一世一代の告白から、既に一週間。
分かってる。焦りすぎてたのは。でも、仕方ないじゃん。あの状況で嘘なんてつけなかったし。


「……英二君、ご、ごめんね?」
「雫ちゃん。ど?紬の様子は?」
「マジ大変。めっっちゃ情緒不安定」
「コラ、雫。女の子がマジとかめっちゃ、なんて言葉使っちゃダメでしょ?」


夏の図書室は、めちゃくちゃ快適に内緒話が出来る個人的なスポットだ。
それもこれも不二が図書委員だからだけど。
カウンターに雫ちゃんと潜り込んで、作戦会議と決め込んでる。

テストが近い放課後、委員の当番なんてやんなきゃいいのに不二は真面目に仕事をしてる。(当番やっても試験は余裕ってことだよねー。ちぇっ)
インターハイが近いからホントは部活に精を出したいとこだけど、学生の本分にはさすがに勝てない。


「いや、本当にね?こんな紬初めて見たよ。今までそりゃあ恋バナの一つや二つ話してたよ?でも、あんなに情緒不安定なのは無かった」
「そ、そなんだ……」
「それだけ英二君の事、本気なんだと思うんだ」
「掻き乱したのは雫だけどね」
「うぅ……。本当にごめんなさい」
「いや!全然!ダイジョブ!むしろ関係が動いてよかったって思ってるよ!」


紬は毎日表情も変われば態度も変わるらしい。
雫ちゃんの計画だった事は打ち明けたみたいだけど、それに関しては特に何も言われなかったって聞いた。
おかげで俺は、雫ちゃんから紬に接触禁止命令が下されてる。もう一週間、会ってない。チラッとその姿を遠くから見ただけ。


「でもさ……。俺が告白なんてしなきゃ、今でも紬とちゃんと喋れたよね……」


なかなか上昇しない気分。不二には「柄にもなく落ち込んでるね」って言われたけど、俺だって落ち込む事ぐらいあるってーの。


「違うよ、英二君。さっき英二君が言ったように、関係がグッと動いただけでね!告白しなきゃ、なんて絶対にないよ。紬、まだ自分の中で気持ちの整理してるだけだから。もう少ししたら、きっとあたしにも話してくれるハズ。今まで気にしてなかった心の奥底、無理矢理引き上げちゃったから……キャパオーバーしてるだけだと思うの」


雫ちゃんは優しく微笑んで、肩をポンポンしてくれる。

うぅ……涙腺が崩壊するぅぅ……!


「うわーん!雫ちゃん〜〜!」
「ちょっと、英二。どさくさに紛れて雫に抱きつかないでよ」
「抱きついてないよッ!つーか今ぐらいいいじゃん!鬼!悪魔!俺は人肌恋しいのッ!」
「あはは!でも、ね。一個心配な事があって……」


不意に雫ちゃんの声色と表情が変わった。
その声色に椅子に座ってた不二も、雫ちゃんの方に顔を向ける。


「ここ一週間、紬の笑顔見てないんだ」


俺は、紬の一番好きなところって、今思えば笑顔だ。
くるくると表情を変えて、俺と話してる時だって笑顔が耐えなかった。そりゃあ怒ってるとこは超怖かったけど。
そんなとこ含めて、いつも紬のことが頭から離れなかった。自覚した今、俺にとって本当にあの変わらない笑顔が何より好きだったんだ。


「英二。大丈夫?」


不二に声をかけられてハッとする。
雫ちゃんを見ると、すげぇ心配そうな顔をしてて、これじゃあイカンと頭を振った。
ついでに両頬もバッチバチに叩いた。図書室に響く乾く音。


「え、英二君……。本当に大丈夫……?」
「図書室の利用者が不審な目でこっち見てるよ」
「ちょっと周助、それどころじゃ……」
「大丈夫、だいじょーぶ。気合い入れただけ!」


すくっと俺だけ立ち上がると、司書室に繋がるドアに向かう。カウンターを出るためには、司書室を抜けないといけない。


「雫。紬さんの居場所は?」
「え?……はっ!あ!今日は家に真っ直ぐ帰るって言ってたけど……。多分、あそこ。近くの河原だと思う」
「だって、英二。分かる?」


何度か四人で帰った時に通ったとこ。分かる分かる。大丈夫。
つーかさすが不二……。俺の考えてることなんて、お見通しナンデスネ。


「ありがと!行ってくる!」


接近禁止命令なんて、クソ喰らえだいっ!
今すぐ会いたい。きみのそのいつまでも変わらない笑顔を見たい。
もう、泣かせたりしたくない。だから――……。


「待ってろー!紬ーッ!」











きみは変わらない笑顔で
(周助、良く分かったね)(まぁね。ホラ、英二って単細胞だから。大体の事は分かるよ)(あ!単細胞!ソレ、英二君にあたし怒られたんだけど、どういう事?!)

きみは変わらない笑顔で

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