そろそろ呼んでくれてもいいと思うんだけど。
コイツ、全然そんな素振り見せてくんねーの。
ホントに俺のこと好きなんかな?なんだか自信なくすわ。
「でさ、丸井はどっちがいい?こっちのクリスマスケーキのほうが美味しいかなぁ〜」
コート整備だかなんだかで部活が休みの放課後。
俺は一緒に帰ることが日課になった灯に、恋人らしいことを望んでは悶々としてた。
クリスマスケーキは大事だが、正直今はそんなのどうでもいいわ。つかお前作んねーのかよ。だったら俺が作るわ、そんなん。俺が作ったほうが絶対美味い。自信ある。
……と、思う。
「ケーキなんて俺が作るぜぃ。そんなカタログなんて捨てろ捨てろ」
「丸井のケーキはあたしが食べるの。コレは家族用」
「……そ、そうかよ……」
うーわー。そーゆーこと、サラッというの反則だわ。
こっちが照れるじゃねーか。この学校帰りの道すがら、襲っちまうぞ?つか、襲ってしまおうか。殴られると思うけど。どうせ真田ほど痛くないし。幸村君ほど怖くないし。
「あたし丸井の作るケーキ好きだから、今から楽しみにしてるんだからね」
「お、おぅ……任せろい」
天真爛漫な笑顔って、こーゆーこと言うんだろ?なんだよ可愛いじゃねーか。
もう名前呼ばれるとかどーでもいいや。この可愛い笑顔見れたらなにも言えねぇわ。惚れた弱みだよ、こんなん。ずるいんじゃね?
って、なるわけあるかい。呼ばれてぇんだよ、俺は!灯に!ずっと、同級生だからって苗字呼び捨てなんて他人行儀みてぇじゃん!
俺はそーゆーのから卒業してぇんだよ。お前、俺の彼女だろ?これじゃあただの同級生だよ!同級生だけど!彼氏彼女みたいなことしてぇんだよ。
せめてクリスマス前には名前で呼ばれてぇ。つーか今な。今。今、呼ばれたい。
「なに?なんか元気ないじゃん。丸井らしくないね?」
「はぁ……灯ってなんも考えてねぇよな。俺のこと」
「は?なにが?考えてるわ、世界一」
「せかっ……ッ、じゃあ呼べって」
「なにを」
せか、世界一とか言うか!普通!いや、嬉しいのは変わりねぇんだけど!なんだよ〜……可愛いじゃねぇかよ……。ダメだわ、好きすぎるわ、こんなん。
多少の照れもあったが、俺はコイツを襲うことにした。襲わねぇけど襲う。
クリスマスケーキのカタログを持つコイツの手を持って、力任せに抱き寄せた。
往来は人気も少ない夕方の通学路。誰も見てないからセーフ。だからその耳元でそっと呟いた。唇で触れた耳の縁が、じんわりと熱を帯びてる。
慣れない感覚なのか、灯の体が思いっきり跳ねた。やべぇ、そんな反応すんなよ。止まらなくなる。
「まる……ッ!」
「名前」
「……え?」
「名前、呼べよ」
黙る灯は俺の腕の中でその体を捩らせる。
抵抗してるつもりか?アホ。余計に止まらなくなるだろい。
……いや、やってもいいか。だって襲うつもりだったし。襲わねぇけど襲うって言ったし。
「……バ、バカっ!こんなとこで……!」
「人いねぇし、別にいいだろい。早く言えって」
「ッ、や、やだっ!」
「灯。この状況で逃げられると思ってんのかよ?」
「…………ッ、ん!」
お前が悪いんだからな。ここで素直に俺の名前言っときゃ、こんなことになんなかったんだからな。
高鳴る心臓を抑えて、触れた耳へ唇でついばむ音をもらす。途端に灯から甘ったるい吐息があふれ出した。
我慢できるはずもねぇよな。今までこんなことしたことなかったし。いいぜ、もっと出してやろ。俺だって我慢できねーって。
ゾクゾクする感覚に溺れはじめ、その耳に舌先を走らせる。舌先からも感じる灯の体温。真っ赤だし、すげぇあちぃ。
灯の耳にも勿論届いてるよな、この音。俺だってすげー興奮してるもん。
「ふ、ぁ……やめ、……ッ、ぅ……」
「ほれほれ。言わねぇとやめねーよ」
「ん、ン……っ!……ブン、たぁ……ッ」
「よーやく言ったか」
名残惜しく唇を離すと、顔を真っ赤にさせた灯が目に涙をためていた。やべぇ、すげぇそそる。なんだよ、そんな顔もできんのかよ。
「バカッ!ほんっっと、バカ!!バカブン太!」
「一回言ったら何回も呼んでくれんじゃん」
「〜〜……ッ!」
「いいよ、ずっと呼んで欲しかったんだからよ。バカと言われても俺は満足だわ」
いや、その先したいから本当は満足なんてしてねぇけど。これ以上やったら別れかねねぇ。ソレだけは嫌だわ。
「こっ、こんなことしなくったって言えば呼ぶのに……」
「ほんとかぁ?」
「あ、あたしだって……ホントは呼びたかったんだから」
「はぁ?」
「たっ!ただ、なんかタイミングと言うか……ずっと苗字で呼んでたから、なんか恥ずかしくって……」
ぷいっと顔をそらした灯は、口を尖らせてまるで拗ねた子どもみてぇ。
……ほんと、コイツの隣は飽きねぇわ。だから好きなんだけどよ。俺にしか見えない顔も増えてきたし。
こんなとこ見せられたら、さっきまでの自信のない俺なんてどっか行ったわ。
自信しかねぇ。俺、お前に好かれてるわ。
「灯」
「なによぅ……」
「こっち見ろって」
「なに?」
「いいから」
呼ばれて素直に向いた灯の尖らせたままの唇に、小さく一瞬キスを贈った。
大きく目を見開いた灯は、「ブン太のそーゆーとこだからね!」とますます拗ねたが……俺は満更でもない。
名前呼んでもらえるだけで、こんなにも満たされるもんなんだな。知らなかったわ。
満たして欲しかったんだ
(なぁ、クリスマスさ)(ん?)(俺ん家……泊まりにこねぇ?)(……えっ?!!)(昼間だったら!昼間だったら家に誰もいねぇし!)(…………ねぇ、なに考えてんのよ)