大学で雫と別れて、次の目的であった実家に向かう。
今日は陽菜乃と先月産まれたばかりの甥っ子、海斗の写真を撮るためだ。
裕太にそのことを話すと、照れながら「兄貴がくると陽菜乃がベッタリなんだよな。まだ来なくていいわ」と言ってたけど、僕が帰ることを実は楽しみにしてるってことは知ってる。
本当、裕太は可愛いよ。いくつになってもね。
実家について写真を撮り、夕飯を終えてみんなが寝室に入った頃。(裕太になんか怒られたけど、ただの照れ隠しだったみたい)
雫が実家に来れなかった今、僕にはもう一個違う目的があった。
「待たせたな、不二」
「あぁ、乾。ごめんね、急に」
「いや、大丈夫だ。ちょうど今夜は暇してたからな。仕事は長引いたが」
「いらっしゃいませ。いつものですか?」
「あぁ、頼むよ」
ここは僕のいきつけのバー。
秘密の話をするにはもってこいの場所でもある。
と言っても、青学テニス部のみんなはここを知っている。みんなのいきつけだ。
さっきバーのマスターが、先日は手塚が大石ときてたって言ってたし、その前はこっそり越前がきてたとも言っていた。(桃に見つかって出ていったらしいけど)
「おまたせいたしました」
カウンター越しにマスターがカクテルを出す。
乾が飲むカクテルはハーブが強いカクテルで、中学の頃考案した乾汁を思い出すって前に桃が言っていたやつだ。
美味しいんだけどね。僕は好きだけど。
「で?なんだ、話って」
「あぁ、実は……ちょっと揉めてて」
「お前が揉め事?珍しいな」
「うーん……。まぁ、ちょっとね。加奈絡みなんだけど」
「なんだ、順風満帆じゃなかったのか?」
「今はそれに程遠いかな……」
ウォッカベースのカクテルを一口飲んで、ジャケットのポケットにしまい込んでた携帯を乾の前に出す。
心なしかニヤニヤしてる乾は意味が分からなそうに携帯を覗き込んで、出されたカクテルをくぃっと飲んだ。
「ちょっと、調べてもらいたいんだ。これ」
「不二の携帯を、か?」
「うん。話せば長くなるから端折るけど、なんか加奈が僕の居場所わかるみたいなんだよね」
「ふーん。監視されてるってこと?」
「僕はあんまり詳しくないからさ。こういうのってやっぱり乾かなって」
「どれどれ」
僕の携帯をもって、スイスイと指が動く。
ちなみにそこから僕のデータを取ろうとしても無駄だからね。乾もその辺りはわかってるだろうけど。
「ん、これか?」
「なにかあった?」
「ここ。どうやら位置情報を発信するアプリのようだな」
「僕、こんなのとったことないよ?」
この携帯を使い始めて、見たことのないような画面から乾がアプリ画面を提示してきた。
この携帯を触れる人は僕以外ではただ一人。
こないだ、機械が弱いフリをしていたことを思い出す。いつからこんなアプリ入れていたんだ。
「これは所謂隠しアプリってヤツだな。浮気調査とかで使うようなヤツ。……なんだ、不二。浮気でもしてるのか?」
「……今は詮索しないで欲しいかな」
「図星かな?まぁ、いいだろう。今は聞かなかったことにしといてやるよ」
「乾の僕のデータ、増えても困るからさ」
「俺は大歓迎だけどなぁ」
すでに空っぽになったグラスをマスターに返した乾は、おかわりで同じカクテルを頼んだ。
それを二口ほど飲んでから、思いついたように「ちょっといい?」と僕の携帯を再度触り始める。
「あぁ、やっぱりな」
「なに?」
「これ、どこにも流通してないやつだな。どっかで見たと思ったら、会社でだ」
「え?加奈のお兄さんの?」
「あぁ。ちょうどアプリ開発の部署に応援で行ったときに見た記憶がある」
「そうか……なるほどね」
「俺も自分で作ってみたくてな。応援も勉強がてら行ったんだけど。趣味みたいなもんだな。お前たちの携帯にこっそり入れとこうと思ってて」
「それ、手塚の携帯に入れたら教えてよ」
「ヤダ」
乾の万能さは今に始まったことじゃないけど、ここまでくるともう別次元のように感じる。
本当に敵に回したくないヤツだ。味方でよかったと思うよ。
そこで不意に思いついた。乾がアプリを作ってるなら……。
「ねぇ、乾。ちょっとお願いがあるんだけど」
「お前のデータをくれるなら考えてもいいんだけどな」
「んー……じゃあ、さっきの詮索しないで欲しい内容でどう?かなり嫌だけど」
「まぁ、冗談だよ。で、なんだ?」
「あのさ………………」
遠くない未来。もしかしたら、このことが役に立つかもしれない。
今は色々と気を回すときなんだと思った。
実はさっき母さんに加奈から電話があったかどうか確認したら、電話なんてなかったと言っていた。
円滑に進むとは思ってないけど、少しでも自分の手の内は多いほうがいい。使わなければそれに越したことはないし。
「……いいよ。お前の頼みだ。できたら連絡するよ」
「ありがとう。今日はおごる」
「おごられるよりも、お前のデータが欲しいなぁ……」
「それは成功報酬としてね。今夜は素直におごられてよ」- 44 -*prev | *next *Sitetop*or*Storytop*