ホテルを後にして、待ち合わせした駅まで相葉さんを送りそのまま家に戻った。もちろん、お金は僕が。相葉さんは別れる瞬間まで「お金……服だって……」と呟いていたけど、そこは聞こえないフリをしとく。
一応、ホテルには今回一人で泊まったことにしといて欲しいとお願いした。念には念を。このホテルは加奈のお父さんが関わってる。昨日の加奈は、何をするか分からないからだ。
家に着いて着替えてから携帯を見ると、その加奈から一件の連絡が入っていた。
『着いたら電話して』
たった八文字だけのその連絡に、僕の胸は何かで縛られたようにギュッと苦しくなる。
頭が痛い。さっきまでなにも感じてなかったのに。
むしろ小さい幸せを噛み締めていたのに。
ふーっと息をもらし、リダイアルで加奈に電話をかけた。
『帰ったの?』
「うん。昨夜はごめんね。今夜はどうしようか?加奈はなに食べたい?」
『……昨日は一人だったわけ?』
「……そうだけど……。どうして?」
『ふーん、あっそ。まぁいいわ。夕方の五時にそっち行くわ。フレンチがいい』
「わかった。店、予約しておくよ」
ワンコールで出た電話は、以外にも呆気なく終わり僕は少しほっとしてしまった。
昨日の怒気のこもった声とは違い、いつものトーンだったけど……一人かどうかなんて今まで聞いたことなかったな。
少し嫌な予感がして、携帯になにか細工でもしてあるのかと調べてみる。みたけど、特になにも不審なものはなかった。そもそも加奈は機械には弱いほうだ。追跡アプリとかGPSとか、そういったものの知識はないに等しい。
携帯の待ち受け、相葉さんの描いた絵。なにかを願うように僕は携帯を握りしめた。
迫りくる時間に、僕は早く行動しなければ……と改めて加奈に別れを告げることをその絵に誓った――……。
夕方五時。加奈は、フレンチレストランにぴったりの装いで時間通りに僕の家にきた。
レストランの予約時間は七時。少し時間がある。
家に上がって開口一番、加奈は険しい表情で僕の前に手を差し出した。
「ねぇ。撮った写真見せてよ」
「え?」
「海行って撮ってきたんでしょ?見せてくれない?あたし、海なんて行かないから周助の撮った写真、見てみたいのよ」
「それは……」
「なに?見せらんないわけ?」
「…………いや、いいよ。ちょっと待ってて」
女のカン、というものだろうか。昨日からの不機嫌は続いてるようだ。
僕は手入れしたカメラを手にして、加奈へ差し出す。
普段は自分で操作できないと豪語してたくせに、手際よく電源をいれて昨日撮った海の写真をディスプレイで確認し始めた。
「……機械、弱いんじゃなかった?」
僕の質問になにも答えない加奈は、ずっと険しい顔で一枚一枚写真を確認してる。
カメラから聞こえる、写真を送る機械音だけが部屋に響いた。
まるで浮気の証拠を見つけようと粗探ししてるみたいで、今朝みた夢の加奈が頭の片隅でよぎる。
「……本当に海の写真しかないわね……」
「言ったでしょ?海撮ってきたって。あっても海水浴にきてる観光客ぐらいだよ」
「…………ごめんなさい、周助。あたしが勘違いしてたみたい!そうよね。あなたがあたしに黙って誰かと海に行くなんて……ないわよね」
「……そうだね。もし誰か一緒だったら加奈には一言話してから行くかな」
「ふふ、ごめんなさい。じゃあ……行きましょ?昨日は寂しかったんだから、今夜は楽しいディナーにしましょう!」
…………万が一を考えといてよかった。
でもまさか、機械が弱いだなんて嘘だとは思わなかった。『自分という女の子』をどういうふうによく魅せられるか……計算してるところに背筋がゾクッとする。
ズボンのポケットには、相葉さんを収めた写真のデータが入ってるSDカード。
少し手間だったけど相葉さんが写ってる写真、データ保存は別々にしといた。
今すぐ、ここで別れを告げてしまいたい。
ただ、このままだと無一文ですぐ追い出されるだろう。そもそも加奈がすんなり別れてくれるとも思えないし、それこそ相葉さんになにをするか分からない。
――捨てる覚悟はできた。これからはその準備をしなくちゃ……。
僕もきみに嘘を重ねていこう。
ポケットのSDカードを握りしめ、先に部屋を出た加奈のあとを僕は追った――……。- 39 -*prev | *next *Sitetop*or*Storytop*