アナタに呼ばれて

別に期待してた訳じゃない。

そりゃ彼女だもん。電話かメッセージは送りたい。あわよくば「おまんが最初のメッセージじゃ」な返信も欲しい。あ、コレ。期待してるのか。

十二月四日。ピッタリ十二時。
あたしは狙ってメッセージの送信ボタンを押す。


「……いった!」


雅治とのメッセージアプリに『誕生日おめでとう』の吹き出しがついた。それがなんだか嬉しくて、思わず顔がニヤついてしまう。
そのままドキドキしながら既読になるか待ち侘びたけど……五分、三十分、一時間と一向に待っても既読が付くことはなかった。
催促するようで気乗りしなかった電話もかけたけど、コール音が鳴り響くだけで応答はない。


「……なんなのよ」


既読を待ち続けたあたしは、気付けば空が明るんで目の下はくまが目立っていた──……。







「まぁーさぁーはーるぅ〜ッ!!」


翌朝、ふらつく足取りで学校に向かえば、高校生らしからぬ出で立ちにテニスバックを背負った銀髪に向かって、あたしは思わず叫んでいた。


「おーなんじゃ。灯は朝から元気だのう」
「なんじゃ、じゃないっ!!ねぇ!……あ、誕生日おめでとう」
「おう。ありがとう」
「どういたしまして!……じゃなくて!あたしのメッセージ……」
「まっさはるぅ〜!Happybirthday〜」


あたしと雅治の会話の間に、甘ったるい声で雅治を祝う派手な女子生徒がその腕に絡みついた。
ちょっと?!!あたし彼女なんですけど?!!なんだその腕と乳は?!!なんでこの季節にバーンと出してる?!絡むな絡むな!その胸、あたしが揉むぞ?!

あたしは突き出しかけた腕が震えて、今にも雅治を殴りそうな勢いだったけど……派手女子が絡む腕をやんわりと抜き去っては、その顔めがけ腕を伸ばして突っぱねた。


「やん!もぅ〜!」
「ちょ、雅治?!」
「おまんも急いだほうがええ。時期に予鈴が鳴る」


気怠そうにあたしを見遣る雅治は、手をヒラヒラさせて踵を翻し、ふらふらと歩き出した。

あたしと派手女子は、なにも言えないままその場に取り残されて、気が付けば予鈴が響き慌てて正門をくぐる。

なんか……上手くはぐらかされた感が否めない……。
あんにゃろう〜……!絶対白状させる!誕生日のくせに!







昼休み。今度こそはとチャイムと同時に雅治の教室に駆け込めば、既に姿はなくそこにいるのは丸井だけだった。
仕方ないから丸井に雅治の現状を聞けば、「授業は居眠りこいてて四限目はサボってたぜぃ。プレゼント渡しにくる女子から逃げてんだと」とのことだ。

なにアイツ。あたしからも逃げてんの?!全然メッセージだって返ってこないし。彼女のメッセージを既読スルーとは喧嘩売ってんのか。まぁ、あたし以外からプレゼント貰おうとはしてない点は褒めてやろう。

お弁当を片手に、渡し損ねたプレゼントをポケットの中で弄んで険しい顔をしてると、丸井が棒付きキャンディーを舐めながら、あたしの顔を覗いてきた。
唐突のことで思わずあとずざりをすると、ニヤニヤした顔をしてキャンディーを口から出した丸井は、徐に口を開く。


「岡田も大変だな。あんなフラフラした奴が彼氏でよ。仁王なんて辞めて、俺にしとけば?」
「……やだ。アンタと付き合ったら太るでしょ。聞いたよ?元カノ十キロ太らせたって」
「……くそ。仁王のやつ喋ったのかよ!」
「丸井は要注意じゃ。彼女太らせてフラれたからな。今は女じゃったら誰でもええ状態じゃ……って言ってたよ」
「だぁーっ!だから俺に彼女出来ねぇんだよ!」


いやいや。彼女出来ないのは、女の子を太らせようとするアンタのせいだから。
憤慨する丸井を横目に雅治のいない教室を後にしようとすると、制服に突っ込んでいたあたしの携帯が短く震えた。確認すれば、通知欄には雅治の文字。
ようやくあたしにメッセージ送る気になったか、とその内容を見れば……たった一言だけ綴られていた。


『あそこで待ってる』


それは雅治の居場所。あたししか知らない、屋上以外のサボり場所。
あたしはお弁当とプレゼントを握り締めて……雅治の指定する場所に駆け出した──……。








「早かったな」
「ダッシュしてきた……」


息も絶え絶え、その場所……体育館倉庫に向えば、マットに体を沈めて欠伸をする雅治がそこにいた。


「よう分かったな」
「当たり前じゃん。雅治があたしに告った場所でしょ、ここ」
「おまんが俺のパーソナルスペースに入り込む、初めての女じゃったしな」
「とは言え、ここで告白とか普通しなくない?あたし、ビビったもん。しかもイキナリだし」


本当、ロマンチックも欠片もないよね。こんなところで告白とかさ。
本当にたまたまだった。この倉庫に入り込む人影を追って、雅治を見付けたんだ。有名人だもん、その名前と顔を知らないわけが無い。


「まぁ、その話は置いときんしゃい。灯、俺に用があるんじゃろ?」
「え?あ!そう!アンタにゃあ聞きたいことが沢山……!」
「昨夜のメッセージか?」
「まずはソレっ!!!!」


雅治が体を沈めるマットに、あたしは空いてるスペースに腰をかけた。雅治のほうに顔を向けて怒った顔をすると、その口角が釣り上がるのが見える。
その見えた瞬間、あたしの視界は天井へ向けられてしまった。ひんやりとした空気の中、じんわりと感じる雅治の温もり。あたしは抱き枕か。


「気が付いたのが夜中の三時だったんじゃ。流石に悪いと思ってのう……。そしたら今更なんて返していいか、わからんかったんじゃ」
「……いや、嘘でしょ。それ」
「ふっ……。まぁ、半分はな。もう半分は姉貴に付き合わされちょったから。アイツ、俺の誕生日をなんじゃと思とるんじゃ……」


あたしを確かめるかのように、その腕に力が入る。あぁ、こうやってあたしは雅治にすぐ絆される。だってもう怒ってないもん。怒れないし。雅治もわかってやってるよね。


「すぐ返事せんで悪かった。ただのう……今日は逃げるのに精一杯じゃった。おまん以外からプレゼント貰いたくないしのう」
「あぁ、うん。丸井から聞いた。うん、もう怒ってない。怒ってないから……」
「ん?」
「その手、離して?」
「これか?」
「ちょ、あ……ッ!」
「ほれ、出しんしゃい。持っとるんじゃろ?」


出しそびれてたプレゼント。制服のポケットの中で出番を待ってても、いつの間にか第三ボタンまで外されたブラウスの中で、まさぐられる雅治の手にその出番ですら奪われる。


「ね……まっ、出す、から……」
「早う出せ。じゃないとこの手は止まらん」


ぜ、絶対!出しても止まんないくせにっ!!
震える手で、ようやく雅治の目の前にプレゼントを差し出した。握り締めてたせいか、既にラッピングはその手の形に変わっていて、とてもプレゼントとは言えない様相だ。


「ッ、……ん、ほら!だ、出し……た!」
「おー……なんじゃ、綺麗に灯の手の形しとるのう。手形かなんかか?」
「ちが……や、ん……ッ、もう!!」


このままでは最後までいきかねない。
そう身の危険を感じたあたしは、無理矢理体をおこして雅治と少しだけ距離を置いた。
名残惜しそうに雅治の手が離れて、あたしの手の中のプレゼントをそっと取る。少し破けたラッピングから、ずるずると指でプレゼントを引っ張り出す。

コイツ……綺麗に包装を取るタイプではないな。
まぁ、取れないけど。ぐちゃぐちゃだもん、今年のプレゼント。


「……組紐、か?」
「うん。雅治の髪の毛……それで纏めて欲しくって。まだ伸ばすんでしょ?」


引っ張りだされたのは、青がベースで白く細い糸で括られた組紐。雅治の好きな色だ。
高校生になって、レギュラーの座を死守し続ける雅治に勝利の願いを込めて。あたしが作った組紐。


「雅治が試合に勝ち続けますようにって……」
「ふっ……おまんの願いがこもった組紐か。こりゃ、負けられんな」


纏めた髪を一旦解き、あたしの組紐で再び結び直せば……。その唇から小さい声で「ありがとう」と呟き塞がれる。吐息が混じって、この熱が自分だけじゃないのを酷く感じさせられた。


「……ほら、お昼。食べようよ。時間、なくなっちゃうよ?」
「あぁ、だがな」
「うん?」
「まずはお前さんを頂こうかの」
「えっ?!!」
「灯のせいで熱が引かんのじゃ」











アナタに呼ばれて
(ねぇ、雅治)(なんじゃ)(あたしからプレゼント受け取ったし、他のコのプレゼントは受け取るの?)(……おまんから貰うことに意味があるからのう。他は知らんし、受け取る意味もない)(そっか……あ、そういえば)(まだあるのか)(丸井があたしを口説いた)(……ほう?)
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