ダメって言われると、やりたくなるもんだよね?
それはあたしだけじゃないはず。
「くんなっつっただろぃ」
ブン太の家の前。インターホンを押して出てきたブン太は、開口一番こう言いのけた。
久しぶりにブン太が風邪をひいて。
こないだあたしが風邪ひいたときなんて、相当罵ってくれたからね。
そのバチが当たったんだっつーの。
「彼女が心配してきてやってんのに、なんなのその態度」
「ほー。きてやったねぇ。そんなこと言うなら、こなくて結構。そもそもこなくて正解なんだよ」
「はぁ?心細いと思ってきたのに、本当なんなの?」
「バカじゃねーの。伝染るだろ!」
あ、なに。そういうこと?
え。やだ、心配してくれてるのはブン太のほうなの?
やだやだ、そんなのときめちゃうじゃん!
「という訳で帰れや」
「やだ」
「おま……!人の話聞いてる?!」
「だってケーキ持ってきちゃったんだもん。元気になってもらいたくて」
「…………仕方ねぇなぁ。あがれ」
「わーい!」
「遊びにきたんじゃねぇんだからな。置いたら帰れよ」
家の中に入っちゃえばこっちのもの。
ふふふ。ブン太くん。あたしのことをわかって無さすぎでらっしゃる。
「ケーキは冷蔵庫の中入れとくからね?」
人の家の冷蔵庫ってちょっと緊張するよね。
邪魔にならないように隅っこのほうにケーキの入った箱を入れておいた。
ブン太はあたしを招き入れたあと、フラフラと部屋に戻っていってベッドに入り込んでいた。
熱はそんなにないって言ってたけど、やっぱ辛そうだな……。
多分、おそらく。元はあたしの風邪なのだ。
「おう、悪ぃな。助かるぜぃ」
「いーよいーよ。ブン太は寝てな」
「飯も食ったし薬も飲んだから、今夜には治ると思ってんだけどな」
「バカは治るのも早いって?」
「あ?お前、なんっつった?本当に俺の彼女?」
「あはは!ツッコミ入れる余裕あんだから、大丈夫そうかな!」
「アホか……」
顔だけ布団から上げて話すブン太は、あたしに辛そうなとこ見せたくないだけなんだと思う。
だから早く帰って欲しいんだよね。
でも。弱いブン太もブン太なんだよ?そういうの、全部見せてほしいんだ。
ただのワガママだとは思うけど。
「……帰んねーの?」
「ん?なんで?」
「だから伝染るって……」
「元はあたしの風邪なんだから、大丈夫だって」
「お前の風邪とは限んねーだろ」
「あのとき罵ったくせにキスしてきたから、絶対あたしの風邪だね」
「ぐっ……!」
頭がクラクラするのか、勢いよく体を起こしたはいいけどそのまま布団の中に逆戻り。
まだ熱下がってないんじゃない。まったく、すぐに強がるんだから。
「ほら、冷えピタ貼り直そう」
「いいって。自分でする」
「こういうときくらい甘えてよ」
「な、なん……」
「あたし、どんなブン太でも嫌いにならないよ?カッコ悪いとこも好きなんだけどな」
「…………アホぅ」
あれ?熱のせい?顔が真っ赤ですよ。可愛いなぁ。
でもそんなこと言ったら、多分へそ曲げちゃうだろうな。
若干ニヤニヤしながらだったとは思うけど、冷えピタの替えをブン太の前髪を上げて貼り直す。
すると、ブン太があたしの手をおずおずと握ってきた。その手が熱い。やっぱ下がってないじゃん。
「お前の手、冷てぇ」
「あ、ごめん。嫌だった?」
「いや……気持ちいい」
「そう?」
「うん……。なんか安心する。灯の手って、こんなに気持ちよかったんだな……」
あぁ……なんかブン太が素直。
可愛い。可愛すぎる。あたしの彼氏が世界で一番可愛い。絶対的存在。
手を握ったまま、ウトウトとし始めたブン太。
空いた手で頬を撫でると、ちょっとウザそうにした。
それが可笑しくて可愛くて。あたしはとある衝動に駆られてしまう。
ブン太の寝てる顔にそっと近付く。
熱で少し頬が赤らんでて、なんだかそんなブン太も愛おしくて。
そのまま、ちょっと開いてる口元に唇を合わせようと――……。
「待て」
合わせようとしたらブン太の空いてる手が、あたしとの顔の間に滑り込まれていた。
「あれ?」
「あれ?じゃねーよ。なにしようとしてんだよ、お前」
「え?キス」
「ハッキリさらっと言うなって!こっちが恥ずかしくなるだろぃ!」
「だって寝てるブン太にしたかったんだもん」
「だもんじゃねぇって!本当に伝染るからダメだっつーの!」
くそっ!起きてたんかいっ!
今なら絶対イけると思ったのに!
なによなによ!アンタだってあたしが風邪ひいたときにしたじゃない!納得できんッ!
「そんな顔膨らませてもダメだかんな」
「……ぶーっ」
「風邪治ったら……いくらでもしてやるよ」
「……ほんと?」
「ほんとほんと」
「うわー嘘っぽい。絶対してくんないヤツじゃん」
「ったく、お前は……」
恥ずかしそうに布団から上半身を起こしたブン太は、あたしの手を握ったまま自分のほうへ引っ張った。
なにも用意してなかったあたしは、簡単にバランスを崩してブン太の胸元へ。
……病人なくせに力はあるのがなんだか悔しい。
「これでも俺、相当我慢してんだかんな」
耳元で囁かれたら、もうなにも言えない。
だから、早くいつもの元気でかっこいいブン太になってね。
用法用量を守って正しくお使い下さい
(……じゃあケーキも我慢だね)(え?)(元気になってからじゃあ、もしかしたらケーキ悪くなっちゃうかもね)(え?え?)(悪くなったら勿体ないから、あたし食べておくね)(待て待て待てぇ!)