ありがとう

「ねぇ、ちょっと座ってくんない?」


あたしの部屋でリョーマが突然、なんの前触れもなく言い出した。
え、だって。この部屋来て数秒ですけど?
おじゃましまーすって言って、座ったらすぐ。
あたしにお茶の一杯も出せないつもりか。


「何事よ。なんなのよ」
「いいから。早く」
「はぁー?!ちょっと、理由ぐらい……」


そこまで言って、リョーマの顔みてなんとなく理解した。
なんかあったんだ。テニスで。


「……しょーがないなぁ」
「早く」
「はいはい。……っと、よっこいしょ」
「オバサンくさ」
「早くって言ったのはアンタでしょ」


とりあえずスカートの裾を少しあげて、あぐらをかいてるリョーマの足に腰をおろす。
目線が下のリョーマが、少し暗い顔をするのが見えたと思ったら。すぐさまあたしの胸元に顔をうずめて抱きついてきた。


「ちょ、なに!」
「ごめん。このままでいさせて」
「……なんかあった?」
「別に」
「誰かに負けた?」
「………………」


図星、でいいのかな?しかもこんな甘え方するの珍しい。初めてじゃないかな。
なんとなく行き場をなくしたあたしの手。どうしようと悩んだけれど、リョーマの頭を撫でるのが一番な気がした。

サラサラとあたしの指の間を流れる髪の毛は、絹の糸みたいに柔らくて、いつまででも撫でていられそう。


「大丈夫?」
「…………うん」
「こんなんでいいの?」
「うん。アンタの胸、けっこうデカ……」
「ちょっ!そんな感想出すくらいなら、ソッコーでどくよっ?!」
「ハハ、ジョーダンだよ」


顔をあげたリョーマは、もういつも通りのリョーマだった。
ホント、こんなんでいいんかね?まぁ、リョーマがいいならいいんだけど。変なことしなけりゃね?

あがった顔が近づいた、と思った瞬間。
そのまま小さな軽いキスが、頬に触れる。
何も言えなかったあたしが少し口を開くと、今度は乱暴に唇を襲う。
頭を抑えられて、抗うことを許されないキス。


「……ン、ッ、もう!」
「可愛い」
「もういつものリョーマじゃん……」
「うん。アンタのおかげ。ありがと」
「そう……?何もしてないよ?」
「これからしてもらうから」
「…………えっ?!!」


結局、あたしはリョーマのいいなりなんだ。
お礼なんて言われたら、余計に言うこと聞いちゃうじゃんか。
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さいととっぷしょうせつとっぷ