ペトルーシュカに花束を

19.



海岸線まで戻ったあたし達は、不二さんが呼んだタクシーに乗って近くのホテルに泊まることにした。
びしょ濡れで震えてるあたし達を見たタクシーの運転手さんは、トランクから出したタオルを座席に引いて「たまにいるんだよね。油断したカップルがびしょ濡れになるの」と少し笑いながらホテルまで運んでくれた。

ホテルでは、不二さんが手馴れた感じで受付をしてくれたんだけど……問題が一つ発生したんだ。


「え?シングル二部屋が無理?」
「はい。大変申し訳ありませんが、この季節お泊まりのお客様が増えておりまして……。ただいま空いておりますのが、キャンセルで出たシングルのお部屋お一つなんです」
「そうか……。そうですよね。いきなり来て泊まる部屋があるだけマシかな。相葉さん、いいかな?」
「へっ?!!」
「簡易ベッドをご用意することもできますが、いかがなさいますか?」
「えぇ?!!」
「あ、じゃあ一応お願いします」
「かしこまりました。……では、お部屋こちらになりますね。ご用意が終わりましたらご案内致します。そちらのロビーでお待ち下さい」
「はいぃ?!」


ちょ、あたしの意見は無視?!いや、言ってもないけど……って選択肢はないんだから仕方ない……と思うけど!思うけど?!
え?ちょっと待って。え?不二さんと同じ部屋泊まるの?え?待って待って待って!急展開過ぎて頭がついていけない!


「まさかシングル一部屋しかないとはね……。二部屋ぐらいどうにかなるかなって思ってたけど、甘かったな」
「はい?!」
「ふ……。どうしたの、相葉さん。さっきから」
「いや!あの!……ふ、ヘッキシュ!!」
「あぁ、冷房効いてて寒いよね。ちょっと待ってて」


鼻がズビーッてなる。うぅ……本当に風邪引いちゃうな、コレ。

不二さんはホテルの人にどうやらタオルをお願いしたみたいで、バスタオルを二枚持ってきてくれた。
一枚はあたしの肩にかけてもう一枚は頭に。
不二さんの琥珀色の髪の毛から小さい雫がポタポタと垂れてるから、あたしが不二さんに渡そうとすると首を横に振ってあたしの濡れた髪の毛を丁寧に拭いてくれた。


「風邪引かせちゃったら大変だから」
「あたし丈夫ですよ」
「じゃあ僕も。これでも普段から体動かしてるからね。それに……」
「それに?」
「こういうときくらい、きみを優先させて?お願い」


う、うわぁぁぁ……ッ!!!

少し首を傾げて優しくみつめる不二さんに、ブワッと身体中からなにかが沸き起こった。一瞬にして顔に熱が集中する。もうなにも言えないし考えられなくて、あたしは思わずタオルで顔を隠した。
……不二さんには見透かされてそうだけど。

数分後、準備が終わって案内された部屋に二人で入る。シングルだけあってこんじんまりとしてたけど、簡易ベッドがあるにも関わらずまぁまぁの広さがあった。
窓の景色は海側を向いてるからか、真っ暗で街中の灯りもあまり見えない。
明日、朝になったらよく見てみよう。きっと綺麗なんだろうな……。

って、なに順応しちゃってんの、あたしっ!


「相葉さん。シャワー先にどうぞ。風邪ひいちゃうから」
「あ、はい。ありがとうございます」
「タクシーの運転手さんに感謝だね。ユニクロまで行ってもらえて」
「本当にそうですよね。慣れてらっしゃる……ハックシュッ!!」
「ほらほら。大変大変。早く早く」
「は、はい〜」


促されるままユニットバスに押し込められた。
確かに体中ベタベタで、乾いたところはポロポロと砂やらなんやら落ちてくる。

はぁ……なんかあたし一人でから回ってる気がする。
そりゃ不二さんは大人だし、色々とご経験がおありでしょうから?こんなことでいちいち反応なんてしないんだろうけど。

でも。あたしもあたしだ。
いくら好きって自覚しても、いきなり男の人と二人きりでホテル泊まるなんて……友達が聞いたら腰抜かすんじゃないかな。

あぁ……どうしよう。

どうすることもできない状況に、あたしはただ自問自答しながらシャワーを浴びるしかなかった。
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