ペトルーシュカに花束を

13.



初めて会ったとき、とてもキレイな人だと思った。

カメラを向けられ突然のことで真っ白になって、思わずあたしは不機嫌な顔をした。
そのカメラから顔が上がって、あたしは一瞬怯んだんだ。あまりにもキレイな人がカメラを持ってたから。あなたが撮られる側じゃないの?って思ったくらい。身体中に電気が走り抜けたような、なんとも言えない感覚が襲ったんだ。

それくらい、あたしの中で強烈な出来事だった。

そんなあなたが今……あたしの側にいる。


「え?!分かってたんですか?!」
「だって電車の行き先見ればなんとなく」
「うッ!……秘密にしといたら絶対ビックリすると思ったのに……」
「え?驚かそうと思ってたの?」
「あっ!え、えーと……ふ、不二さんスランプって言ってたし、こういう気分転換も必要かな〜って思ったんですけど……。あたしも課題あったし、ちょうどいいかなーって……」
「……そうか。ありがとう。実は海って久しぶりなんだ。嬉しいよ」


ふわりと微笑む不二さんが、どこか影を背負ってるような感じがしてなんとなく胸が痛んだ。
不二さんって、こんな感じで笑う人……なんだ。
出会って数ヶ月。会うのは二回目。気がつけば毎日やり取りはしてたけど、なにも知らないに等しいあたし。
胸が痛むのはなんだろうって不思議だけど、とりあえず目的地の海まで向かうことにした。

向かう間、不二さんの話を色々聞いた。

実は昔はテニスしてたこと。中学の時は全国大会で優勝したこと。プロ目指してたこと。怪我で断念したこと。そして写真が趣味で今の職に就いたこと。辛いものが好きなこと。お姉さんがいて弟さんがいて、弟さんは結婚してて三歳になった姪っ子と産まれたばかりの甥っ子がいること。お姉さんは占い師だってこと。

聞けば聞くほど、もっと知りたいって思った。
あたしには持ってない才能とか境遇とか、どれもが羨ましいと思ったけど、不二さんに言わせればあたしのほうが羨ましいって。

そんなことないけどな。あたし、絵を描くしか能がないもん。
ついでに不二さんみたいな容姿端麗でもないし。
どこにでもいる、普通の平凡な女だし。

そう思ったら、あたしが今こうやって不二さんの隣に並んでいるのが申し訳ない気がした。
並ぶなら同じく容姿端麗な美女でしょ。


「え?相葉さんは可愛いよ?隣に並んでもらえて嬉しいけどな」


そしてサラッとそういうこと言うの。
あたしと頭一個分ぐらいの身長差があるにも関わらず、こんなチビのどこがいいんだか。

海風が、不二さんの琥珀色の髪の毛をサラサラと揺らす。潮の匂いに混じって、なんとなく不二さんの匂いまで運ばれてくるみたい。
夏の空と海と雲と風と。そして佇む不二さん。なんて似合うんだろ。なんてキレイなんだろ。カメラを持ってシャッターを押す不二さんをこのまま閉じ込めておきたい。
本当にかっこいいって言葉がよく似合う。

そんな邪な気持ちを断ち切るかのように、不二さんがあたしのほうを振り向いた。思わず心臓が高鳴る。


「さて。どの辺まで行く?海には入らないんでしょ?」
「えっ?!あ!は、はい!水着は持ってきてないです!」
「ふふ、なに?どうしたの?顔が真っ赤だよ?」


不二さんに言われて自分の顔が赤いことを今、理解した。
え。あれ?んん?!どういうこと?なんで顔が赤くなる?いや、だって。そんな……。

こんなのまるで……恋、してるみたいな。
それってつまり。つまり……。

そう思った瞬間、不二さんの目を見れなくなった。
帽子を深くかぶって俯くしかできない。
顔が熱い。心臓がうるさい。落ち着け。落ち着いて、あたし。

そんな……まだ会って二回目だよ?まぁ、やり取りは毎日してたけど……結構心待ちにしてたとこはあったけど……!

俯く視線の先、不二さんの足元が目に入った。
顔をあげられない。あげたらダメなような気がした。

だからお願い。あげさせないで。
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