パーティーも終盤。カメラに収めた写真は、ゆうに千枚は超えてた。
時々、加奈も見にきては誰それを撮ってほしい!とねだって、僕を連れてその人とのツーショットまで撮らされた。
乾とは簡単に挨拶だけして、すぐさま会場の真ん中に戻ると、乾は「なにも変わってないな」と苦笑いした。
「周助!」
ようやく遅れに遅れた姉さんが、壁の花と化してた僕達に気付いて、シャンパンが入ったグラスを持ってやってきた。
「ごめんね、周助。遅くなっちゃって」
「あぁ、姉さん。お疲れ様」
「あら、お友達?こんばんは。姉の由美子です」
「存じ上げております。中学の同級生で乾と申します」
「あぁ!アナタが乾君?周助がお世話になってます。テニス部の子よね?」
「まさかご存知でいらっしゃったとは。光栄です」
「礼儀正しくていい子ね。周助は友人に恵まれてるわ」
「姉さん。もう僕達いい子なんて歳じゃないからね?」
「私にとってはじゅうぶんいい子、なのよ?」
クスクス笑う姉さんをあしらって、加奈に姉さんを紹介しようかと探してる時だった。
会場内で司会の人がこのパーティーの締めのアナウンスをし始める。
加奈のお父さんが壇上で挨拶をし拍手で締め、姉さんと顔を見合わせて挨拶はまた今度かな……なんて話してると、何故かスポットライトが僕達を照らしだした。
「あら、何事かしら?」
「僕はなにも聞いてないけど……」
「えー、それでは!代表取締役社長、松本涼様の妹君である松本加奈様とご婚約者である不二周助様!ご挨拶を賜りたく是非、ご壇上にお上がりください!」
アナウンスが流れた瞬間、胃を縄で締められるような痛みが走った。
やっぱり、ね。タダで帰れるとは思わなかったけど……こういう手に出たか。
こうなってしまえば、加奈と僕の結婚は避けられない。煮え切らない僕に、加奈は強制的な手段を強いてきたんだ。
「おいおい、とうとう財閥の一家に仲間入りかな?不二」
「逃げるな、ってことだろうね」
「周助、大丈夫?」
「大丈夫だよ、姉さん。泥を塗るわけにはいかないからね。行ってくるよ」
カメラを乾に預け、急ぎ足で壇上に向かった。
僕が進む道に、拍手の波が襲いこむ。
壇上では、すでに加奈が今まで見たことがないくらいの、にこやかな笑顔で僕を待っていた。
よそ行きの笑顔。まるで蜂が蜜を求め、凛と咲く一輪の薔薇のような笑顔だ。
「ご紹介に与りました、松本涼の妹、加奈でございます。この度はわたくしの私的なご報告のためにお時間をいただき、誠にありがとうございます。先程ご案内がございましたが、この度、隣にいらっしゃる不二周助さんとの婚約が決まりましたので、このご挨拶を持って発表とさせていただきます」
最初から台本が用意されてるように、すらすらと言葉を紡ぐ。
こんな場面は慣れてるんだろうけど、その嘘の微笑みに何人の人が騙されているんだろう。
フラッシュが僕達を包み込む。あまりの眩しさに目眩が止まらない。
なんて罪の深い人、なんだ。きみは――……。
「なお、本日はご挨拶だけとさせて頂きますので、質疑応答はご遠慮ください。……周助さん、ご挨拶を」
加奈に促され、ホテルの人から向けられたマイク。これを手に取ってしまったら、僕はもう逃げられない。ここから逃げる術もない。
一生、きみの人形でいるんだね。……でも、それでもいいと決めたのは僕自身のはず。
愛情をもてない僕に、きみという名の鳥籠。
「初めまして。駆け出しの写真家で、不二周助と申します。加奈さんとはご縁があり、まずは婚約という形で一緒になることを決断致しました。まだまだ若輩者ではありますが、どうか暖かく見守って頂けると幸いです」
加奈の左手の薬指には、さっきまでなかった贈った覚えのない指輪。
わざわざ左手でマイクを持って、その煌めいた存在をこれでもかと主張している。
もう、戻ることは許されない。
たくさんのフラッシュがたかれる中、僕は心を塞いで加奈が望む婚約者を演じるしかない。
できるだけ笑顔で。できるだけきみを愛してるかのように。
そうして、このまま一生を過ごしていくんだ……。- 22 -*prev | *next *Sitetop*or*Storytop*