「あ!不二さん!こっちです!」
「お待たせ。ごめんね、少し遅くなっちゃった」
「いえいえ。全然ですよ」
先々週、相葉さんからもらった連絡は『絵の題材を一緒に探して欲しい』という内容だった。
どうやら秋の芸術祭とは別に、課題で与えられた絵のほうが手付かずで思い悩んでるとのことで。
僕が一緒でよかったの?と聞いたとき、彼女は「不二さんにとっても、なにかのヒントになればなって思ったんです」と言ってくれた。
気分転換にもなれば……と思い、その誘いを承諾して午後イチに大学最寄りの駅前に集合。
場所は相葉さんが決めてたみたいで、僕はまだなにも知らない。
相葉さんは夏らしい出で立ちで、薄い水色のワンピースにつばが大きめの白い帽子を被ってる。
帽子についた赤いリボンと相葉さんのロングヘアが夏の風にたなびいて、より一層この季節を意識させられた。
初めて会ったときの印象しかなかったから、こんな女の子らしい姿で少し驚いてしまう。
「さて。どこに行くのかな?お姫様」
「ひひ、姫ッ?!!」
「今日の格好、まるでお姫様みたいだから。ダメだった?」
「か、からかわないでください……これくらい普通です!」
「そう?いつもそういう格好のほうが可愛いのになぁ」
「かか、可愛いとかっ!もも、もう!早く!電車乗りますよ?!」
僕の背中をぐいぐい押して、改札を通り抜ける。
電車の行き先からみて、おそらく海……かな?
分かっていても言ったら無粋かな。きっと秘密にしときたいはず。
隣に座る、まだ顔をほんのり赤くしてる相葉さん。目的地に着くまで僕にはなにも話さないつもりのようだ。
「芸術祭のほうの作品は完成したの?」
「んー……八割ってとこですかね?あとは納得できるまでなんとかします。それよりも……夏休みの課題のほうがヤバくて……」
「あぁ、言ってたヤツは夏休みのだったんだ」
「就活組は多少融通が効いてるみたいなんですけど。あたしは違うので……」
「就職しないの?」
「あたしはどっかの職に就くタイプじゃないって先生にも言われてて。自覚はあるんですけど。やっぱり画家になりたいなって」
「相葉さん、ちょっとズレてるもんね」
「どっ!どういう意味ですか!」
「あはは。職人肌というか、世間に混じらないタイプって感じかな。悪い意味じゃないよ?」
少し頬を膨らませ、納得いかない顔してる。
初めて会ったときも思ったけど、本当にこういう言動一つ一つが小動物みたいで。
自然と笑みが溢れて、思わず頭を撫でてしまう。
それはまるで、飼ってる犬や猫を撫でるかのように。
そうだ。昔はよく英二や越前にしてた気がする。
「ちょ、なんですか!」
「あ、ごめん。なんだか相葉さんがペットみたいで」
「ぺ、ペットって……。あたしは不二さんの犬や猫じゃないんですよ……」
「相葉さんはどっちかと言うと、ハムスターとかリスみたいだよね」
「動物には変わりないじゃないですかっ!」
「アハハ!ごめんごめん。じゃあ、可愛いからついね?」
「じゃあってなんですか!もう!」
ますます頬が膨らみ、更に不機嫌そうな表情。思わず吹き出してしまうぐらい。
膨らんでるその頬を、左の人差し指でつついてみる。尖らせた口から小さく空気が漏れて、相葉さんは顔をまた赤らめて僕を叩いた。
うん。こういうのって、可愛いって表現で合ってるよね?
「もう!からかわないでって言ってるじゃないですかっ!」
「あはは、ごめんごめん。や、なんか相葉さんって面白いから」
「さっきから可愛いとか面白いとか!あたし不二さんのペットじゃないって言ってますよね?」
「本当にごめんね。ふふ、ごめんなさい」
「絶対悪いって思ってないじゃないですか!」
こんなにも自分を飾らないでいられるのは、こないだ会った乾ぶりぐらいじゃないかな。
本当に不思議なコだな……。居心地がいい。そう言っても間違いじゃない。
車窓の景色は、都会の屹立した風景から緑に囲まれ始めた風景に移り変わってきた。
夏の空が高く、雲は白く。コントラストがはっきりと別れてて、このまま吸い込まれてしまいそうな青。
「あ、不二さん。そろそろですよ」
相葉さんに促され、カメラが入った荷物をまとめ始める。
もう、海なんて何年も来ていない。加奈と付き合い始めてからは、ベタつくのが嫌と理由で行く機会も減っていた。
「ほら、海です!海ー!」
「はいはい。そんなにはしゃぐと危ないよ?」- 29 -*prev | *next *Sitetop*or*Storytop*