私が英二を英二って呼ぶようになってから、英二はいつもの英二とはちょっと違う感じになった。
「で?どこがどういう風に違うの?」
「え?え〜〜??具体的には良く分かんないのよね」
「随分曖昧だねぇ……」
「言葉では言い表し難いぜ……」
教室の片隅、昼休みに雫の席で前に座る私は、思わず大きいため息が出た。
「窓際って、あんまりクーラーの恩恵受けないよね」
「話変えなーい!紬の英二君の話を聞かせて下さーい!」
チッ!流石は私の親友。勝手に話を変える手法を見抜きやがった。
いや、手法って程ではないんだけど。女子あるあるだよね?
「なんだろう……なんつーかさ……よそよそしい?感じがする」
「ふんふん、それで?」
「え?!それでって……ッもう!私なんかどうでもいいよ!それよりアンタよ!不二とどうなのよ。ちゃんと仲直りできたの?」
何だか急に恥ずかしくなって、思わず雫の机をバシッと叩いた。
とたんに雫は、唇を尖らせて納得いかない顔をする。あー……このね、不二がメロメロになっちゃう顔ね。
分かる分かる。女の私でさえ、ちょっとキュンとくるもん。
「あ、あたしこそいいよ。周助の考えてる事なんてお見通しだもん」
「はっ!うっそだぁ〜。ついこないだ何考えてるか分かんないって愚痴ってたじゃん」
「こないだはこないだ!もう大丈夫だよ!」
はぁ〜っとまたため息が零れる。
何なのよ。私がアンタの為に英二に聞いてさ、不二の本心聞こうと思ってんのに……。
頬杖ついて、ふと窓の外を見る。
夏独特の高い空が広がってる。雲ひとつ無い。校庭はいかにも暑そうなのに、体操服を着た生徒がちらほら校庭に出てきてる。あぁ、もう五限目始まるのか。
もうそんな時間かぁ〜……。
ぼーっと見てると、見慣れた人が目に入った。
英二だ。不二もいる。
仲良いなぁ〜……。手足バタバタさせてるから、大方不二にからかわれてるんだろーな。
あー見ると普通なのに。私がいると少し変。
何?何で??
この言いようのない感情、曖昧過ぎて言葉が出てこない。
語彙力ない私に、説明なんてできっこないよ。
「もう、分かんないよ。私……」
「紬……。心は曖昧過ぎると壊れやすいよ?」
「…………」
そんなの分かってる。
だから、どうにかしなきゃ……ならないのに。
どうしたらいいの。
名前を呼ぶようになったのだって、みんなが英二英二って呼ぶから……それだけのつもりなのに。
ただ、今は見つめるしか出来ない。
そんな自分にすごく腹立つ。
曖昧すぎて壊れやすくて
(……元はアンタが不二と喧嘩なんかするから)(……ナンノコトデショウ?)(はぐらかすな!)