ペトルーシュカに花束を

11.



連絡先を交換してからというものの、僕は一日に一回は相葉さんに連絡をするようになった。
もちろん、モデルになってくれるかどうかの確認が主だけど。作業工程を聞いたり、今までの作品を写真で送ってもらったり。
今まで白と黒の世界が、急に彩りを持ったような気分だった。

相葉さんの世界観が、僕にとっては本当に新鮮で。作品を見せてもらうだけで、新しい世界のドアを開けたような……まるで小さい頃におもちゃを買ってもらったような気持ち。

小さい子ども、か。陽菜乃みたいだな、僕。

今度、陽菜乃も写真に撮りたいな。もうすぐ産まれる甥っ子も。こないだ実家に帰った時は、そんなことも思いつかなかったのに。
今は心に少しの余裕があるからなのか、アレも撮りたいコレも撮りたいと欲が出てくるようになった。


「ねぇ、周助。今週末空いてる?」


僕がパソコンで写真のデータを確認してると、夕食も終わり暇をもて余してる加奈が、寝転んでるソファから話しかけた。
最近、僕がやたらと外に撮りに行ってることは特に気にも止めてなく、日中いない間はおそらく例の男達と遊んでるんだろう。
夜に会うと、加奈が普段付けない香水の匂いがたまにするから。


「今週末……か。どうして?」
「んもー式場の見学よー!花嫁一人で見学させるつもり?」
「あぁ、そうだね。いいよ。行こうか」
「あたしはハワイがいいって言ったんだけどさ!パパがどうしても国内にしろってウルサイのよねぇ。お兄ちゃんの時は海外で挙げたくせに!」
「心配なんじゃない?」
「きっとアレよー。仕事の付き合いよ!全く、娘の結婚をダシにしないでほしいわ」


僕は結婚式なんて本当にどうでもよくて。
どうせ見学に行っても、僕の意見は通るはずもない。意見を言うつもりもないけど。

そんな見学に行くくらいなら、写真を撮りたい。こんなにモチベーションが上がるのも久しぶりだから、一枚でも多くカメラに収めたいんだ。


「ねぇ。さっきからなに見てるの?」
「え?あぁ……これ?」
「ずーっとパソコンと睨めっこしてるじゃない。珍しいわね」
「今月末納期の仕事があるんだ。それの確認」
「ふーん。……あら?携帯の待受、変えたの?」


いつの間にかソファから僕のいるデスクまでやってきた加奈が、放置されてた携帯を拾い上げる。
僕の待受まで把握済みってどういうこと?と疑問は生まれたけど、それを言ったところでどうにもならないからあえて言わないようにした。


「なにこれ。絵?」
「うん。先月、佐古田さんの母校に行ったときの学生さんが描いた油絵だよ」
「へー美大生が描いたんだ。なんかプロみたいね。あたしこーゆーの分かんないけど」
「上手いよね。僕も絵は詳しくないけど、来年のコンテストの作品でこの絵の写真もいいかなって」
「まぁ、グランプリ取れるならなんでもいいけど。あ、周助。なんか通知きたわよ」
「あ、ごめん。仕事のかな」
「……相葉さんって人から」


カチカチと動かしていたマウスが、一瞬止まる。
別に加奈に対して疚しいことをしてるわけじゃない。なのに動悸が激しくなった。
それを隠すかのように、加奈に微笑みながら振りかえる。


「仕事の確認かな?返してもらってもいい?」
「ん。はい」


加奈は特段気にする様子もなく、僕に携帯を渡してくれた。通知には名前と『お疲れ様です……』とだけ記されていて、これだったら大丈夫かなと変に安心してしまう。

いや、だから疚しいことしてないって。


「それ、時間かかるの?」
「え?あ、仕事?そうだね。できればその見学までには終わらせたいかな。直しもあるかもしれないし」
「あっそ。じゃあ、あたし今夜は帰るわ。早く終わらせてね」


つまらなそうに加奈が荷物を持って玄関に向かうので、慌ててあとを追う。
靴を履いてると、今度は加奈の携帯に着信が入った。多分、男だろう。
少し甘めの声色で応答し、僕の頬にキスをすると「じゃあね」と小声で手を振って部屋をあとにした。
思わず、大きく長いため息が漏れた。
こんなに緊張したのは、いつぐらいぶりだろう。緊張する様なこと、してないハズなのに……。

この気持ちがどういうことなのか、今の僕には分からない。
でも、分かってもいけないような気がする。

僕は気持ちを切り替えるように、相葉さんからの連絡に目を通した――……。
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