ペトルーシュカに花束を

03.



「しゅーすけ、ひなとねんこして?」
「いいよ。ほら、おいで。ご本読んであげる」


裕太達の寝室で許可をもらい絵本を読んであげると、読み終わる頃には規則正しい寝息が聞こえ始めた。しっかり寝てることを確認してからそっと寝室を出ると、若菜さんが入れ違いで寝室に入り、裕太は廊下で腕を組んで僕を待っていた。


「悪ぃな。風呂に寝かしつけまでしてもらって」
「全然。陽菜乃、しっかりいい子に育ってるね。さすが裕太の子だ」
「別に、俺だけじゃねーよ。若菜がしっかりしてくれてるから」
「本当、裕太にはもったいない奥さんだね」
「うるせぇ。しかし、マジで陽菜乃が俺んとこ来ねぇの」
「ふふ、僕は愛されてるなぁ」
「陽菜乃だけな」


階段を降りてリビングに戻ると、由美子姉さんがソファでワイン片手に手招きした。
僕と裕太もソファに座り、用意したグラスにワインを注ぐ。僕は飲まずに、裕太にだけ差し出した。


「さて。今日はなんで僕を呼んだの?」
「周助。結婚考えてる?」
「直球で聞いてくるね……。それを聞くために呼んだの?帰ってこないほうが良かったかな?」
「まぁまぁ、聞きなさい。実は周助のこれからの運気があまり良くないのよね。ちょっと大きめな面倒に巻き込まれそうなのよ」
「へぇ」
「ほら、彼女……加奈さんだったっけ?あのコにも同じような運気が巡ってて……」


加奈の名前が出た瞬間、思わず体が強ばってしまった。悟られまいと必死に隠したけど、姉さんには見透かされてそうだ。


「……やっぱり何かあるのね?あのコ、ちょっと一筋縄じゃいかないみたい。周助が苦労することになりそうよ?」
「まぁ、大丈夫だよ。それなりに仲良くやってるから」
「加奈さんって、俺会ったことないんだよな。経済雑誌だか週刊誌なんだかで見たことはあるけど。財閥の娘さんなんだろ?」


既にグラスが空になった裕太は、自分でワインを注いでグイッと飲み干した。
ペースが早いのは姉さんゆずりだ。


「うん、まぁ……。今度、お兄さんが会社起こすって言ってたよ」
「あ、それ。パーティー開くでしょう?」
「あぁ、うん。よく知ってるね」
「私、招待されてるもの」


少しふらつきながら、姉さんは自分の荷物から一枚の封筒を取り出した。
真っ白な封筒には、姉さんの住所と『不二由美子様』の印刷が丁寧にしてある。


「いつの間に……。加奈からは聞いてないよ」
「そのお兄様かお父様かしらね?」
「姉さんが占い師だから、かな」
「お、俺には……!」
「きてないみたいよ?若菜ちゃんに聞いたもの」
「あ……そう」


マスコミがくるぐらいだ。多分、多くの著名人にも送ってるはず。僕の姉が占い師をやってること、加奈は知っていた。

そんなに――……僕に対して箔を付けたいのかい?

姉さんに封筒を返して席を立った時、携帯が短く震えた。通知を確認すると、加奈からだ。

『今日は泊まり?昼間に言ってた件、明後日のお昼で決まったから。あ、そうそう。周助のお姉さんって占い師だったわよね?パーティーの招待状送っといたから。よろしく』

今までの穏やかな気持ちが影を忍ばせ、どうしようもないやり場のない感情が込み上げてくる。


「周助?どうしたの?」
「……パーティー、僕も加奈と出席するんだ」
「あら、そうなの?じゃあその加奈さんにも会えるかしら」
「そうだね。改めて紹介させてもらうよ。ごめん。僕、もう寝るよ。おやすみ」


携帯を強めに握りしめ、乱暴にジャケットにしまい込んだ。
どうすることもできないのに、どうしてこんな感情にならなけらばいけないのだろう。
僕はただの人形。加奈の前では、加奈の理想でいなければならない。

それが一番のはずなのに、どうしてこうも苛立ってしまうのだろう。





「……周助、変だったわね」
「そうか?いつも通り笑ってたじゃん」
「裕太は相変わらずね。だから周助にいつまで経っても勝てないのよ?」
「なっ!う、うるさいな……。しょうがないだろ」
「最近、特に感情を隠すようになったわね。中学の頃はかなり感情豊かになったと思ったのに……」
「……まぁ、あの頃はテニスで色々とむき出しになること多かったからな」
「怪我でテニスを失って、余計に殻にこもるようになっちゃったわね……。写真のほうでなんとかなればいいのだけど」
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