いい加減、気づいてよ

からかわれてる、と思った。
アナタとの接点って、ただのクラスメイトだと思ってたから。



暑い。まだ梅雨だというのにもう暑い。
いや、梅雨だから暑いのか。
日誌が湿気で湿りすぎて、どんな濃い芯でも書けないんじゃないかって思うくらいだ。


「終わったかい?」
「あ、幸村君。もう少し」
「日直の仕事、あとそれだけだからね」
「うん……。湿気のせいで書きにくくて」
「あぁ、そうだね。今日は部活も筋トレだけになりそうだよ」


いやーアナタは、その湿気も味方に付けてそうな気がしなくもないですけもね。
あたしの前の席に優雅に座った幸村君は、あたしの書く日誌に目線を落としてる。
いや、ちょっと待って。そんなに見つめられると緊張して書けんやん。


「あ。そういえば岡田。きみ、ご親戚が青学にいるって本当かい?」
「え?あぁ、うん。いるよ〜。同い年なんだ」
「やっぱりそうなんだ」
「えー誰から聞いたの?あ、柳君か」
「ご明察。蓮二の幼なじみがね、青学にいるんだ。それで聞いたのさ」


へーそーなんだ。それは知らなかったな。
柳君の幼なじみなら、やっぱりテニスしてんのかな。あ、テニスといえば。


「あたしのその親戚。まぁ、従姉妹なんだけどさ。テニス部の人と付き合ってんだよね」
「え?青学のテニス部?」
「そう。名前なんて言ったっけなー。幸村君、青学のテニス部の人の名前わかる?」
「レギュラーなら」
「あ、確かレギュラーだって言ってた。教えて教えて」
「えーと。部長が手塚で、副部長が大石だろ?蓮二の幼なじみが乾って奴で、あと不二……」
「あー!それそれ!不二さん!そうそう。不二なんとかさん!」
「ふふ、なんとかさん。面白いね、岡田は。不二周助って言うんだよ。へぇ、あの不二がね。へぇ……」


あ、れ。心なしか目が怖いんですけど。
なになに。やっぱりライバル校だからそんな怖い眼力になるの?いや、なんとなく違うな。これ。個人的っぽい。


「ふふふ」
「なに?」
「え?いやいや。幸村君もそんな個人的に誰かを睨むように見るんだね」
「……睨んでるとは語弊があるなぁ。ちょっと思うところがあるだけさ」
「あはは!なんかおかしい。へー、幸村君がそんなふうに思う人ってどんな人なんだろ。あとで従姉妹に聞いてみよ」
「俺には聞かないの?」
「へっ?」
「だから、俺には聞かないのかい?不二のこと、知ってるつもりだけど」


えーと?どういうこと?あたしに、従姉妹の彼氏のこと聞けってこと?
え?なんで?なんで幸村君に聞かにゃあならんの。
でも、そんこと言ったらきっとさっきみたいな鋭い眼光で見られるんだろうな。それは怖いから嫌。


「俺のこと怖いって思っただろ」
「えっ!滅相もない!」
「ふふ、冗談だよ。で?どうする?」
「えーと。じゃあ、お言葉に甘えて」
「そうだな。不二は青学では三強の一人だね」
「へー!あのコ、そんな人と付き合ってんだ」
「あと、見るからに優男。でも性格悪いよ」
「へっ?!」
「植物好きってところがまた嫌になるよね。俺と一緒だもの。腹ただしい」
「え?え?え?」
「写真が趣味なんだって。しかも舌がバカだから辛いものとか平気でね。それでいてイケメン。なんだ、弱点ないじゃないか。言って損したな」
「ちょ、あの。幸村君?」
「なんだい?あぁ、一個あったな弱点。酸っぱいものが苦手」
「も、もーいいから!わかった!わかったから!」


なになになに!怒涛の如く軽くdisてるじゃん!顔も怖いやん!え?なに?仲悪いんかい!


「別に仲は悪くないよ?好敵手と書いてライバルと呼ぶぐらいの仲だよ」
「とてもそんなふうには見えなかったけど?!って、また人の心読んだでしょ!」
「失敬だなぁ。岡田の顔に書いてあるんだよ。それを忠実に読んでるだけさ」
「やっぱ読んでんじゃん……」


え?幸村君って、こーゆー人だったの?ちょ、全然イメージと違うんだけど。でも幸村君がこれだけ人のことdisるって、その不二さんって相当ヤバい奴なんだ……。
あかん。あやつに一言、言ってやらにゃあ。


「あ。性格悪くてもいい奴には変わりないからね?そこも俺と似てるらしくて嫌なんだよなぁ……」
「え?似てるの?」
「もしかしたら、従姉妹だから好みも似てるところあるのかな?」
「あー……確かに。あのコと好み、似てるんだよね。好きな芸能人とか、食べ物とか」
「もしかして顔も似てるのかい?」
「まぁ、遠目でみたら似てるかも」
「あぁ、そしたら俺と不二も好みが似てるってことになるじゃないか」
「アハハ!………………って、え?」


え?なんだ?さっきから会話が高等すぎてついていけてないんだけど。
え?好み?あたしの好みがなんだって?あと、幸村君の好みがなんだって?
そりゃあ、あたしの好みはこの目の前の人ですけど?え?ん?あたし、さっき幸村君になに聞かれたっけ?

机に頬杖ついて幸村君は少しニヤリ、と笑う。
その笑顔に目が離せなくなる。


「ようやく気づいた?」
「え……気づいてない」
「意外と岡田って鈍感なんだね」
「どっ……!鈍感……」
「じゃあ答え合わせをしようか。誰と誰が好みが似てるんだっけ?」
「幸村君と……青学の不二、さん?」
「ご名答。じゃあ次。誰と誰が似てるんだっけ?」
「あ、あたしと……従姉妹?」
「当たり。じゃあその従姉妹さんは誰が好きなのかな?」
「不二さん……」
「うん、そうだね。で、俺と不二の好みが似てるってことは?岡田と従姉妹さんの好みが似てるっことは?」
「ちょ、ちょっと待って!待って!」
「待てないな」


こ、この上なく満面の笑みをかましてやがる……!
ヤバい。この展開って。なんで一体どうしてこうなった?!!

机の上に投げ出されてた左手を、不意に握られる。
ただでさえ熱が放出されてるというのに、握られた手にも熱が回ってくる。


「待てない。このときをどれだけ俺が待ったことか」
「ゆ、幸村君……」
「ねぇ。聞かせてくれないかい?答えを」


もう逃げられない。
こうすることもできないと思ってたのに。
こんな。こんなことになるなんて。


「あ、あたしが……幸村君を好き、で。幸村君も……あたしを好、き、でいる……?」
「正解。よくできました。灯、ご褒美はなにがいいかい?」










いい加減、気づいてよ
(そういえば、こないだ従姉妹から電話あってね)(従姉妹さんって、立海の……クシュッ!)(やだ周助、風邪?大丈夫?)(いや……誰かに噂されてるのかも)
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さいととっぷしょうせつとっぷ