ここ一週間、私はとにかく変だ。
英二からの突然の告白に、頭がついていっていないせい。
おかげで雫には凄く迷惑かけてると思う。だからこそ、事の発端になった雫の計画を打ち明けられた時、怒る事も出来なかった。

気がつけば、ずっとあの告白の事を考えてる。
あの時の英二の顔も目も口も耳も全部、覚えてる。
真っ赤になって、真剣な眼差しで。あの、英二の口から……私の事を好きって言った事も。


「あ〜〜〜〜ッ!もうッ!」


テストが近いから、私は寄り道もせず帰ろうとしたのに。ふと、いつも雫と他愛のない事を話す河原に来てしまった。
西日が川面に反射して、まるで宝石みたいにキラキラしてる。

あー……まだちゃんと雫に相談してないなぁ。
いつもだったら真っ先に話すのに。自分の気持ちの思いつく限りを雫に聞いてもらうのに。
こんな事、今まで無かったなぁ……。だから、恋とかとは違うんじゃないのかなって思ってるのに。

なのに。

ソレは違うと、どこかで否定されてる気がする。
違うと思うと、胸がザワザワするんだ。


「こんなの、私らしくない」


いい加減、このモヤモヤした気持ちに白黒ハッキリさせたいのに。

河原の芝生に腰掛けて、流れる川を遠目に見送る。
奥では、小学生がよりによってテニスの練習なんてしてる。
その姿が、何でか英二とかぶって見えてしまった。

アイツ……何してんだろ。人に告っといて、それから全然会いにも来なくなって。
多分、雫か不二辺りに止められてたんだろーけど。
何が我慢しないだよ。本当、アホのアホだ。単細胞め。


「…………そうだよ。やっぱり違うんだよ。コレは恋とかじゃない。ただ、ビックリしただけ」


今までは、こんな風にならなかったし。憧れの先輩とかサッカー部のエースとか。色々ときめいた時あったじゃない。
アレとは全然違うもん。そーだよ。そう。


「こんなところで何やってんだよ」


背後から突然声が降ってきて、「ギャッ!」と言う声と共に思わず全身が大きく跳ねた。


「でけぇ声出すなよ、大野!こっちがビックリするだろ!」
「え、あ。田山……。ごめん。って、イキナリ声かけられたら誰だってああなるって!」


同じクラスの田山は、小学校の同級生。
去年、入学式の時に声をかけられて、小学校の卒業式以来の再開だった。
そんな田山が一通り私への文句を言ったあと、何故か私の隣に腰かける。

え?ちょ、なんで座るん?何用なのよ、アンタ……。


「あのさ、お前……。隣のクラスの菊丸から告白されたって本当?」
「ブフッ!!ちょっ、だ、誰から聞いて……」
「あ?何か噂になってんだよ。誰だかが見たとかって聞いた」
「……………………そ、そう」


ぎ、ぎゃああああああぁぁぁぁ!!!
は、恥ずかしッ!え!ちょっと!アレ、見られてたの?!あの一連の流れを?!!


「そ、それでさ!それで……お前ら付き合うのか?」
「えッ!な、なんでそんな事……」
「OKって、大野はしたのかよ……」


顔が熱すぎて、田山の訴えてる事が頭に入ってこない。何を考えていいのかも、何が正解なのかも分からない。
こんな時に、心を余計に掻き乱して欲しくないのに。田山はそんな私の気持ちを知ってか知らずか、更に問題発言をしてきた。


「OKしてないなら……。こ、断ってんなら。俺と付き合ってくんねーか……?」
「………………は?」
「俺、小学校の時からお前の事が好きだったんだ!菊丸がお前に告白したって聞いて、悔しくて。俺の方が大野の事分かってんのに!な?いいだろ……?」


やめて。やめてやめて。
私はアンタの事、そーゆー目で見れない。悪いけど、ただの同級生としか思えない。

口からそう吐き出したかったのに、言葉が出てこない。出てこない代わりに、何故か涙が出てきた。

何で?何で、目の前にいるのが英二じゃないの?



「大野……ッ!」


田山は私が泣いてるのを肯定と取ったようで、まるで我慢出来ないとばかりに急に抱きついてきた。
ギュと締めつけられる身体。その行為に、思わず鳥肌が立つ。

き、気持ち悪いっ!!!ゾクゾクするっ!!!


「や、やめ!田山……ッ!」
「俺のために泣いてくれるんだな……。嬉しいよ、大野……!」
「ち、ちが……!」


離れてッ!……と、言葉にだそうとした瞬間。視界に知ってる人物が目に入る。
会いたいような、会いたくないような。ここ一週間、私の頭の中を占領してた人物。


「え、英二……!」
「――……紬、どゆこと……?」


英二の声を聞いて、抱きついてた田山が徐に離れた。離れた事で、全身に拡がってた鳥肌が落ち着きを取り戻す。
息が荒い。呼吸が上手く出来ない。めちゃくちゃ気分が悪い。吐きそう。


「へっ……。残念だったな、菊丸。大野は俺のことが好きだってよ!」
「……はぁ?」


勝手に話進めんなッ……!誰がアンタの事なんか……!ふざけんなっつーの!
こんなにも私を気持ち悪くさせる人間、好きになるわけないッ!

そう叫ぼうとした時。
見たことない英二の表情に気が付いた。
今にも泣き出しそうな、辛い……顔。


「……そっか。そーゆーこと?邪魔して悪かったね」


踵を返して、英二が立ち去る。
その後ろ姿に、一度引っ込んだ涙がまた溢れ出てきた。

待って。待って待って待って!違う!
英二のそんな声、今まで聞いた事なかった。心に凄く響く。痛い。そして重い。


「ま、待って……英二……ッ!」


どんどん遠くなる後ろ姿に、足が立たない。追いかけたいのに、上手く力が入らない。


「……告白とか、迷惑かけてごめんね。もう、終わりにするから」


重く響く、英二の言葉。
私、今まで何をやってきたの?何でアレが違うって思ってたんだろう。
――……お願い、終わるなんて言わないでッ!!

駆け出したい気持ちだけが溢れて、追いかけられない身体にただただ涙が零れる。

アンタ、泣かせないって言ったじゃない。私、今までにないくらい泣いてんだけど。

唐突に気付かされた自分の気持ちに、心も身体も反応出来なくて、英二の後ろ姿を見つめることしか出来なかった。


「……ばかぁ、ッ!」


漸く絞り出せた言葉は、英二には届かなかった。











終わるなんて言わないで
(終わりになんてしたくない。なのに)(漸く気付けた自分の気持ち……もう英二には届かないの?)

終わるなんて言わないで

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