあんまり考えないで言葉に出してた節はある。きっと英二のことだから、わたしに流されちゃうだろうなって思ってたし。
「いーんだよ。紬が楽しんなら。それに別に紬の部屋が苦手ってわけじゃないし」
「……そうなの?でも、せっかくの一日オフでしょ?英二もやりたいことあったんじゃ……」
「んー……じゃあ、紬がやりたいことが俺のやりたいことってーことでどう?」
「……引っぱたかれてここまで来たのに?」
「んもー!なにらしくないこと言ってんの!」
らしくない。確かにそうかも。
いつもわたしのやることに、否定も拒絶もしない英二。そこに苛立ちなんて今まで感じたことないけど、そのままで英二は本当にいいの?
英二だって、やりたいこと言いたいこと……たくさんあるはずなのに。
いつもわたしを怖いくらい優先して。その優しさにわたしは甘えすぎて……ない?
「紬ッ!」
英二がわたしの名前を呼んで、ハッとする。
その瞬間、英二がわたしの頬を両手で押さえてきた。口の中の空気が押し出されて、声がもれる。
自分で言うのもアレだけど、変な声。
「むぎっ!」
「ちょっと、なに考えてんの?なんか勝手にネガティブになってない?」
「ふぇいひ……」
「言っただろ?俺がやりたいことは、紬がやりたいことって!それ以上でもそれ以下でもないの!本当にしたいことあったら、ちゃんと言うから」
ちょっと怒った顔して、そのまま勢いで「えいっ」なんて言いながらキスされた。
……ねぇ、わたしだけめちゃめちゃブサイクな顔してたと思うんだけど。
アンタだけずるい。そんな赤くして、可愛いカッコイイ顔して迫ってきて。
「わかった?」
「……うん」
「じゃー、よしっ!ほら、ゲームやろ!紬、したかったんだろ?」
「……うん、でもその前に」
「うん?」
「ちゃんと……キス、したい」
「……へっ?!!」
さっきとは比べ物にならないくらい、英二の顔が真っ赤になったから。
今度はわたしからそのキスを贈る。
だって、そんな顔。見たら止まらなくなっちゃうじゃん。そんなつもりなかったのに。
「紬ちゃん……積極的デスネ……」
「英二にだけ、ね」
「なんでそんな可愛いこと言うかな」
「そうさせてるのはアンタでしょ」
「そう?じゃー役得だぁ」
無理、なんてことなかった。
どんなワガママも、アナタのその優しさで包んで欲しい。
アナタだけしか叶えられないって……気付いたから。
優しさの処方箋
(ね、紬。ゲームは?)(……口実)(はい?)(英二とこうしたかった口実……なだけ)(……なんだよ、もっと可愛いこと言うなって。俺が止まんなくなっちゃうよ)