ペトルーシュカに花束を

06.



まったく、嫌になるわよね。使えない人って。
こうでもしなきゃ、周助はあたしにプロポーズなんてしてくれないから。

分かってるわよ?あなたがあたしこと、愛してないってこと。そんなの付き合い始めたときから分かってた。
でも、絶対手放したりしてやんない。だって、あたしのステータスだもの。
顔もよくて性格も穏やかで優しくて。あたしのご機嫌取りでワガママもきいてくれて。
そう。自慢の彼氏で、これからは自慢の夫。

まぁ、テニスがダメになったのはちょっと痛かったけど。写真家の妻ってのも悪くないし?

周助は知ってるかしら。あたしのインスタ。あなたのおかげで、すっごいフォロワーもいいねもつくんだから。羨ましがられるの。
これがまた、気持ちいいんだぁ……!
だから指輪にもこだわったわよ?コレ、アップした時が一番すごかったんだから。


「加奈」


パーティーも終わって控え室にいたら、周助が唐突にやってきた。
あら、怒ってるのかしら?珍しい。
そんなに婚約発表を勝手にしたこと、嫌だったのね。しょうがない。知らないフリ、しといてあげる。


「周助、お疲れ様。挨拶よかったわよ?パパ、すごい喜んでた」
「それはさっきお父さんに会ったときに言われたけど。そうじゃなくて……」
「ふふ、コレ?定番はやっぱりティファニーよね。他の人とかぶるかもなーって思ったけど、やっぱり憧れじゃない?」
「そんな勝手に……」
「ダメだった?だってこうでもしなきゃ、周助あたしに結婚してって言ってくれないじゃない」
「…………」
「それに周助、好きにしていいって言ってくれたわよね?あたしの好きにしたんだから、不満はないはずよ?」


ふふ、顔色が変わったわね。いいのよ、一生あたしの籠の鳥でいて。
あたしの籠の鳥でいられるなんて、最高じゃないの。あたし、あなたがやりたいことやらせてあげられるもの。
どんなにお金がかかることでも、ね。

その代わり、あたしも好きにさせてもらうわ。

正直、周助の優しさだけでは物足りないのよね。あたしは刺激もほしいの。
贅沢言ってるって?人は無い物ねだりなのよ。あたしは、その無い物をそのままにしとくような女じゃない……ってだけ。


「……とにかく今度、周助のお父様とお母様に来ていただいて顔合わせしないと。場所はどこがいいかしら?まぁ、決まり次第連絡するわ」
「……指輪」
「なに?」
「本来だったら僕が贈るものなのに、加奈に任せっきりにさせて悪かったよ。こういうときこそ、男がしっかりしなきゃ……ならないのにね」


あら、意外。そんな殊勝なこと言うなんて。
それもあたしにバレないようにするため?あたしを愛してないってことを。

まぁ、いいわ。あたしを愛せないのに、あたしに従順な夫……なんて響き。背中がゾクゾクする。


「いいのよ、周助。だってあたし、あなたを支えるって決めてるんだから。これからもずっと、ね。これくらいのことで目くじら立ててられないもの」
「加奈……」
「好きよ、周助。一生そばにいて?」


周助の首に腕を回す。これはキスしてほしい、あたしからのサイン。
周助は躊躇なく唇を重ねた。もう、あたしの玩具よ?鳥籠に閉じ込めた玩具。

遊んでいいのは、あたしだけ。誰にも渡さないから。
このあたしが認めた玩具なんだから。







周助が疲れたといって帰ってから一時間。
あたしはある男の部屋にいた。


「お前も悪い女、だよなッ!」
「あ、もう……ッ!言った、でしょ?あたしは刺激が……欲しいッ、の……ぉ!」


そう、自分を満たす刺激を求めるの。周助だけじゃあ物足りない。優しすぎて、夜も普通だもの。
スリルを感じるような行為ってないのよね。

もうこの人で何人目かしら?いちいち数えてないけど。でもこの人、体の相性はバツグンなのよね。
周助には家に帰るって言って、夜な夜な会っていたのはこういう人達。家だって今更なにも言わない。だって周助の家にいるって思ってるもの。


「まったく、彼氏がいるっつーのによ!……ッ、彼氏このこと知らないで、お前のこと抱いてるんだろ?!ウケるわ!」
「ン、もっと……!あぁ……ッ!」
「しっかり感じとけよッ!」


ほんっと、気持ちいい……!周助を欺いて、背徳の行為。すっごくゾクゾクする……!
こんなの、手放せるわけがない。麻薬みたいにもっともっと欲しくなる。

そう、だから――……。
次はもっとその歪んだ感情をあたしに見せて?
あたしをもっと、もっと満足させて?
この刺激をたくさん、味わっていたいのよ――……。
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