「だーかーらー!雫ちゃんと何かあった?!」
「別に何もないよ?至って普通だけど」
「それじゃあ困るんだってば〜ぁ!」
「何で英二が困るのさ」
「ねぇ、ちょっと英二借りたいんだけど」


廊下で大野さんから特命を受けてから、既に丸二日。
なんとなーく気まずくて、大野さんを誤魔化したり避けたり曖昧な態度を取りまくってたら、遂に放課後、部活前に詰め寄られてしまった。

校舎裏に引きずられて、いわゆる逆壁ドン。
(不二は止める訳でもなく笑顔で手を振りやがった)
トキメク前に戦慄を覚える。
怖いよぅ……。どーしたらいーんだよぅ……。


「ちょっと!どうなってんのよ!」
「にゃははははは……」
「殴られたい?」
「い、いやいやいや!ちゃんと聞いたよ!聞いたんだけどさ……」
「何?」
「不二さぁ……普通なんだよね。いつも雫ちゃんと喧嘩するとさ、不機嫌オーラ半端ないんだけど。今回なんも無いの」


ここまで話して、目線がふと顔より下に向いてしまった。
第二ボタンまで開いたブラウスから、チラリと見える肌に思わず魅入ってしまう。
まぁまぁ身長差あるから、見えちゃうんだよね。

(あ、ヤベ……。)

不意に体温が上がる。ヤバいヤバい。顔に熱が集中しちゃう。


「どこ見てんのよ」
「はぅッ!いや!これは不可抗力……」
「見ようとしなきゃ見ないでしょ!」
「だってぇ!大野さんが壁ドンなんかするからだろッ!」
「…………ねぇ、英二」


ようやく壁ドンからの呪縛から解き放たれて、ほっとしたのも束の間。
「英二」と呼ばれて大野さんの方を改めて見ると……より一層険しい顔つきで俺を見てる。

おおおおお怒ってらっしゃる……?


「に、にゃんでしょう……」
「あのさぁ。私、英二の事名前で呼んでるワケよ」
「へ?うん。呼んでくれてるね?」


急に恥ずかしくなって、顔を反らしてしまう。
二日前、名前で呼んでくれてるようになってからと言うものの、どう接していいか分かんなくなって。
なるべく普通にしようとしてるんだけど、どうにもこうにも上手くいかない。

顔が熱くて、反らしていても赤くなってんのバレてんじゃないかって、ドキドキしてる。
遠くで生徒の笑い声がする。
もうすぐ部活始まるもんな。笑い声が頭の中で響いて、思考が停止ししそう。

少し重い空気が流れる中、大野さんがすぅっと息を吸う音が漏れた。


「な、なのに。英二は私の事名前で呼んでくれないじゃん……」
「え?」
「せっかく名前で呼ぶようになったのに、英二はよそよそしいし。そんなに私に名前で呼ばれるの嫌だった?!」
「いやいやいや!滅相もございませんッ!」
「英二も私の事、名前で呼んでくれると思ってたのに。いつまでも苗字にさん付けだし」


険しい顔つきのまま、大野さんの顔が赤くなるのが分かった。
え……?コレ、どういう反応?


「英二の態度変わっちゃうし、私だってどうしたらいいか分かんなくなっちゃうし!何なのよ!私が何かしたって言うの?!」
「し、してない!してないよ!誤解だってば!」
「……どんな誤解よ」
「えッ?!いや、その……。お、俺もよく分かんな……」
「自分の事なのに分かんない事なんてある?!」


だぁぁぁああああ!!!!
ヤバい!ヤバいよ、コレ!ちゃんと話さないと解放されない?!
言えない言えない!俺、告白とかした事ないし!
アレ?あったっけ?ないよね?


「何か言ってよ……。ねぇ……」
「……ッ!」


目が潤んでるのが見えた。
心臓が早鐘を打って、言葉が出てこない。











どうしよう隠しきれない
(言うべき?だって俺だってようやく気付いたのに)(こんな事で泣かせたくないのに)

どうしよう隠しきれない

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